- プロフィール
- 国立大学の情報工学科を卒業後、金融システムに強い中堅SI会社に入社。ノンバンク向けの自社パッケージの開発に携わり、海外勤務も経験。その後、リーベルの支援を受け、大手SI会社に転職。大手銀行への出向を経て、再度リーベルの支援を受けて転職活動に挑み、三菱UFJ銀行への転職に成功。
新卒で入った中堅SI会社では、海外にも自ら立候補して赴任した。帰国後、ユーザー企業に寄り添う開発を求め、最初の転職活動に挑戦。リーベルの支援を受け、大手SI会社に身を転じた。
2社目でもチャンスを逃さなかった。上司から(既存ユーザーである)大手銀行への出向を打診され、迷わず受けた。事業会社での経験はさらなる成長につながった。
そして、その出向が次のキャリアアップへと道を開く。それは、IT業界から脱却し、事業会社そのもので働くこと。リーベルの支援を再び受け、三菱UFJ銀行への転職を果たした。
なぜ、価値のある経験を積み続けることができたのか。なぜ、転職のたびにキャリアアップを図れたのか。成功の要因に迫る。
海外赴任での気付きが転職のきっかけになる
大学卒業後、入社したのは金融系システムに強いSI会社だった。自社パッケージのエンハンスを中心に担当。2年目の秋、自社パッケージの海外展開プロジェクトが立ち上がり、自ら立候補してアジアへの駐在が始まった。それがキャリアでの転機となった。
—— 就職先として金融系に強い中堅SI会社を選んだ理由を教えてください。
Tさん:元々IT業界に興味があったので大学では情報工学科で学び、就職活動時にもその気持ちが変わっていなかったので、IT業界がベストな選択肢だと考えました。その上で、金融は人の生活に密着している領域のひとつであり、特にその中堅SI会社はあるパッケージソフトで地銀への導入が業界トップで、ユーザー企業から多くの要望を集めながら、やりがいのある開発ができるのではないかとか思ったのが、就職先として選択した理由です。入社後はそのパッケージソフトのバージョンアップに携わり、金融の業務知識やITのスキルを積み重ねていきました。
—— 2年目の秋に転機が訪れました。
Tさん:アジア向けに自社パッケージを新規開発する案件が立ち上がり、それに自ら立候補し、拠点となるフィリピンに駐在することが決まったのです。立候補した理由は、国内ではできない経験を海外で得ることによって、社内の中でキャリアアップを図るのに有利になると考えたからです。現地のベンダーを管理しながら開発する案件で、日本とは異なる文化に馴染めるか、あるいは、フィリピン人のエンジニアをうまくコントロールすることができるかなど、多くの不安があったことは事実。しかし、これは自身のキャリアにとってチャンスであると捉え、海外赴任に挑戦する道を選んだのです。
—— 海外駐在はどうでしたか。
Tさん:実は、当初、管理する立場の私への現地メンバーからの報告が不十分になるなど、問題が多く発生した時期もありました。私が英語が苦手だったこともあり、コミュニケーション不足になっていたことも、原因のひとつです。そこで、思い切って行ったのが、仕事以外のプライベートなことやカジュアルな話題を話すことです。フィリピンでは日本のアニメやゲームが人気だったので、そうした話題も自分から話しかけるように心がけました。すると、仕事以外のそんな他愛もない会話によって、現地のエンジニアと交流が生まれ、次第に心を開いてくれるようになり、それと共に報告も適切にされるように変わっていったのです。
—— それは、貴重な体験でしたね。自ら問題を解決するために動いたことが奏功したのだと思います。
Tさん:ただ、同時に国内と開発環境が異なることも実感しました。国内では自分の期待とは裏腹に、パッケージ開発を行う際、ユーザー企業から直接話を聞く機会はほとんどありませんでした。しかし、その海外での開発案件では、顧客が使っている様子を間近で見ることができ、ヒアリングする機会も多かったのです。そうしてユーザー企業の近くで仕事をする中で、実際に見たり、声を聞いたりして開発に反映させるアプローチが、とてもやりがいとなり、モチベーションにつながることに、改めて気付かされたのです。
—— その後、帰国することになり、思いを行動に移す決断をされます。
Tさん:はい。顧客の声を聞いて開発できるような環境を得るため、転職することにしたのです。早速、転職サイトに登録すると、複数のエージェントからスカウトメールが届きました。その中で、自分のレジュメをしっかりと読み込み、私の思いをくみ取った転職先の候補を提案してくれたのがリーベル。リーベルなら的確な支援を受けられると判断し、私は同社の担当者と協力して活動を進めることに決めたのです。
クラウドの第一人者になり、大手銀行への出向も経験
初めての転職活動でパートナーに選んだのはリーベル。心強かったのが、IT業界に詳しいリーベルだからこそ分かる、各社のリアルな情報だ。そうした情報を参考にしながら活動を推進し、見事、大手SI会社の内定を獲得した。
—— リーベルからはどのような支援を受けましたか。
Tさん:履歴書の添削や面接練習など様々なサポートを受けることができましたが、特に私が有益だと思ったのが、各社の企業文化をレクチャーしてくれたことです。これらは求人票からは見えてこない情報で、事前に把握できることによって、職場をイメージするのに非常に役立ちました。その上で、「この会社なら自分の思いを実現できる」と思える数社に応募し、面接の結果、大手SI会社から内定を獲得することができたのです。
—— その大手SI会社を選んだ理由は。
Tさん:上流工程から下流工程まで一気通貫で行っていると言っているSI会社でも、実際は開発や保守の部分をパートナー企業にアウトソーシングしているケースがあります。それに対し、その大手SI会社は要件定義から設計、開発、導入、保守運用まで全工程でプロパーとして参画する点に魅力を覚えました。この会社なら、要件定義で顧客の要望がヒアリングできるだけでなく、保守運用フェーズで課題を聞いて改善することも可能で、自分がやりたかった顧客の近くで仕事をする環境が整っていると考え、入社を決めました。
—— 実際、働いてギャップは感じませんでしたか。
Tさん:ギャップはなく、想定通りの環境でした。私は顧客折衝のメインプレイヤーとして、要望や声を直接聞く立場となり、課題解決に貢献していることを実感する日々を送ることができたのです。一方で、より顧客の課題を解決する方法やスキルを身に付けるため、自己研鑽にも注力しました。具体的に取り組んだことのひとつが、AI(人工知能)を金融系システムに役立てることです。例えば、自社で提供しているパッケージでは貸借対照表と損益計算書を読み込み、処理をする工程がありましたが、大量に送られてくる書類の中から、その2つを抜き出す作業はマンパワーに頼っていたのが実態でした。それをAIの画像認識技術によって識別し、自動的に取り込めないかと模索し、最終的にその仕組みを考案することができたのです。
—— それは実装されたのでしょうか。
Tさん:いいえ、それはアイデアレベルで、実際にシステムに組み込まれることはありませんでしたが、上司に話したところ、「それはとても有用な仕組みだから、対外的に発表してみないか」と促され、私はセミナーで発表することになりました。その一件をきっかけに、社内では「新しいことに取り組む意欲とポテンシャルがある」と評価が高まり、自社パッケージをクラウドサービス化する新規の重要プロジェクトに、私はアサインされたのです。そのプロジェクトにおいても、自宅や行き帰りの電車の中でクラウドの知識に関する自己研鑽を重ね、MicrosoftのAzureの資格をいくつか取得することにも成功。私はAzureの知識については社内で最も詳しい社員のひとりとなり、それがさらに評価を高めることにつながりました。
—— そして、大手SI会社から大手銀行に出向することになります。その経緯は。
Tさん:簡単にいうと、上司から「ユーザー企業に出向することで、顧客そのものの業務ができるようになる。やってみないか」と打診され、受諾したというのが主な流れです。大手銀行の業務を直に見ることができ、新しい金融商品を管理するのにどのようなシステムが必要かといった企画業務に数多く携わることができました。それは、とても貴重な体験で、出向から大手SI会社戻った時はその知見を共有し、ユーザー企業の業務をより深く理解するのに貢献することもできました。
“超上流工程”で働く決心を固め、再び転職活動へ
大手銀行に出向し、ユーザー企業の中に入り、得難い経験を積むことができた。自社に戻り、脳裏によぎったのは、そうした事業会社での業務こそが自分が求めていたキャリアであるという思い。それを形にするため、再び転職活動に向けて立ち上がる。
—— 事業会社への出向の経験がキャリアの方向性を変えました。
Tさん:事業会社の業務は、IT企業の上流工程である要件定義のさらに上に位置するもの。いわば”超上流工程“であり、そこで会社の課題やニーズに向き合い、どうアプローチしていくかを検討し、企画する仕事こそが、自分が求めていた業務であると、その時確信したのです。今までのキャリアで、顧客により近づこうとしてきた私ですが、いよいよ、その顧客そのものである事業会社に移り、働いていこうと決心を固め、再び転職活動に挑むことにしました。
—— 今回もリーベルの支援のもとで進めることになりました。どのような助言を受けましたか。
Tさん 事業会社はIT企業とはそもそものスタンスが異なります。そこで、前回の転職時と同様に、事業会社とはどのような企業文化を持っているのか、基礎的なことから教えてもらうことにしました。リーベルの担当者から教わったのは、事業会社は携わる範囲が幅広く、いってみれば、有益な新規ビジネスであれば領域を問わずトライし、それに必要なあらゆるシステムを開発することが求められるということ。これはまさに私がやりたかったことであり、自分のキャリアアップが実現できる道だと考えました。
—— どのような事業会社に応募しましたか。
Tさん:今回は、金融機関に加え、大手小売業、大手通信会社、大手電機メーカーも応募しています。金融機関は自分の今までの知識や経験が活かせますが、その他のジャンルの事業会社でも、昨今はDX(デジタルトランスフォーメーション)やシステムが関係するサービスが事業化するケースが少なくなく、私のITの知見やスキルを活かして貢献できるイメージを頭にしっかりと描くことができたからです。
—— 今回の転職活動で内定が出た三菱UFJ銀行の面接について教えてください。
Tさん:面接は複数回行われ、どの面接でも基本的には私の実績に対する質問が中心でした。特に評価されたと感じたのは、私がAIやクラウドに関して自己研鑽し、知識やスキルを身に付けてきたことです。Chat GPTをはじめ、ITの世界では新しいツールが続々と登場し、今後もその流れは止まらないと考えています。そうした中、必要なのはそれらの知識をキャッチアップしていく力です。私にはその力が備わっており、そこが高く評価されたポイントのひとつだと思っています。
また、前職の担当業務や経験についても、プラスに評価されたと思っています。新しい金融商品の企画・導入に参画し、案件を担当できた実務経験が、三菱UFJ銀行でも存分に活かせると考えていただけたと思っています。
—— 三菱UFJ銀行の他、大手通信会社と大手電機メーカーからも内定を受けることができました。
Tさん:正直、どの会社を選ぶべきか、とても悩みました。特に、三菱UFJ銀行と大手通信会社は、どちらも業務が魅力的であり、ワークライフバランスも整っている職場。私は自分の子どもも含めた次世代に価値のあるものを残したいと考えており、この点でも、前者であれば金融インフラ、後者であれば通信ネットワークという財産を作って将来に引き継ぐことができます。
ただし、自分の限界に挑戦しようと思った場合、通信会社で一から業務を覚えるより、今まで培った知識を活かせる金融業界の方が、社会によりインパクトを与えられる大きな仕事ができるのではと考えました。
また、企業文化も大きな決め手の一つでした。これからの社会の変化に対応していくためには、個人がその変化をキャッチアップしていくだけでは限界があり、企業自体が変化に対応していく姿勢や文化、制度を持っていることが重要と感じています。最近ではどの企業も「DX」を打ち出していますが、その中身は企業により異なりますし、そもそもDXの定義が難しいと感じることもあります。
DXという言葉に惑わされず、変化をする企業であるかを見極めるためには、企業の過去の取り組みや、企業文化を見ればよいと考えています。DXは特殊なものではなく、これまでも行われてきた改革や効率化の一つの形態だと考えているからです。
—— その点で見ると、三菱UFJ銀行は優位性があると。
Tさん:そう考えます。三菱UFJ銀行も現在DXに力を入れておりますが、以前から、メガバンクの中で最初にパブリッククラウドを採用したり、デジタル技術の習熟度を人事制度に取り入れたりするなど、デジタル技術の積極的な活用や新しいことへ挑戦する風土が金融機関の中でも突出していると感じました。このような企業風土があれば、10年後も20年後も企業として変化をし続けることができるでしょう。そして、その中で自身も変化をし続け、ゆくゆくは業界のリーダーとして先進事例を発信する人材になりたいと思いました。
そうした考えに最終的に行きつき、私は三菱UFJ銀行に転職する決断をしたのです。
新しいことへの挑戦と負けず嫌いな性格
三菱UFJ銀行への転職が決まった。中堅SI会社から始まり、大手SI会社を経て、事業会社へ。就職から10年余りの中で、理想的なキャリアを求めて走り続け、今、そのひとつの答えにたどり着いた。キャリアアップ成功の秘訣は何か。
—— 今回の転職が上手くいった要因は。
Tさん:ひとつは何をしたいのかが明確だったこと。私の場合、事業会社で、IT企業における要件定義の“その上”の仕事がしたいというはっきりとした狙いがありました。そして、もうひとつが、その私の思いを拾ってくれ、実現に導いたリーベルというエージェントの存在です。どちらも欠けていたら今回の転職の成功はなかったと思っています。
—— 海外への駐在、クラウドサービス開発での抜擢、大手銀行への出向。様々なチャンスが巡ってきたこともキャリアアップにつながっています。
Tさん:常に新しいことに挑戦しようとする意欲が、そうしたチャンスを引き寄せているのではないでしょうか。また、自分の「負けず嫌い」な性格も関係していると思います。新しい環境では色々な知識を覚えなくてはならず、うまくいかなかないケースも多々あります。そうした場合でも「絶対に負けない」「最後まで頑張る」という思いで、諦めずに力を尽くしてきました。それが、今の自分のキャリアを形成する原動力になっていると思います。
—— では、転職を考えている方々にひと言メッセージを。
Tさん:私は、最初に就職した会社で、当初、自社の文化が社会の文化だと思っていました。しかし、転職活動をする中で、外の世界には多様な文化があることを知り、一気に視野が広がりました。それを知ったおかげで今の自分があると思っています。きっかけはどこにあるかわかりません。転職活動もきっとそのひとつになります。転職をしなくても、その活動を行うこと自体に大きな意味があり、ご自身に合ったキャリアを見つけるきっかけを掴むためにも、転職活動が良い機会になるのではと考えています。
—— 転職活動自体を行うだけでも、キャリアに良い影響をもたらす可能性が高いということですね。重要な気付きを与えていただき、ありがとうございました。
ライター プロフィール
- 高橋 学(たかはし・まなぶ)
- 1969年東京生まれ。幼少期は社会主義全盛のロシアで過ごす。中央大学商学部経営学科卒業後、1994年からフリーライターに。近年注力するジャンルは、ビジネス、キャリア、アート、消費トレンドなど。現在は日経トレンディや日経ビジネスムック、ダイヤモンドオンラインなどで執筆。
- ◇主な著書
- 『新版 結局「仕組み」を作った人が勝っている』(光文社)(荒濱一氏との共著)
『新版 やっぱり「仕組み」を作った人が勝っている』(光文社)(荒濱一氏との共著)
『「場回し」の技術』(光文社)など。