かつて存在したマタギの里から
先日、新潟県の村上市にある「縄文の里・朝日 奥三面歴史交流館」という施設を訪れました。村上市内から車で20分ほど。今は閉村された奥三面(おくみおもて)集落の暮らしぶりが展示されている施設で、以前から訪れてみたかった場所なんです。
この奥三面、かつては日本有数のマタギの里として知られる著名な集落で、当時はドキュメンタリー映画も制作されました。冬は銃を手に雪山へ狩りに出かけ、春には自作した船で漁や山菜取りへ。夏から秋にかけては協力しながら農作物を育てて収穫。山や自然からの恵みをふんだんに受けた生活を、80年代まで変わらずに行っていました。
文化も独特のものが根付いており、お正月やお盆の迎え方、収穫祭など、他で見ることのない独自のしきたりが多数残っていました。当時の奥三面集落は約40戸/150人ほど。この小さな集落の住人たちが、狩りをするにも収穫するにも皆で協力して行います。仕事も生活も、すべて地続き。自然の恵みと厳しさに対峙するべく、その土地の人たちが一体となって仕事をして、生活をして、喜びもつらさも共有した暮らしぶりが、僅か40年前とは思えないほど現代とは隔世の感があるなと思いました。
土着的な仕事で育まれるもの
一方で、はるか昔の人類はこういった自然や周囲と共生しながら生きていたんですよね。
その土地土地に根付いた労働を行い、伝統文化を継承しながら生きていくのが、元々の人類の姿だったんだなとも思うのです。ワークライフバランスという概念とは程遠く、プライベートと仕事の境界も無い。生活そのものが仕事に結びつくのが古来の働き方なんだなと感じます
今の時代、こういった土着的な生活や仕事は稀で、特にIT業界とは対極と言えるでしょう。リモートワークの広がりやフレックスの活用、単身世帯や核家族など、今の時代に土着的な生活をするのは到底無理です。時代に合わせたフレキシブルな働き方が重要なのですが、それでも周囲の人たちと顔を合わせ、協力し合いながら厳しい自然と向き合っていく生活にしかない豊かさもあるなと感じました。その時代や土地でしか育めない、愛情深さがきっとあったはずです。
その後、奥三面からは旧石器時代や縄文時代の土器や石器が多数発掘されました。奥三面には、少なくとも1万年以上前から人類が暮らしていたことになります。この土地で、遥か昔より多くの人たちが自然との共生を続けていたんです。
時代の流れに翻弄される中で
奥三面には、60年代よりダム建設の議論が沸き起こります。長く県との協議を重ねた結果、80年代に村は集団移転を決意。山での仕事と暮らしを捨てることになり、村は湖の底に沈みます。山での仕事に生きがいを感じていた人たちにとって、移転は大きなショックを伴うものでした。
その後、奥三面の多くの人々は村上市内の松山という地区に移住します。瀬波温泉という近くの温泉街で働く方も多くいたようで、山とはまったく違う暮らしに懸命に取り組む姿がドキュメンタリー映画にも収められています。時代の流れで仕事も生活も変わってしまったものの、それに屈せず、前向きに生きてきた姿が記録されています。
奥三面を知ることで、土着的な仕事や生活における豊かさと厳しさを知れただけでなく、そこから離れ、生きる道を再構築することの尊さにも触れることが出来ました。自分達の文化と仕事に誇りを持ちつつ、芯を通して生きてこられた奥三面の方々を今でも思い出しています。