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最初から上手く話せる人なんていない
どうやったらうまく話せるようになるのか。多くの方が抱える悩みです。
かくいう私も、SE時代は話すのが苦手でした。早口でまくし立てて誤魔化そうとしたり、話すことをメモに全部書き出して、周りを見ずにメモだけを見ながら話をしていました。
頭に血がのぼり、顔は真っ赤で、話をしている間、誰からも質問がありませんように!と祈り続けていました。質問などあろうものならもうあたふたで、ながながと経緯を話しては怒られ、ずれた回答をしては怒られ、怒られ続けたせいで、ますます発言することに強い苦手意識を持ったものです。
コンサルティングファームでの就業経験を経て、いつのまにかそこそこ話せるようになったため、どうやったら話せるようになったかをいざ思い出そうとしてもすぐには思い出せなかったのですが、改めて当時を思い出し、話せないシチュエーションとその理由を整理してみました。
そもそもなぜ上手く話せないのか
そもそもなぜうまく話せないか、ですが、大きく4つのパターンに分類してみました。日本語だとニュアンスが上手く表現できなかったので、英単語で補足をしています。
① 知識(Knowledge)がない
何か話そうと思っても、そもそも知識がないために話が理解できず、何も話せることがないパターンです。
② 意見(Opinion)がない
話を聞いても、良いも悪いも思わないため、◯◯さん、意見はありませんか、として質問をされても答えられないパターンです。
③ 考え(Policy)がない
自分なりの考えがないため、自発的に話せず、判断を求められても話せないパターンです。
④ 常識(Common Sense)がない
話す内容は思い浮かぶけれども、これは言っていいものなのか、恥ずかしいことなのではないかと思い話ができないパターンです。
想定外(Unexpected)に対応できない、つまり、ある程度の会話の流れを想定していたものの、そこから外れる流れになった時にうまく話せない、というのもあるかなと思ったのですが、恐らく上記パターンが複合的に発生して起こる事象と思ったため、分類からは外しました。
① 知識(Knowledge)がない、への対策
対策はシンプルに、知識を獲得する、となります。知識がなければそもそも何の話をしているかが分からないので、何を話せば良いかも分かりません。話題についていくためには、それが分かるだけの知識を得ることが必要となります。
このパターンで話しができない場合の対策としては、まずは話題に上がっていること、話そうとしていることについて調べ、理解することです。忙しい方だと「時間が取れない」となりがちなのですが、知識がない状態で会話に臨んでも、実りのある時間にはなりません。そのため、忙しいからこそ時間を無駄にしないよう、会話の準備として最低限の知識を得てから会話に臨んでみてください。
知識を獲得するための基本ステップを詳細化すると、まずは浅く狭く、初歩的なところから知識を獲得します。次に、浅いままで良いので知識体系を広げていき、その後、全体的に少し深くし、最後に深掘りすべき知識を集中的に獲得する、というのが王道といえます。
ただ、準備としてどこまでの知識を獲得するかについては、会話の時間までにどれだけの時間的余裕があるかによるのと、話題が、広さを求めるものなのか、それとも深さを求めるものなのかによるため、どのような会話になるのかを予想し、会話に必要なだけの知識の獲得を進めて頂ければと思います。
また、高度な会話が求められる場合は、短時間で必要な知識を獲得することは難しいです。そのため、将来どのような会話をする可能性があるかを広く予測し、ふいに話題が出た時にもある程度の会話ができるよう、日々地道に、いろんなことに興味を持って学習しておくことをお勧めします。
② 意見(Opinion)がない、への対処
知識はあり、相手が言っていることを理解できるとしても、それだけでは会話はできません。会話というものは、お互いの知識を伝えつつ意見を交わすものです。知識があれば話すことはできますし、聞いたことを理解することもできますが、それに対してどう思うかの意見は、知識を持っているだけでは言えません。
意見がない理由の多くは、話題が他人事で関心がないからです。関心があれば、聞いた話から何かをイメージすることができ、それに対して良いのか悪いのか、どのあたりがそうなのかを意見として伝えることができます。
しかし、関心がなければ、話を聞いてもイメージすることをサボります。イメージする力を使うときはそれなりのエネルギーが必要になるのですが、人間は無意識のうちに省エネモードで過ごす生き物のため、関心がないことを聞いた時、言葉や文章は覚えられても、エネルギーをかけてイメージを思い描くことができません。
そのため、良し悪しの意見を求められても、イメージを持っていないため意見がない、という状態となってしまうわけです。
このパターンで話ができない場合の対策は、話題を自分事と捉え、関心を持ち、イメージを頭に描くことです。イメージがあれば良し悪しの感情が湧きますし、その感情の原因を言語化することで、相手に意見を伝えることができます。
ただ、どうしても関心が持てないときもあります。その場合は、話から状況をイメージするだけでも良いです。イメージがあれば何らかの意見が言えますので、まずは関心を持つことにトライしつつ、難しければ、イメージだけでも持つようにして下さい。
③ 考え(Policy)がない、への対処
話が理解でき、意見を言うことができれば、大抵の場合、話ができる、という状態になります。ただ、意見というものは「聞かれたから答える」という受動的なものであり、自分から物事を進展させる必要のある時や、何かの判断を下さないといけないといった能動的な行動を求められる場合に、急に話せなくなることがあります。
なぜそうなるかと言うと、こうしたい、とか、こうなりたい、とか、こうあるべき、といった考えがなかったり、浮かばないことが原因だったりします。
考えも意見の一種なのでややこしいですが、ここでは、自分が描く理想像をもとに話す内容を「考え」と定義します。
「考え」というものをそのように定義した場合、理想像を決めるものは価値観です。価値観というものは個々が意識的にも無意識的にも必ず持つものであり、価値観を自覚的に持つことができれば、話の内容と価値観を掛け合わせてできたイメージを「考え」として話すことができます。
価値観なんて偉そうなものは持ってないよ、という方もおられますが、そんなことはありません。人は生まれてから今までにたくさんの経験をし、たくさんの価値観を形成し、それを元に考えを持ち、話したり判断したりしています。
例えば、道を渡るときに信号が赤だったとします。信号が赤だったら道を渡らない、というのが一般的ですが、ある国に行った時、信号が赤でも車がいなければ渡るものと聞いたことがあります。
なんて国だと思ったものですが、なぜそうしているのかと言えば、信号はそもそも車と人の接触事故を避けるためにあるものであって、車と接触しないことが明らかなら、時間を優先して信号が赤でも渡るべき、という考え方に基づいているとのことでした。
日本とその国の交通量の差があるので、同じ尺度で良し悪しを判断することはできませんが、安全優先という価値観と、時間優先という価値観の違いがここに現れています。そして、このような価値観は、無意識的かも知れませんが、それぞれの人の人生に深く根ざしています。
考えがない、という状況は、価値観が自覚的でない場合に起こるものと思われますので、まずは、自分の中にある価値観を引き出し、言語化して記憶として定着してみてください。言語化することができれば無意識を意識化することができ、利用および再利用可能な状態にすることができます。
意識にないものを言語化するのは難しいですが、自分が何かを思ったり感じたりした時に、それって何でだろう、と問いかけることで、だんだん言語化できるようになります。
また、初期の言語化は浅いレベルの価値観であることが多く、理由は分かってもその根拠が表層に出てきません。そもそもそれってどうあるのがいいんだっけ、と問いを重ねていくことで、価値観が表出し、同時にその価値観に違和感を覚えた場合、価値観を変化させ、より高度な価値観を形成することが可能です。
そこまでたどり着いたら、何かの話題が出た時に、自分の価値観をそれに照らし合わせてみます。そうすると、良し悪し以前の、どうあったら良いのかという自分の考えが湧いてきますし、判断をしなければならない状況となっても、その価値観をもとに思い切った判断をすることができます。
価値観はたくさんあり、場面場面で使用する価値観は異なります。一朝一夕で一気に形成できるものではないことから、普段から、それは何なのか、どう思うか、なぜそうなのか、どうあるべきか、を考えるようにしておくようにしましょう。
④ 常識(Common Sence)がない、への対処
話が理解でき、意見を言うことができ、考えを述べ、判断をすることができても、周りの納得を得られない、という状態になったりします。
自分としてはいろいろと話ができている自覚があるのに、最後の最後で話が噛み合わないとか、周囲の合意を得られない、となった場合、うまく話せたという実感を得ることができません。
なぜそうなるかと言うと、自分の価値観をもとに発信した考えが、一般常識に照らし合わせた時にずれてしまっているからです。
考え抜き、ユニークな考え方を持つことは素晴らしいことです。そのような、他とは違った考え方が、新たな未来を切り拓き、世界を発展させてきました。
ただ、世界をより良い方向に進めてきた考え方というものは、多くの人の価値観に支持されてきています。多くの人の価値観にフィットし、共感を得られ、支持されるものこそが、常識であると私は考えています。
常識と聞くと、「人には親切に」「健康を大切に」といったものを思い浮かべるかも知れません。もちろん、そういった常識も含みますが、ここでは、業界の常識や組織の常識と呼ばれるものも含めて下さい。
それぞれの組織や仕事において、こういうものだよね、こうあるのが普通だよね、というものがあり、そこから大きく外れた考えを話しても、受け入れてもらうことは困難です。
当然、既存の常識に捉われず、より良い姿にするほうが良いので、常識に縛られてしまうのは良くありませんが、考えがあまりにも独特で、常識を大きく逸脱している場合は、ただの常識外れの人、と思われてしまい、話を聞いてもらえない、という状況になってしまいます。
そのため、理解をし、意見を持ち、考えを持ったとして、それでも上手く話せないという感覚がある場合は、話題となっていることへの常識を学ぶようにしてみてください。仮にそれが自分の価値観と異なった常識であったとしても、まずは受け入れ、理解しましょう。
また、常識を知った上で、自分の常識や価値観の方が変だなと思った場合は、思い切って修正するのが良いと思います。個々が持つ常識も価値観も、時代の変化に合わせて常にアップデートしていくべきものと思いますし、それができる人が、「話せる」を続けられる人だと思います。
そして、自分の経験と自問自答だけで価値観や常識をアップデートしていくことは難しいため、普段からニュースや記事、書籍などから意識的にインプットしておくことをお勧めします。
その際の注意点として、自分が好むものだけを集めていてはいけません。独自の考えを強化するだけで、意固地な人が出来上がるだけになってしまうからです。知らなかったことや気付かなかったこと、理解できないと思ったことこそ、インプットとしてふさわしいと捉えて吸収してみてください。そうすることで、新たな世界が広がり、より話せる人になっていくものと思います。