COLUMN
コラム:転職の技術
第870章
2018/11/22

社内SEの甘い罠(後編)

— バラ色の環境なんてそうそうない、メリット・デメリットをきちんと知ろう —

同じ顔ぶれで働いていける?

意外に盲点なのが、同じ顔ぶれで何年も働いていくことが大丈夫かどうか、という点です。SIerやコンサルティングファームにいると、プロジェクトごとにチームメンバーが変わり、相対する顧客も変わるため、多くの出会いがあることが日常となっています。一方、社内SEになる場合、その企業に長期に在籍をすることになるため、職場の顔ぶれが10年も20年も変わらないことになります。

社内SEになりたい理由の一つに、帰属意識・仲間意識が薄いので事業会社に行きたいんです、という言葉をよく耳にするのですが、よくよく考えると、10年も20年も同じ顔ぶれの組織というのは、恐らく家族以外にはなかなかないのではないでしょうか。凄く仲がよくて何十年も付き合いがある方はいると思いますが、あくまで気の合う人との関係であり、気が合う・合わないに関係なく同じ顔ぶれで過ごしてきました、という経験をお持ちのSEやコンサルタントの方はあまりおられないと思われます。そのため、何十年も同じ顔ぶれということを、現実感を持って想像しろといってもどだい無理な話です。

ではどうすればよいか、ですが、ここは面接等にて、ご自身の感覚を研ぎ澄ませていただくことが大切です。本当に気が合う仲間であれば、家族のように、親友のように長く付き合っていくことが可能です。家族はさておき、親友の方については、初めて会った時からなんとなく気が合いそうだなという感覚を持つことが多いと思います(もちろん、最初は仲が悪かったのにあとで仲良くなった、というのもありますが)。

その感覚は、転職活動および面接においても同じです。企業の方と話をしていて感じた親近感や、逆に感じた違和感などは大体合っていて、良い方も悪い方も、入社後はそれぞれがより顕著に表れてきます。しかし、自分が手が届かないと思っていた企業から内定が出たり、予想もしていなかった年収が提示された場合、どうしてもその魅力に取りつかれてしまい、「多分自分の思い過ごしだろう」とか「何とかやっていけるだろう」と、違和感という臭いものに蓋をしがちです。

ただ、転職をした友人と話したり、何度か転職をしている方とお会いして話をすると、入社前に感じた違和感は入社後に必ず顕在化すると、みな口を揃えて仰います。私も転職を複数回経験していますが、全く同じ感覚を持っています。

それは、事業会社に限らずSIerやコンサルティングファームであっても同じと言えば同じですが、これらの企業では、部門を変える、プロジェクトを変える、など、環境に変化を起こすことで状況を好転させることができます。しかし、社内SEは基本的に異動はなく、プロジェクトも同じメンバーで行わざるを得ません。部門内で人間関係が悪くなっても逃げようがないのです。

そのため、同じ顔ぶれで何年も働いていけるかどうかを確かめるために、選考中に企業の方と会ったときには、ご自身が感じた合う・合わないの感覚を大切にして頂きたいと思いますし、そもそもご自身の性格的に、同じ顔ぶれで仕事をしていくことが合うのかどうかといったところも、改めてご検討頂ければと思います。

身に付くスキルは何か?

社内SEになれば、発注者に振り回されることがなくなるので精神的に楽になるとか、余暇の時間が増えるとか、ユーザとの接点が増えるので業務理解が進むとか、いろいろと夢が膨らんでいきます。しかし、そこで得られるスキルは何かということはよく考えておくべきです。

もちろん、社内SEといってもいろいろあります。自社内でバリバリと開発をしている人を社内SEと呼ぶ場合もあれば、CIOやCTOクラスの方を社内SEと呼ぶ場合もあります。SEやコンサルタントであれば、所属企業が違っていても、肩書きや所属部門を元に大体その担当する業務が想像できるのですが、多くの事業会社においては、もともとIT技術職が存在しなかったことから、その定義や仕事内容が企業ごとに異なります。

最も危険なのは、メッセンジャーとなってしまう社内SEです。多くの社内SEの責務は、自社内のエンドユーザとコンサルティングファームやSIerなどのITベンダーの間を繋ぐこととなりますが、エンドユーザとITベンダーの間に挟まって、特に社内SEとしての強い意志を持つことなく、両者の間で交わされる会話を繋ぐだけの役割になってしまうことが想像以上に多かったりします。

私もコンサルタント時代にさまざまな事業会社と仕事をしてきましたが、意外に大手企業であればあるほど社内SEがメッセンジャーになってしまっていることがよくありました。結局、間にいるとコミュニケーションロス(伝言ゲームによる間違い)やタイムラグが発生してしまうため、社内SEを通さず直接エンドユーザや事業部と打ち合わせをして物事を決定したということも頻繁にありました。その都度、この社内SEは要るのだろうか?むしろ物事を進めるのに邪魔ではないのか?と思ったものです。

もし仮に、コンサルタントやSIerにそう思われてしまうような社内SEになってしまうと、「社内システムエンジニア」という肩書にもかかわらず、システムエンジニアとしてのスキルが高まっていきません。その事業会社に一生しがみついていくのであればそれでも問題はないのですが、いまの時代、自分の意思に反してリストラされたり、事業部ごと子会社になったり売却されたりといったこともあり得ます。そのときに、それまで重要な意思決定をすることがなく、技術をやることもなく、マネジメントも外部会社に任せきりという状態できてしまうと、いざ現職から逃げようとしても逃げ出す先が少なくなってしまいます。

そのため、社内SEを考える際は、そこで身に付くスキルは何なのか?そしてそれは市場価値的に評価されるスキルなのか?ということをよく考えて頂ければと思います。

その事業に思い入れがある?誇りが持てる?

最後に、事業会社を選ぶときに最も重視しなければならない点をお伝えします。それは、その事業に思い入れがあるかどうか、長期に亘って誇りを持ち続けることができるかどうかです。

もちろん、応募をしている以上、その事業に興味があって応募をされているものと思います。ただ、その興味がどの程度かと言うと、案外、強い思い入れがあるわけではない、ということも少なくないのではないでしょうか。

そのような気持ちであっても、求める経験に合致し、ある程度納得のいく志望理由を話せれば、入社できてしまうこともあります。そして、入社して数年はやりがいを感じ続けることもできるでしょう。例えば、新しい技術をやりたいとか、責任と権限を持ってやりたいとか、対応できる幅を広げたいとか、そういった思いを持っての転職であれば、転職する目的をある程度達成することができます。

しかし、何か厳しい状況に陥り、あれ、私はなんでこれを一所懸命やっているんだっけ?と考え出したときに、もし事業に強い思い入れを持っていなければ、「よくよく考えたら、当時の転職目的は達成できたので、ここで頑張る理由はないのでは?」と思うようになります。

また、結婚が見えてきたり、子供が成長してきたときに、この事業に関わってることに誇りを持てるか、胸を張れるのか?というのも結構あるパターンです。表向きはクリーンに見えても、実態は社会的にグレーであったり、社会貢献性の低い事業で成り立っているという企業もあり、表向きの事業をやりたいと思って入社したのに胸を張って語れない事業にどっぷり関わっていると、いまの会社を続けていくのはいかがなものか、と思うようになります。

この場合、当初の転職の目的は達成していますので、その転職自体は成功と言ってもいいと思います。ただ、転職先の企業でずっと働いていきたいという思いがあったのであれば、やはりこれもアンマッチであったと言わざるを得ません。

そのため、事業会社の社内SEを選ぶ際には、その事業に強い思い入れを持てるか、一生をその事業に賭ける価値があるのか、といったことを、ご自身の心に問いかけて頂きたいと思います。

筆者 田中 祐介
コンサルタント実績
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