心理学から学ぶ新・仕事術

現代に生きるビジネスパーソンへ。心理学からアプローチした仕事術をお伝えします。

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第15話

キャリアについて相談することの意味(1)

— 誰に相談したら良いか? —

相談だけでは不十分?

先日、「『女性のキャリア形成、特に管理職登用という点に関してメンター制度では不十分で、スポンサーシップ制度が必要だ』という主張があるが、どう思うか」という趣旨の取材をある新聞社から受けました。「キャリアの相談に乗るだけでは、女性が管理職になることは難しいのではないか。強く自分のことを推薦し、具体的な仕事のやり方を教え、アドバイスをしてくれる人がいて初めて、管理職になる女性が増えるのではないか」という質問だと言えます。

取材を受けながら、キャリアと相談について色々と考えさせられました。この後数回にわたって、キャリアと相談について考えてみたいと思います。今回は、「誰に相談したらよいか」考えてみましょう。

メンター制度とは何か

自社の従業員のキャリア形成支援を目的として導入するメンター制度とは、「上司とは別に指導・相談役となる先輩社員が後輩社員をサポートする制度」のことです。指導・相談役である先輩(メンター)が、後輩(メンティー)と継続的かつ定期的に会い、相談に乗ることで、メンターが仕事上の悩みを解決し、会社や今の仕事上の役割に適応し、より仕事に対して積極的になることが期待されます。「上司以外の先輩と1対1の継続的なコミュニケーション」がメンター制度の中核です。通常は職場も異なる先輩をメンターとするケースが多いです。

上司に相談ではダメなのか?

仕事やキャリアで困ったことが生じた場合に、誰に相談できるでしょうか?「仕事の進め方がわからない」といった場合には上司が適任でしょう。もちろん、「今の仕事が合わない」といった私達が日常的に抱える悩みを上司に相談することは可能です。ですが、相談内容によっては上司に相談しようとすると、「評価にひびくかな」「仕事ができない奴だと思われるかな」といった不安が頭をよぎるのではないでしょうか。相談内容によっては上司への相談は極めてハードルが高くなります。

同僚に相談ではダメなのか?

「上司ではなく同僚に相談すればよいのでは?」と考えますよね。同僚に相談することのメリットは、キャリア段階が似ているので、その悩みをよりわかってもらえることです。自分も似たような経験をしていると、私達は相談をもちかけてきた相手の迷いやつらさに共感しやすくなります。私達が悩みを誰かに相談する際に、「わかってくれる」相手がいることはとても大事なことです。

しかし、悩みや問題を解決しようとする際に、キャリア段階が似ている者同士では、似たような解決策しか出てこない可能性が高いです。相談することで気持ちの面でラクになることは大切ですが、「では、どうしようか?」というこれからの具体策を考えることも同じくらい大事です。

斜め上の存在としての先輩

メンター制度が社内の相談相手として、直属の上司でもなく同僚でもなく、斜め上の存在である先輩が適任だと考えてきたのは、先輩は上司への相談ほどハードルが高くなく、同僚への相談よりも豊かなアドバイスが期待できるからです。

皆さんにも、助けになった先輩や「今まで相談したことはないけれど、この人に話を聞いてみたい」と考えている人はいるのではないでしょうか。私達は会社の制度に頼らずとも、職場での人間関係を通じて、自分自身のメンターを持っています。

誰に相談するか

私達は誰かに相談する時には、何らかの課題や悩みを抱えています。メンター制度は、相談したいこと、相談に期待することによって、相談相手は異なることを教えてくれます。同時に社内で相談相手を探す場合のひとつのアイディアとして、「斜め上の先輩」が有効性を教えてくれます。皆さんの周りには想像以上に豊富な相談相手がいるかもしれません。今困ったことが特にない方も、「何かあったら誰に相談しようかな」と考えてみてはどうでしょうか。それが後々自分を助けることに繋がります。

まとめ

  • 相談の目的は、「自分の悩みや課題をわかってもらう」ことで気持ちをラクにすることと、「悩みや課題へのアドバイスをもらう」ことで問題解決につなげていくことである。
  • 相談したいこと、相談に期待することにより、相談相手は異なる。自分がその相談に何を期待するのかを考えた上で、誰に、何を相談するのかを決めよう。
  • 相談したいことの有無にかかわらず、相談相手の候補者と相談したい内容を考えてみよう。

筆者プロフィール

坂爪 洋美
坂爪 洋美
法政大学キャリアデザイン学部 教授
慶應義塾大学大学院経営管理研究科博士課程修了 経営学博士。専門は産業・組織心理学ならびに人材マネジメント。主要な著書は『キャリア・オリエンテーション』(白桃書房、2008年)等。
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