『実るほど頭を垂れる稲穂かな』
辞書には『稲の穂は実が入ると重くなって垂れ下がってくる。学徳が深まると、かえって他人に対し謙虚になることのたとえ』とあります。
このことわざ、年齢を重ねるたびに重みのある言葉だなあという思いが強くなってきます。
仕事柄、様々な年代の方とお会いしますが、年が上になればなるほど、謙虚さが段々失われていく傾向があるように思えます。
謙虚さがないというのは、例えば面接の時の以下のような態度に表れてきます。
- 転職理由を聞かれた時に、過去のマイナス点を認めずカッコイイ言い方をする
- 求人票を読まずに面接を受けにいって、私の経験を生かせますかと面接で聞く
- 会社のことを調べず、志望理由もあいまいなまま面接に臨む
- 『こういう仕事はどうでしょうか』という打診を受けても一切検討しない
- 意欲次第といわれた時に、意欲を出さない
この傾向はまた、年齢だけでなく、一流と言われる企業にいる方、もしくは居たことのある方にも多く見られます。
このような方々は、せっかく掴んだ面接というチャンスを、自らフイにしてしまうのです。エージェントとしては、経験は良いので言い方を変えるだけでよい結果になったかも知れないのに・・・と思ってしまいます。
具体例
どんなシチュエーションで前述のような状況になるのか、もう少し具体的な話をお伝えします。
1. 転職理由を聞かれた時に、過去のマイナス点を認めずカッコイイ言い方をする
例えば、会社業績が下がってリストラ対象となったパターン。転職理由として、「もういまの会社でできることはやり尽くしたから」と話されたりします。
また、例えば元々入社前から、仕事内容がやりたいことからズレているのは分かっていたのに、年収、知名度、福利厚生、残業時間などで転職先を決めてしまい、入ってみてやっぱり後悔するパターン。「入ってみたら事前に聞いていた話と違う仕事だった」と話されたりします。
もしその理由が本当であれば良いのですが、本当でない場合、深く聞かれた時にあやふやな回答になってしまい、面接官を納得させることができなくなってしまいます。
なぜそのような言い方をされるのかと複数の方に聞いたことがあるのですが、「リストラされるようなダメな奴と思われたくないから」「選択ミスなんて恥ずかしくて言えない」ということでした。
2. 求人票を読まずに面接を受けにいって、私の経験を生かせますかと面接で聞く
これも意外によくあるパターンなのですが、所属企業が世間一般的に応募企業より格上の場合、口には出しませんが、知ってるよね、分かるよね、こんな人材が御社に応募してくるなんて有難いですよね、そんな態度で面接に臨む方がおられます。
そして、そういう方が、求人票を読まずに面接に行き、「こんなことをやってきたのだが、なにかいい仕事はあるか。いい仕事があるなら転職を真剣に考える」と自信満々に話されたりします。
確かに、応募企業はその方の在籍企業のことを知っているかもしれませんが、少なくとも目の前に来ている応募者のことは全く知りません。そのような態度で話をされると、面接官も、この人は何様なんだと気分を害してしまわれます。
そもそも面接とは、企業と個人がお互いを知る場であり、お互いのことに興味があることが大前提のうえで面接が行われます。
それにもかかわらず、求人票を読まずに面接に来て、自分に合う仕事があるかといわれると、「あれ、うちの会社にそもそも興味ない?」と思われることは間違いありません。
3. 会社のことを調べず、志望理由もあいまいなまま面接に臨む
「求人票を読まない」と同様ですが、そもそも会社のことすら調べていない方もおられます。そうなると当然、志望理由もどこの企業でも当てはまるようなものになってしまい、面接官も「なぜ当社なのかがさっぱり分からない」となってしまいます。
ここまでのレベルになると無礼千万と言わざるを得ず、如何にスキルの高い方や知名度の高い企業にいる方といえども、企業側から願い下げとなってしまいます。
企業の面接官も暇ではありません。これは社会人としてのマナー違反と言っても過言ではない態度です。
4. 『こういう仕事はどうでしょうか』という打診を受けても一切検討しない
これは本当に勿体ないと思うパターンの一つ。求人要件と応募者の経験や志向が合致せず、でも企業としては何かしら光るものがあるから別職種で検討したいという時に、企業側から別のポジション打診をされることがあります。
その際、改めて考えてみればよいのに、「それは希望していないので辞退します」と言下に提案を断ってしまう方がおられます。
もちろん、提案された職種が希望する仕事にかすりもしないものであったり、単に企業側が人不足なところで採用したいと思って提案してきたものであれば、断って頂いて良いと思います。
ただ、企業から打診されるポジションの多くは、冷静になって考えたらこの仕事もいいな、と思える可能性のあるものです。
それでも即座に断る方は、大抵「妥協しなくても自分には行き先がたくさんある」と思ってしまわれるようで、もしかしたら自分にとって良かったかも知れない可能性を自ら絶ってしまいます。
5. 意欲次第といわれた時に、意欲を出さない
面接の結果として、あと少しだけ企業の求めるレベルに届かない、となった場合に、企業から「少し届かない、でも意欲があれば次に進めたい(内定を出したい)」というお話しを頂くことがあります。
これが一番勿体ないと思うパターンなのですが、そのような話を受けても、「そんなことをするくらいなら見送って貰って構わない」と言われる方がいます。
あと少しだけ、極端な話、嘘でもいいからやる気を見せればよい結果に繋がるかも知れないのに、その一歩の努力ができないのです。
なぜそうなるのか
こうして文章にして読むと、「ばかだなあその人」と思われるかも知れませんが、みなさんが思っておられる以上にこういった話は頻繁にあります。
私どももこのようなことが起こって欲しくないため、気をつけてくださいねと面接前にアドバイスをさせて頂いているのですが、人の性格はなかなか変えられず、結局このような話が後を絶ちません。
なぜ、せっかくのチャンスを自分で潰してしまうのでしょうか。
理由は人それぞれではありますが、傾向として見られるのは、冒頭に書いた「こうべを垂れる」ことができないから、すなわち、変なプライドが邪魔をしてしまっているのではないかと考えています。
年を取ると地位が上がり、頭を下げることが少なくなります。
また、一流企業と呼ばれるところに長くいるほど、頭を下げる機会が少なくなります。
もともと社会人になったころや、それから数年間は、なりふり構わず頭を下げてきたはずです。しかし、そのような状況下に置かれると、人というものは、だんだん頭を下げることが「恥ずかしいこと」「できない人と思われること」と思いこんでしまい、頭を下げることができなくなるようです。そして、最終的に前述のような態度に出てしまうのです。
それでも、その会社にずっと居続けるなら問題はないと思います。ただ、ひとたび転職するとなると、その価値観のまま転職活動に臨めば失敗する可能性が高くなってしまいます。
市場価値というものは、地位や所属企業で決まるものではなく、世の中(企業)から求められるかどうかで決まるものです。そこをはき違えて「自分は市場価値のある人材だ」と思ってしまうと、とたんに前述のようなことが起こってしまいます。
ではどうすればいいか。それは簡単です。自分を特別な存在、高級な人材、三顧の礼で迎えられるべき人材と思わないことです。変なプライドに固執せず、辞を低くし、謙虚に頭を垂れれば良いのです。
私は決して、ヘコヘコしろ、へりくだれ、と言っているわけではありません。ただ相手と対等に、等身大で話してくださればいいだけなのです。
いま転職活動を進めていて、自信があるのに転職活動がうまくいっていない、という方がもしこの記事をお読みになっているのであれば、まずはご自身が頭を垂れることができているかを振り返ってみて頂ければと思います。