前回のコラム「誰に相談するか?」では、相談相手を意図的に社内の人に限定しました。読みながら、「社外の人に相談するという選択肢があっても良いのでは?」と感じられた方もいるのではないでしょうか。今回は社外の人の中から特に「専門家」を取り上げ、「専門家への相談」について考えてみましょう。
私は以前、人材紹介業で転職相談を受けて企業を紹介する仕事、別の会社の心理相談室で主にメンタルヘルスについての相談に乗る仕事をしていました。いずれも「専門家」として相談に乗っていたと言えます。その時の経験から、専門家の強み・弱み、専門家との関わり方のポイントを整理します。
専門性という強み
専門家の強みは、何と言ってもその専門性と経験にあります。例えばメンタルヘルスを専門とするカウンセラーには、メンタルヘルスに関する専門知識と経験、相談業務に関する優れたスキルがあります。転職相談の専門家には、転職活動に必要とされる知識に関する専門性と経験があります。私達は、その専門性や経験に裏付けられたアドバイスを求めて専門家に相談します。
「第三者」という強み
専門家のもうひとつの強みは、「第三者であること」です。以前、転職相談を受け、企業を紹介した方に面接日程を伝えるべく自宅に電話を差し上げたのですが、ご家族に電話を取り次いでいただけないことがありました。後になって、ご家族が転職に反対していたことがわかりました。
誰かが悩んでいる時、その周囲にいる人々も悩んでいます。家族など身近な人であればあるほど「こうしてほしい」「それは嫌」という気持ちが強くなります。例えば「転職しないで今の会社にいてほしい」「(鬱になった人に)早く元気になってほしい」といった希望を持つことです。
第三者である専門家は、「こうした方がいい」「こうしない方がいい」とは考えても「こうして欲しい」「こうしないで欲しい」とは考えません。この違いは、相談する側にとって大きな違いです。
「良く知っている」という身近な人ならではの強み
もちろん家族など身近な人々にも相談相手としての強みがあります。それは「良く知っている」ということです。例えばご両親はみなさんのことを小さい頃から知っているので、専門家以上にみなさんのことを良く知っているでしょう。見方を変えれば、それが専門家の弱みと言えます。
「最近全く元気が出なくて」と心理相談室に来られた方がいました。一方、私の第一印象は「十分元気では?」というものでした。もちろん、話を聞く中で、「以前の自分からは考えられないほど元気がでない」という相談者の話を理解できましたが、相談者が抱えるつらさと私が受けた第一印象のギャップに大いに驚きました。その時から、私は初対面の方に合う際に「自分はこの領域の専門家であると同時に、この人については素人」と自分に言い聞かせてからお会いするようにしています。
自分に興味を持っているだろうか?
同時に、自分が専門家に相談する時に2つのことを心がけています。まず「眼の前にいる私に興味をもっているだろうか?」という点のモニタリングを怠らないことです。どんなに優れた専門家であっても、私自身に目を向けてくれなければ私にとって優れた専門家ではありません。専門家はその知識と経験が故に、「こういうタイプの人はこんな感じ」といった形で私のことを理解してくる可能性があります。経験を踏まえながらも、興味・関心を持って眼の前の私の話を聞いているだろうか、この点を確認することが私にとっての優れた専門家を見分けるポイントであると考えています。
自分のことを正しく伝えられているだろうか?
もうひとつ心がけていることが、私のことを知らない専門家に、わかりやすく私自身のことを伝えることです。なぜならば、私が話したその情報に基づいて専門家は私にアドバイスを提供するからです。自分自身のこれまでの経験、今の悩み、今後の課題について、専門家が理解できるように伝えることは、相談上で起こりうるボタンの掛け違えを最低限にしてくれます。
皆さんも、専門家に相談する際は、専門家を上手に活用する相談になるように、ご自身でできることを考えてみてはどうでしょうか。
まとめ
- 相談相手としての専門家には、(1)高い専門性と経験、(2)第三者という中立的な立場というメリットがある。
- ただし、家族のような身近な人が持っているあなたについての知識は乏しい。
- 専門家に相談する際にも、全てお任せというスタンスではなく、自分のことをわかりやすく伝える等、工夫をすることが良い相談につながる。
筆者プロフィール
- 坂爪 洋美
法政大学キャリアデザイン学部 教授 - 慶應義塾大学大学院経営管理研究科博士課程修了 経営学博士。専門は産業・組織心理学ならびに人材マネジメント。主要な著書は『キャリア・オリエンテーション』(白桃書房、2008年)等。