今回は相談を受ける側に焦点をあててみましょう。相談がうまくいくかどうかは、相談を受ける人のスキルに大きく依存すると考えられています。だとするならば、相談を受ける側に求められることは何でしょうか。
キャリアに関する相談の進み方
まずキャリアに関する相談は、(1)「話を聞く。質問しながら理解を深める。」という導入段階、(2)「話を整理する。問題を切り分ける。」という整理段階、(3)「問題を掘り下げる。問題解決に向けて働きかける。」といった展開段階、という3つの段階で進みます。
この段階にそって、望ましい結果につながる相談とするために強調されるのが、(1)相談を受けた側が話を聞くことの大切さと、(2)相談してきた人が、自分で決めることの大切さです。
話を聞くことの大切さ
新任管理職研修などで、「カウンセリング」や「傾聴訓練」といった研修を受けたことがある方もいるでしょう。相談において話を聞くことの大切さを強調する背景には、忙しいビジネスマンはじっくりと話を聞く時間を持ちづらく、「上司(先輩)と部下(後輩)」という関係性では、話を聞く以上に上司が部下に「伝える」ことにコミュニケーションの中心となることがあります。
自分で決めさせることの大切さ
相談は「自分で決めることを支援する」というスタンスに基づきます。「○○した方がいい」「○○しろ」ではなく、「色々対案があるだろうが、最終的には自分で決めよう」というアプローチとなるということです。
自分で決めることを重視する理由には、(1)人は自分で決めたことについてより頑張れる、(2)うまくいかなかった時に「本当はやりたくなかったのに」といった言い訳をさせないようにする、といったことがあります。
「結果として良かった」という出来事
確かに自分で決めることは大切です。ですが、ご自身のキャリアを振り返った時、「自分で選んだわけではないが、今振り返ってみると、自分にとって良い(必要な)経験だった」という出来事は案外存在するのではないでしょうか。つまり、自分で決めることは大切だけれど、自分で決めることが万能とは限らないということです。実際、「ストレッチ経験」と呼ばれる自分が大きく伸びた経験が、自分で選択した経験ではないことが多々あります。
相談につきまとうもどかしさ
数回前のコラムに戻ってみましょう。「キャリアの相談に乗るだけでは、女性が管理職になることは難しいのではないか。」という質問の話をしました。相談の基本的なスタンスに立てば、この質問に対する回答は「管理職になるかならないかは本人の意思の問題。本人の話をじっくり聞き、相談を繰り返した上で『管理職にならない』と自分で決めたのであれば、それを尊重することが大切。」ということになります。
「確かにその通り。だけど・・・」というのが今の私の考えです。「なりたくないのかもしれないが、やってみたらどうだろう」というやや強めの働きかけが相談の中にあっても良いのではないでしょうか。私がそのように考える背景には、「相談を受けている人は、話を聞きながら『やってみたら案外何とかなるのに』と思っているのではないか。それにもかかわらず、話を聞くことや、相手の意思を尊重することを優先しているのではないか。」という疑問があるからです。
もどかしさと向き合う相談者に
相談を受けていると、もどかしさや疑問を感じることが多々あります。「君は間違っている!」と相手に話を切り捨てるのは相談ではありません。ですが「君がいいと思うようにすればいいんだよ」と相手の意思決定を何でも受け入れることも、相談とは言えません。
相談を受けた側が感じるもどかしさや疑問を相談者(相談を持ちかけた人)にフィードバックすることは、相談をより充実させます。相談者の話をじっくりと聞きつつ、話を聞きながら湧き上がるもどかしさや疑問を相談者に伝えること、相談者の意思決定を尊重しつつも、その意思決定に対する自分の意見を伝えることが大切です。
「良い話し手は良い聞き手」だと言われています。良い聞き手を目指しつつ、最終的に良い話し手となることが相談を受ける人に求められることではないでしょうか。
まとめ
- 相談が良い成果につながるかどうかは相談を受ける側の態度やスキルに大きく依存する。
- 相談を受ける側にとって大切なことは「相談者の話をしっかりと聞くこと」と、「相談者が自分で決めることを支援すること」である。
- 相談を受ける側は話をしっかりと聞くだけでなく、話を聞いて感じたことを相談者に伝えていくことも、相談者の意思決定をより良いものにする。
筆者プロフィール
- 坂爪 洋美
法政大学キャリアデザイン学部 教授 - 慶應義塾大学大学院経営管理研究科博士課程修了 経営学博士。専門は産業・組織心理学ならびに人材マネジメント。主要な著書は『キャリア・オリエンテーション』(白桃書房、2008年)等。