生活の中のサブスクリプション
私の中で、最近訪問が減ったショップが2つあります。レンタルビデオ店とCDショップです。映画と音楽どちらのカルチャーも大好きなのですが、以前に比べると訪問する機会はグンと減りました。Netflixとspotifyがその代わりを果たしてくれていて、その恩恵に肩まで浸かっています。サブスクリプションです。CDやDVDが手元にない代わりに、ストリーミングでコンテンツが提供されてきます。私のようなヘビーユーザーからするとコスト的にも安くなり、且つ製品を保管する場所も不要になるため一石二鳥なのです。そうなると、今後は書籍もサブスクリプション化していきたいなと自宅の本棚を眺めながら考え始めています。モノを集めたいというコレクター意識も、徐々に消えつつあるから不思議です。
世の中に広まるサービス化の流れ
サブスクリプションというと動画や音楽をイメージされがちですが、そういったコンテンツサービス以外にもあらゆる業種でも活用され始めています。よく知られているのは自動車業界です。カーシェアリング事業として、クルマの販売から移動手段の提供へと事業転換を図っています。かつては自動車を所有することにブランドイメージもありましたが、今はあくまで移動手段として必要とされる時代です。自動車以外の交通すべてを網羅したMaaSという考え方もあり、広い意味で移動手段をサービス化しようという取り組みも出ています。製造業でもIoT化が進むにつれ、どんどんサービス化への流れが加速するでしょう。今後、食料品や家具、教育などの分野でもサブスクリプションサービスが浸透していく可能性があると思っています。
IT業界における変化の胎動
IT業界でも、サブスクリプションの波は確実に到来しています。セールスフォースやコンカーといったサブスクリプションで提供しているSaaSベンダーが登場して以来、より一層業界に浸透して来ました。既に、マイクロソフトやアドビはパッケージソフトの会社ではありません。どちらもサブスクリプションでサービスを提供する企業へと変貌を遂げ、業績としても安定しています。今後は、より複雑な基幹システムや業務ソフト等にもサブスクリプション化が適用されていくでしょう。実際にSAPの最新モデル「SAP HANA」では料金形態をサブスクリプション型でも提供し始めています。国産のERPベンダーでも、今後同様の傾向が強くなっていくのではないでしょうか。
エンジニアはどう変わるべきなのか
システムをサブスクリプションで提供されるなら、それに付随して開発するエンジニアモデルも変わってきます。今までは「大規模なシステム」を「長期間」掛けて「ゼロから新規開発」することが、エンジニアとしても評価されてきました。ただ、システムがサブスクリプション化されるなら「小規模な機能」を「短期間」で「継ぎ足しながら開発」する必要が出てきます。既にアジャイル開発やCI/CD等それに適した開発スタイルも定着してはいますが、今後さらに変化が出てくるでしょう。
また、サブスクリプションは導入の敷居が低い一方で、離脱もされやすいという特性を有しています。企業が運用サポートに注力するのは当然で、業界では「サポート」ではなく「カスタマーサクセス」という職種名で呼ばれています。これも、従来型のパッケージ企業やSIerには存在しない概念でした。顧客がサービスに対価を支払ってくれるからこそ、サービスの質を少しでも高める必要があるのです。
エンジニアとしてのサブスクリプション
一方で、システム開発自体をサブスクリプション化するという考え方もあります。ソニックガーデンというIT企業では「納品のない受託開発」と称する月額定額でのシステム開発モデルをはるか以前から行っていました。サブスクリプション型で顧客と関係を結び、本当に必要なシステムだけを開発しています。これもIT業界では異質とされているのですが、今後広まっていく可能性が十分にあると個人的には考えています。
すべての業種、すべてのサービスにサブスクリプションが適用出来るとは限らないでしょう。レストランにも航空チケットにも、健康ランドにもサブスクリプションメニューがあっても不思議ではありませんが、契約したいと思う人はどれぐらいいるでしょう。
その意味では、やはりITサービスやデジタルコンテンツはサブスクリプションのメリットが大きいのは間違いありません。特に注目が集まっているのはゲーム業界と言われています。ヒット頼りの不安定な収益モデルより、定額課金の安定した課金サービスの方が企業としてもメリットが大きいとも言われています。
価値観の変化が社会を変える
このコラムは『サブスクリプション』という本を読み、自分なりに考えたことを記載しています。実はこの本は2年前に購入していたのですが、その時には正直あまりピンと来ていませんでした。おそらくその時には、まだ自分の中でまだサブスクリプションの価値観を理解出来ていなかったのだと思います。時が過ぎ、個人でも業務でも利用が増えるにつれて、サブスクリプションの価値観が分かってきたのだと思います。モノを持たない、モノを買わないのがクールとされる時代。その価値観が企業や個人にも根付いたとき、さらに社会の変化が起こるような気がしています。
<参考文献>
『サブスクリプション—「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル—』
ティエン・ツォ 著/ゲイブ・ワイザート 著/桑野 順一郎 監訳/御立 英史 訳