心理学から学ぶ新・仕事術

現代に生きるビジネスパーソンへ。心理学からアプローチした仕事術をお伝えします。

第10話

自分のストレスに気づく

— 「備えあれば憂いなし」がストレス対策の基本 —

始まるストレスチェック

改正労働安全衛生法により、2015年12月よりストレスチェックと面接指導が義務づけられました(ただし、従業員数50人未満の事業場については当分の間努力義務)。これにより、企業にはストレスチェックを年に1度行うだけでなく、高ストレス者として面接指導が必要と評価された労働者から申出があったときは、医師による面接指導を行うことが義務づけられました。ストレスチェックの集団分析に基づいた職場環境の改善も求められます。

ストレスチェックでわかること

私のところにもストレスチェック用のサイトの案内が大学からきましたので、早速やってみました。具体的にはストレスの原因となる仕事の特徴、ストレスの原因となると同時にストレスからの悪影響から私達を守ってくれる職場の周囲の人間関係の状況、自分が自覚しているストレスの状況などの項目について回答が求められました。

回答し終わると、それぞれについて、高い—低い(良い—悪い)といった傾向が示され、それらを踏まえた一言アドバイスをもらえました。ストレスチェックを受けることで、自分の現状をストレスという観点から知ることができました。

ストレスチェックをどう活用するか

私達はストレスチェックで得た自分自身に関する情報をどう使ったらよいでしょうか。まずは自分のストレス状況に気づくことです。私達は自分のストレス状況をわかっているようで案外わかっていません。ストレスが高いのか低いのかといったストレスチェックの結果からわかることも大切ですが、それだけでなく、その結果に対して自分がどのように感じたかということも大切です。「思ったより低いな」「思ったより高いな」といった結果に対する違和感と言ってもよいでしょう。

確かにこういったチェックリストはストレスに関する情報を提供してくれますが、その情報がすべてとは言い切れません。同時に、皆さん自身がストレスチェックに回答している最中に、少しでも「もしこの結果が上司に知られたらどうしよう」「ストレスに弱いのは嫌だな」といった懸念を持てば、ストレスチェックへの回答はその懸念に左右されます。正しい結果は得られないということです。

「思ったより低いな」という違和感

従って、結果を見てどう感じるかといった点も大切になります。ここでは「思ったより低いな」という違和感を取り上げてみます。「思ったより低いな」という違和感とは「自分はもっとストレスを感じていると思っていたのに結果が低かった」ということです。

ストレスチェックで出てくる質問項目は一般的にストレスが高い際に出てくる感情や行動について聞くものがほとんどです。一方で、皆さんがストレスを感じた時に出てくる感情や行動には個性があるので、もしかしたら一般的な質問項目とは合致しないかもしれません。

そういった場合、ストレスチェックの結果は「ストレスは低い」となるでしょう。また自分がストレスを感じているにもかかわらず、そのことに気づくことが苦手な人もいます。体のどこかでは不調を感じているのに、それをストレスとは認識していないということです。この場合も「ストレスは低い」という結果になります。

このようにストレスチェックの結果にはいくつかの限界があります。ストレスチェックの結果を疑うわけではありませんが、「自分の実感とあっているかな」「本当にそうかな」と結果を見返して、ご自身のストレス状況を正確に捉えるようにしてください。大きく体調を崩してから、「あの時のストレスが原因だった」という後悔が生じないためのストレスチェックです。

セルフケアを考える

ストレスが高い場合には、その状態に対応するために自分で何ができそうか考えるというステップが必要です。ストレス対策は会社にも求められますが、自分自身でもできること(セルフケア)があります。

ご自身のストレス解消法や仕事におけるストレス対策には何があるのか、これまでどんな方法が自分にとって有効だったのかを整理し、自分なりのセルフケアリストを作ってみましょう。
人は苦しくなればなるほど自分自身を守る方法を思い浮かべにくくなります。これを読みながら「自分には必要ない」と思う方も余裕のある今、是非考えてみてください。「備えあれば憂いなし」がストレス対策の基本です。

まとめ

  • まずはストレスチェックを積極的に受けてみよう。
  • ストレスチェックの結果を鵜呑みにせず、ご自身の感想も含めて、正確に自分自身のストレス状況を把握しよう。
  • ストレスチェックの結果を踏まえて、自分でできるセルフケアの案を立ててみよう。

筆者プロフィール

坂爪 洋美
坂爪 洋美
法政大学キャリアデザイン学部 教授
慶應義塾大学大学院経営管理研究科博士課程修了 経営学博士。専門は産業・組織心理学ならびに人材マネジメント。主要な著書は『キャリア・オリエンテーション』(白桃書房、2008年)等。
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