何のための転職なのか。
コンサルタントとして様々な方の転職のご支援をしていると、時として初めの面談時に言っていた希望とは全く違う企業への入社を決める方がいます。
転職活動は人生において、そう何回もあるものではない為、日ごろ接する機会の少ない情報が大量に流れ込んできます。そうして活動を続けているうちに気持ちが変わる、これは珍しいことではありません。しかしながら、私は転職希望者の方と接している中で、そのような変化に「よい変化」と「好ましくない変化」があると考えています。仕事は人生の大部分を占めるもの、という事は転職とは正に人生の決断とも言うべき事柄です。であるにも関わらず、いざ活動を始めてみるとそれを忘れる事もあるようです。
今回はその「よい変化」と「好ましくない変化」をご紹介したいと思います。それはつまり「本当に進むべきキャリアを見つけた変化」と、「楽な方向へと逃げてしまった変化」になります。
転職活動中に本当の転職理由に気づけたAさんの例
以前お会いしたAさんは、派遣として社内SE仕事をしていました。今の社内SEの仕事は嫌いではなく、職場の人間関係も良好なのですが、Aさんとしてはその後のキャリアに漠然とした不安を感じていました。
その不安の正体が何なのかも分からないまま、Aさんは転職活動を開始し、既に社内SEの企業を数社選考中の状態で私と面談しました。
「より大きな案件に携わって、今のキャリアをブーストさせたいが、今の環境ではそれも難しいのだろう。」
私はAさんの不安の正体、つまり転職理由をこのように考えていました。
初めの提案では現職と同様の社内SE職をご提案していましたが、面談時にAさんが「エンジニアとして・・・」と密かにおっしゃっていた事を思い出し、アプリケーション開発のポジションも提案しました。
初めはAさんも渋い顔をしていましたが、書類を出してみると通過し、そして実際に面接に行き、企業から業務内容や教育体制、その後のキャリアの話を聞きました。
その時、Aさんは初めて自分の中にある本当に転職理由に気づきました。つまりAさんは社内SEとしてではなく、何かを開発するという経験を積む、そうして何かしらの技術を身につけるというキャリアを歩みたかったという事です。その後Aさんは内定を頂きその企業に入社していきました。
このようにAさんは転職活動を通して、自分の中にある本当の転職理由に気づくという変化を経て、望むキャリアの一歩を歩みだす事が出来ました。今までとは違うキャリアに、勇気を出して一歩踏み出す決心がついたようです。
それでは次に「好ましくない変化」としてBさんの例をご紹介します。
転職の為の転職活動になってしまったBさんの例
Bさんは、お客様先にて業務システムの開発に携わっていました。
もともとIT業界を志した理由として、「IT技術でより多くの人を笑顔にしたい」という志望理由でIT業界に入ったBさんですが、「もっとユーザーの反応をダイレクトに感じたい。より世に広がるサービスを提供したい」との思いからWebサービス系の企業への転職を志します。
Bさんとお会いした際に上記の希望を伺い、私は開発言語などがなるべく一致しており、業務システム経験者からでも挑戦可能なWebサービス系の企業を探してご提案しました。BさんはAさんと違い、活動の開始時点でご自分の転職理由をしっかりと把握していました。
当初、私はBさんのWeb系への転職も、技術のアピールや仕事に取り組む姿勢などをアピールすれば、必ずうまくいくと考えておりました。しかしながら、既に複数の企業を受験されていたBさんは、なかなか書類選考や面接に苦戦をしており、迷いが生じ始めたようでした。
数日Bさんと連絡が取れなくなり、「落ち込んでいるのかな。」と心配していたところ、急にBさんから連絡がありました。「ある業務系システムの運用企業から内定を頂いたので受諾します。」というものでした。
勿論、転職において同職種ポジションへの転職はよくある話です。しかし、今回の転職でBさんは本当に自分が希望しているキャリアを叶える事が出来たのか、どうしても心配になったのです。
転職してその企業に入ったとしても、数年後に同じような気持ちが湧いてきて短期転職を繰り返してしまう可能性もある事をBさんにお伝えしましたが、Bさんはその企業へ入社していきました。
活動においてはしっかりとした軸を持とう
以上、二つの例をあげましたが、Bさんの例は何も珍しいものではありません。物事がうまくいかない時、そのような状況下において人はしばしば本来の目的を見失うものです。しかし、そのまま流れに身を任せるか、しっかりと軸を持って転職活動をするかで、その後に満足いくキャリアを得られるかどうかが180度変わるでしょう。
キャリアの為の転職活動なのか、転職のための転職活動なのか、あなたの今の活動はどちらになっているのか今一度よく考えみてはいかがでしょうか。
<国吉 孝野>