心理学から学ぶ新・仕事術

現代に生きるビジネスパーソンへ。心理学からアプローチした仕事術をお伝えします。

第14話

目標とのかかわり方を考える

— 目標を通じてモチベーションを高めようとする場合に大事なこと —

先日、侍ジャパンの小久保監督の講演をお聞きする機会がありました。小学校1年生で野球を始めてからこれまでの経験をお話しされた中で何度も出てきたのが「目標」という言葉でした。小久保監督に限らず、野球監督は「目標」という言葉をよく使うように思います。強豪校である横浜高校の渡辺元監督がよく使われる「目標がその日その日を支配する」というフレーズも有名です。

目標の大切さ

何故目標が大事なのでしょうか。それは目標をたてると、目標を達成すべく頑張ることができるからです。言い方を変えれば、人が頑張るためには目標が必要ということになります。心理学でもモチベーションの向上に目標設定が有効だと言われています。ですが、どんな目標でも良いわけではありません。目標設定がモチベーションの向上につながるためには、(1)目標が明確で具体的であること、(2)一定水準の難しさがあること(簡単すぎないこと)、の2つが大切だと考えられています。

目標から目標達成までのスパン

「目標を通じてモチベーションを高めようとする場合に大事なことは、その2つだけではないかもしれない」というのが、私が小久保監督のお話しをお聞きしながら考えたことです。大事なことが3つありそうです。順番に挙げていきましょう。

まず「目標達成までのスパンの適切さ」です。小久保監督は小学校2年生の時に「プロ野球選手になる」と決め、それに向けて努力したそうです。そこから大学卒業までと考えると目標達成までに16年間かかっています。大きな目標を立てて、そこに向かって邁進されたのでしょう。もちろん、「プロ野球選手になる」という大目標に向けて、小目標も持たれていたでしょう。

私はどちらかというと、小目標を細かく設定し、達成したらまた目標を立てるといった目標と目標達成のサイクルを短期間でまわし続けることの方が、大目標を設定するよりもモチベーションがあがります。人によって目標から目標達成までのスパンにも好みがあります。どんなスパンで目標を立てることが、自分のモチベーション向上につながり、かつ目標達成をしやすいか、といった目標達成までのスパンの好みについても自分で確認すると良いでしょう。

達成間近な目標の微修正

次に「目標の微修正」を挙げます。小久保監督は大学3年生の時に「プロ野球選手になれる」と確信し、その時「複数の球団から選ばれる選手になろう」と思ったそうです。この目標変更が自分にとって、とても大きな影響を与えたと話されていました。目標達成が確実になり「あと少し」という時、私達のモチベーションは高まるものです。

一方で、そこでやっと近づいてきた目標が遠のくと、「そこまでやらなくても」とモチベーションが低くなりがちです。つまり達成が見えてきた時にはわき目もふらず目標に突進したくなるということです。

おそらく、小久保監督は引き上げた目標を達成することの自分にとっての意義を理解されていたのでしょう。目標達成が間近になった時に、達成するのはその目標でよいのか、変えるならどう変えるか、変えることによって自分は新たに何を得るのだろうかといった「目標の微修正」が、実は目標達成がもたらす成長の最後の伸びに大きな違いをもたらすのではないかと考えました。

目標が見つからないときのしのぎ方

最後に「目標がない時のしのぎ方」を挙げます。小久保監督は2000本安打を達成されていますが、「2000本を達成した後に目標がなかった。それが引き際につながると実感した。」とお話しされました。「2000本の次の目標を自分で見つけていなかった。」とも語られました。大きな目標を達成した時にその達成感をかみしめながらも、次の目標が出てこないということは誰にでもありうることで、特に「こうしたい」「こうなりたい」をある程度達成してきたミドル期以降のキャリアで経験しがちなことではないでしょうか。

そんな時、「次の目標をどうやって早く設定するか」を考えることも重要ですが、目標がない時のモチベーションの維持方法があると良いのではないでしょうか。目標があることは大切ですが、目標がないとモチベーションがわかないということでは困ってしまいます。目標がない時に、自分はどうやって自分の行動を律することができるのか、もう少し言えば、自分は目標をどう使うのか、そういったことを考えられるとより一層目標の使い方がうまくなるのではないでしょうか。

まとめ

  • 目標を立てる時には、明確で具体的な目標にするだけでなく、自分が達成しやすいスパンも意識しよう。
  • 目標達成が見えてきた時、より一層の成長を目指して目標の微修正を検討しよう。
  • 目標がない時、どうやってモチベーションを維持するのかも考えておこう。

筆者プロフィール

坂爪 洋美
坂爪 洋美
法政大学キャリアデザイン学部 教授
慶應義塾大学大学院経営管理研究科博士課程修了 経営学博士。専門は産業・組織心理学ならびに人材マネジメント。主要な著書は『キャリア・オリエンテーション』(白桃書房、2008年)等。
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