- プロフィール
- 国立大学の音響設計学科を卒業後、大手ITグループの子会社に就職。音声やセンサーに関連したデータ分析、アルゴリズム検討の様々なプロジェクトに携わる中、AIやディープラーニングの技術を活用した技術研究を経験。その後、大手電機会社に転職し、AIを組み込んだシステム開発に従事。二度目の転職で最先端のAI技術を用いて様々なソリューションを開発するFRONTEOへの転職に成功。
そうした中、身に付ける機会を得たAIやディープラーニングの技術。「もっと極めたい」と一念発起し、一度目の転職で大手電機会社のAIエンジニアに移った。
だが、その会社はこれから事業を立ち上げるフェーズ。自分よりAIの技術に詳しい社員がいないことに入った直後に気づく。
「このままでは求めているキャリアにならない」。そう考え、リーベルと共に目指した正しいキャリアへの修正。結果、再転職でFRONTEOの内定を勝ち取った。
転職のミスマッチの経験から、どのように軌道修正を行い、再転職を成功させたのか。その全貌を語った。
音声やセンサーのシステム開発を数多く経験する中で感じた限界
小学生から高校生までピアノを習い、理系志望で音楽とテクノロジーを両立する学問を学ぼうと入学した音響設計学科。作曲もやれば、音の信号処理の知識も習得する環境で学生時代を過ごした。そして、卒業後は得たスキルを活かせる仕事を求めた。
—— 卒業後に就職したのが、大手ITグループの子会社で、主に音声の信号処理を研究開発する部門でした。
Nさん:志望理由は、学生時代に学んだ音響に関する知識を活かせるのではないかと考えたからです。入社後は、携帯端末向けの音声処理システムや振り込め詐欺検出システム、高齢者の見守り向けの音響センシングシステムなど、様々な研究開発プロジェクトに従事。親会社のメンバーと、基本設計から詳細設計、プログラミング、テストの実施を行う日々を過ごしました。当初はメンバーでしたが、その後、リーダーも担当。データ分析や仮説の構築、あるいは、PoC実施の現場で、短期でソフトウェアを設計、開発し、プロトタイプを作成して改善点を即座にフィードバックするなど一連の工程を、マネジャー兼プレイヤーとして、いくつものプロジェクトで経験してきました。
—— 研究開発で得られた技術は特許として公開され、筆頭発明者として公開された特許は2件、連名発明者では7件に上ります。
Nさん:それだけ様々な技術を研究し、開発してきたということです。リーダーとしても、時には失敗し、それを教訓に事後のプロジェクトで改善したこともあります。例えば、当初はメンバーに作業を任せ、成果物だけをチェックするような管理の方法でした。ですが、そうして過程をあまり重視しないと、ソースコードの保守性が弱かったりして、結局私自身が全てを書き直さなければならないなど、逆に手間が増えることもしばしばあったのです。そこで、その後のプロジェクトでは、事前にどのように作成するのかをヒアリングし、不備があれば指摘しつつ、個々が保守性なども含めて考えながらプログラミングするように意識付けを徹底。そうして過程にメスを入れることで、成果物の品質が良くなり、私の二度手間も解消されたわけです。
—— AIやディープラーニングの技術を身に付け、実際に研究開発を行う経験もされています。
Nさん:徐々に携帯端末の案件が減る中、自分たちが持っている音響の技術を他の分野に活かそうと、最先端のAIを導入して音声分野の強化を図るプロジェクトです。さらに、グループ内の音声に関する技術資産をAIも活用してWeb/API化し、グループの誰もが使えるように基盤を整える案件でもリーダーとして注力。その頃からAIによるエンジニアリングに興味を持つようになりました。
—— リーダーとしてプロジェクトを回す秘訣も身に付け、AIの案件にもいくつか携わり、キャリアは順調のように見えます。
Nさん:しかし、私の中では2つ課題がありました。1つは全ての案件がグループの親会社から依頼されるもので、いわば受託開発会社としての立ち位置であったこと。自らが責任を持って事業を動かしている感覚が乏しく、親会社のメンバーと果たして同じ方向を向いて仕事ができているのかという疑念が生じていたのです。もう1つは、AIをもっと突き止めて自分のキャリアを形成していきたいという願望が芽生えてきたことです。そのためには、AI技術により特化した事業を行っている他の会社に移ることも選択肢なのではないかと考えるようになったわけです。
大手電機会社に転職してAIシステム開発に挑む
子会社という立場からの脱却、さらにはAIを極めたいという思い。33歳という年齢での初めての転職は迷いもあったが、今後のキャリアを考えればここで動かない手はない。こうして最初の転職活動が始まった。
—— ご自身にとっては初めての転職活動。どのように進めましたか。
Nさん:転職サイトに登録し、届いたスカウトメールからエージェントを選び、求人情報の提供を受ける。一般的な転職活動と流れは同じです。しかし、私が依頼したエージェントは特にIT業界に詳しいわけではなかったというのが、後から振り返ると問題点だったと思います。私は就職から10年以上ずっと同じ会社で仕事をしてきており、他にどのような会社があってそれぞれどのような特徴や強みがあるのか、IT業界全体はどうなっているのかなどについて、ほとんど知らない状態でした。本来ならIT業界や個々の会社についてレクチャーを受けた上で、自分のスキルとのマッチングを図るべきでしたが、そのプロセスが抜けたまま、単にAIの事業を行っている会社の求人情報だけが渡され、その中から選んで応募することになってしまったのです。
—— どのような観点で応募先を選んだのですか。
Nさん:AIなどの専門性が一致し、給料が下がらず、比較的大きな名の通った会社。それくらいしか基準を設定できず、社内にAIに詳しいメンバーは多いのか、レベルは高いのか、自分のスキルアップにつながるのかなど、大事な情報は得られずじまいでした。書類選考を経て、面接まで進んだ企業は4社ほどで、その中から大手電機会社が新規に立ち上げる研究開発部門の中のAIエンジニアでの採用が決まり、そこで第2のキャリアを踏み出すことになったのです。
—— 実際、働き始めていかがでしたか。
Nさん:私が配属された時は既に新規事業のプロジェクトがスタートしていました。介護施設向けにAIとにおいセンサーを用いたシステムを開発する案件です。ただし、配属されてから分かったのですが、私以外にAIの実務を経験しているメンバーがいない状況で、本当に一からスキルを習得するというステージでした。私はアルゴリズムを開発するチームのリーダーを任され、メンバーにAIの開発に必要な知見や技術を教えながら、何とかプロジェクトがうまくいくように力を尽くしました。
—— 結果はどうだったでしょうか。
Nさん:尽力したのですが、プロジェクトは迷走しました。音声や映像分野のセンサーは既に開発されており、AIとの相性も良いのですが、そもそもにおいセンサー自体がまだ確立されておらず、AIを用いたにおい検知システムの開発は非常に困難を極めたのです。私の入社以降にAIに詳しい技術者の入社はなく、プロジェクトがとん挫してしまえば、社内でのAIの機運が消え、事業部が無くなってしまうのではないかという危機感を覚えたというのが正直なところです。
—— もし事業部が消滅してしまえば、他の部署に異動となり、全く異なる分野を担当することも考えられます。
Nさん:私はAIのスペシャリストになるために転職したのに、このままでは自分が望むキャリアにならない可能性が高くなります。まだ転職して半年が経った頃だったと思いますが、何か道を切り拓く方法はないかと考え、再度転職活動を挑む決意を固めたのです。
内定を獲得した面接で評価された意外なスキル
前回の活動と同様に転職サイトに登録すると、多数のスカウトメールが舞い込んだ。だが、同じ轍を踏まないために、今回はIT業界に詳しいエージェントを選定することにした。最終的に支援を依頼したのがリーベルだ。
—— なぜリーベルの支援を受けることにしたのですか。
Nさん:IT業界に詳しいエージェントは何社かありましたが、各社と面談した上で最終的にリーベルに決めました。最も大きな理由は、担当者の方が「必ずしも転職することが正解ではない」と言ってくれたことです。それよりも私自身のキャリアを優先して考える中で、転職という選択肢が最適だと思えば、その時は会社を移るべきだというスタンスでした。自分のことを真剣に考えてくれていることが伝わってきました。
—— その後、リーベルの担当者と、応募先の検討が始まりました。
Nさん:実際に話して分かったことは、担当者の方がIT業界にも個々の企業の内情にも非常に詳しいということです。業界全体のトレンド、各企業のAI技術者のレベル、どのような事業を行っており、入社後はどのようなキャリアが想定されるかなど、詳細な説明があり、状況を手に取るように理解することができました。また、私の仕事のスタンスや性格面も考慮していただき、マッチングできる会社を慎重に選定していただけたことも非常に心強かったです。結局、AIの技術力をしっかりと身に付けられ、手を動かして開発ができる事業会社を中心に4社ほど応募することになりました。
—— その中に、今回内定を取得したFRONTEOも含まれていました。
Nさん:FRONTEOはAIを活用したシステム開発や提供に特化した企業で、リーガルテックやBIツール、ライフサイエンス分野でAIソリューションを展開し、大手企業にも導入実績がある会社です。アプリケーション開発実績とAIの知識の両方を持つ人材を求めており、私のキャリアであればマッチングする可能性が高いと考えました。面接時にも実績とスキルについて重点的に質問を受けましたが、特に面接官が興味を示したのが、におい検出システムの開発でした。
—— なかなか困難を極めたプロジェクトです。
Nさん:そうした中でも、私がどのようにプロジェクトを進めたか、中身はどのようなものだったのかという点を深掘りして聞かれ、可能な範囲で答えました。後々伺ったことですが、私の技術力に加えてプロジェクトマネジメント力も高く評価して下さり、入社後もプロジェクトを引っ張れる人材だと判断頂けたようです。その結果無事内定を頂くことが出来ました。
—— 最初の転職先では苦しい状況が続きましたが、それでもあきらめず、最後まで力を尽くしたことが、面接の評価で活きたわけですね。
Nさん:私はまだまだ技術にも触れたいですし、プロジェクトマネジメントだけを志望している訳ではなくそのやり方も決してうまいほうではないと思いますが、それでもできる限り工夫して行ってきたつもりです。前職ではAIに詳しいメンバーはいませんでしたが、事業会社でAIのシステムを作るという願望は形にできたわけですから、自分としても前向きに捉えてチームをけん引しました。そうした姿勢も評価につながったのではないかと考えています。
最も大切なのは、自分が何を重要視するのかを知ること
前職で状況が厳しい中でも、プロジェクトに真摯に向き合ったことが、新たなキャリアを切り拓くことにつながった。今回、転職に成功した要因について、最後に語っていただいた。
—— 今回、自分が思うようなキャリアにつながる転職がかなったのはなぜだと思いますか。
Nさん:最も大きな要因の一つは、自分が何を重要視して仕事を選ぶべきなのかが分かったことです。前回の転職では、どうしても事前に得られる情報が少なかったため、規模が大きかったり世間に広く名前が通っている会社を選びがちでした。しかし、そうした会社で私が求めるAIエンジニアとしてのスキルを高めていくことは、難しい面もあります。つまり、大規模な会社とAIのスペシャリストとしてキャリアを高めることは相いれない条件であることを、リーベルの担当者と話す中で理解することができたのが、大きなポイントでした。大規模な会社とAIエンジニアとしてのキャリアのどちらを選びますかと問われ、規模の大小は関係なく、AIの専門的なスキルを身に付けることを優先することの方が大事だと、キャリアの方向性を落とし込むことができたのです。自身一人の視点でべストなキャリアの方向性を見つけるのは難しく、その点でエージェントの役割は重要だと思います。
—— FRONTEOは大規模な会社ではありませんが、自分のキャリアとして最適だと判断できたということですね。
Nさん:私はずっと大規模なグループや会社で働いてきたため、正直言って私からするとベンチャーとも言える組織で働くことについて考える部分もありました。ただ、面接で面接官の方が、FRONTEOにしかない強みがたくさんあること、多方面から需要があり、今後ビジネスが広がっていくこと、AIのシステムを開発している企業で数少ない医療機器製造販売業の認可を取得している会社であることなどの説明を受け、将来性やポテンシャルの高さを実感し、入社を決めたのです。
—— では最後に、これから転職を目指す方々にメッセージを。
Nさん:自分は一体何を重視して仕事をしたり、選んだりするべきなのか。繰り返しになりますが、自身のベストなキャリアの方向性や条件は、自身の視点だけでは意外と定まらないものです。そのため私も今までは、年収や会社のブランドなどに重きを置いてしまい、結果として選べるキャリアの選択肢を狭めていた気がします。ですが、質問や話し合いによって方向性を整理し、具体化していただけるエージェントと出会い、ようやく自分が本当に望む仕事、職場に必要なものが何か理解することができました。リーベルのような「転職ありき」でないエージェントであれば、気軽に相談できるので、転職するかどうか迷っている段階でも、今後のキャリアを考えるきっかけとして、話をしてみるのも一つの手だと思います。
—— まずは自分のベストなキャリアや本当に重視したいこととは何なのか、一人で見出すのは難しいことでもあるため、方向性を整理し、具体化してくれるエージェントに相談するのも有効ということですね。ありがとうございました。
ライター プロフィール
- 高橋 学(たかはし・まなぶ)
- 1969年東京生まれ。幼少期は社会主義全盛のロシアで過ごす。中央大学商学部経営学科卒業後、1994年からフリーライターに。近年注力するジャンルは、ビジネス、キャリア、アート、消費トレンドなど。現在は日経トレンディや日経ビジネスムック、ダイヤモンドオンラインなどで執筆。
- ◇主な著書
- 『新版 結局「仕組み」を作った人が勝っている』(光文社)(荒濱一氏との共著)
『新版 やっぱり「仕組み」を作った人が勝っている』(光文社)(荒濱一氏との共著)
『「場回し」の技術』(光文社)など。