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第1158章
2024/03/15

お見送りを伝える企業の気持ち(後編)

前回のコラムでは、一次面接終了までのお話しをしました。今回は最終面接の話に入っていきます。

最終面接前

一次面接ののちに二次面接があったとしても、基本的には一次面接と同じことを行います。一次面接との違いは、関係者が増えるだけとなりますのでここでは省略します。

最終面接は、最終面接官である私自身も気が引き締まります。自分だけで採用可否を判断するわけではないとはいえ、自分の発言権が強いのは事実。会社と応募者の運命を自分の判断が左右すると思うと気楽ではいられません。むしろ、応募者以上に緊張し、時に、緊張でソワソワしたり、前日の夜は十分に寝られなかったりもします。

そして、できるだけ正しい判断をするために、これまでの面接官から聞いた話をもとに自分なりに確認すべきポイントをまとめ、改めて最終面接で確認しておいて欲しいことも面接官たちに聞き、応募者のレジュメを詳しく確認して面接の場に臨みます。

面接官は、応募者を見定める立場ではありますが、同時に、応募者から、この会社は大丈夫なのか?と見定められる立場でもあります。そのため、発言や振る舞いが失礼のないように気を付けつつ、しかし、聞くべきことは聞くようにします。

また、もし応募者が緊張している時は、緊張を解きほぐすような会話もします。最終面接で緊張するのは当たり前の話です。応募者が緊張しているのを見た時、ダメだな、と思うよりは、このままだとこの人の良さが出てこなくて正しい判断をすることができないと考え、まずは落ち着いて貰おう、という気持ちでアイスブレイクを行います。

そして、話の内容を精査することはもちろんですが、同時に、その人と仕事をしているイメージが湧くかどうかを、面接中、ずっと心に問いかけることをしています。確認や質問をしたときにどう答えるか、雑談に対してどういうリアクションをするか、教えるとなった時に何をどの程度教える必要があるのか、などなど、回答を吟味しながら、自分や自分以外のメンバーと過ごしている姿をイメージします。

また、話しているうちにいろんな感情が湧き上がります。経験はいい、でもなんか違うな、とか、経験は足りない、でもなんかいいな、など、感情が面接の中で目まぐるしく変わり、いいなと思っていても最後の最後でダメだとなることもあれば、難しいかなと思っていたらいきなり来て欲しいという気持ちが芽生えたりもします。

そして、判断がつかないままどんどん時間が過ぎると焦りが出てきます。何の質問をすれば合否を判断できるのかを、質疑応答を続けながら頭をフル回転させて考えます。

面接を受けている人からは見える由もないですが、実は、面接官の頭の中と心の中は面接中ずっと大忙しなのです。

そして、これで合否が判断できそうだなと思ったら、面接を終了します。

最終面接後

最終面接直後、自分の中では合格にしようか、不合格にしようかの方向性は一旦出ています。ただ、良くも悪くも感情が昂っているため、冷静な判断ができないことも自覚しています。

そのため、他の面接官に面接の感想や合否の方向性を共有しつつ、翌日以降に改めて他の面接官や現場のキーマンを招集して話し合います。

面接当日は、面接が終わったあともずっと面接のことを振り返り続けます。あの回答はどうだったのか、全体を振り返った時に違和感はないか、自分のいまの気持ちは正しいのか、感情に振り回されていないかなどを自問自答します。

間違いなく合格と思った時や不合格と思った時も、本当にそれで良いのかを考えます。ましてや迷う時は、何度も何度も面接を振り返って、受け入れることができるかどうかを何度もシミュレーションします。

そんなことを寝る直前まで考え続け、翌朝を迎えることになります。

採用会議

一晩寝て起きると、前日よりは頭がすっきりしています。寝ている間に記憶が整理され、考えるべきことや感じたことが少なくなっているからと思われます。

とはいえ、迷いは迷いのまま残っています。皆の前で何を話すべきかを整理し、採用会議の場に臨みます。

採用会議では、面接の内容を共有します。面接での話を全て伝えるのは聞き手を混乱させてしまうだけなので、ここは良かった、ここは懸念に思った、ということと、それぞれの根拠となる発言や質疑応答の内容を伝えます。

そして、話をしているうちに、良い点と懸念点が徐々にクリアになっていき、だんだん結論のようなものが自分の中で見えてきます。そして、聞き手の質問に答えたり反応したりしているうちに、採用会議に出席している参加者の認識が徐々に合ってきます。

しかし、ここでも合否を改めて検証します。話が仮にネガティブな方向に進んでいたとしても、どうにかして育てられないか?と、育成の可能性を探ります。こういうフォローをすればいいのではないか、この辺を自分で努力して貰えれば何とかなるのではないか、この人を教育係につければ良いのではないか、などなど、なんとか採用することはできないかを議論します。

逆に、話がポジティブな場合も、こういうリスクはないか?ここまで任せられるのか?期待しすぎではないか?なども検討します。採用する場合でも不採用にする場合でも、このように様々な事を検討します。

そして辛いのは、見送りという判断となったときです。最終面接まで残ったくらいの方ですから、何かしら良いものをお持ちなわけです。実はこの人を採用してみたら凄く良かった!という未来もあるのではないか。そんな考えが頭をよぎります。実はもったいない事をしようとしているのでは?この方以上の人が今後応募してきてくれるのか?そんな思いも湧き上がってきます。

また、面接とはいえそれも縁。わざわざ時間を割いて面接に来てくれていますし、しかも、大手でもない当社に対し、熱意を語ってくれているわけです。どんなに朴念仁の私であっても、情が湧かないわけがないのです。

見送りの連絡をしたら悲しむだろうな、落ち込むだろうな、といった想像もします。他に内定が出ている方ならまだしも、そうでなければ、悲嘆に暮れたり、自信を無くしてしまうかも知れません。

しかし、ここで感傷に浸っていてはいけません。悲しみを振り払い、心を鬼にして、申し訳ない気持ちと、良縁に出会って当社に来るより遥かに良い人生を歩んで欲しいという願いを込めて、採用見送りのメールを認めます。

多くの場合、お見送りの連絡に書かれている判断理由はシンプルなので、受け手としては、もともと採用する気がなかったのでは?とがっかりされることもあると思います。

ただ、多くの企業では、このように真剣に選考を行い、葛藤をしながら合否を決めています。そして、お見送りの場合、悲しみと申し訳なさと感謝の気持ちを込めて、さよならを伝えているのです。

面接には、前向きで温かな気持ちで

ここまで書いて、このコラムで私は何を伝えたかったんだろうと改めて考えてみたのですが、一つには、これまで最終面接で見送りとした方々に、結果として見送りの判断をしたのだけれども、これだけ頑張って悩み抜いた結果なんです、ごめんなさい、ということを、何らかの形で伝えたかったのだなということに気がつきました。

また、最終面接で緊張してしまう方に向けて、実は、最終面接官もあなたと同じぐらい緊張し、必死になって面接をしているんだよ、実はあなたと同じだから、そんなにびびらないで落ち着いて臨んでくださいね、ということも言いたかったことの一つでした。

そして、企業は、心から採用したいと思って面接に臨んでいるんだよ、面接でたくさん質問をするのも、いじめたい訳ではなくて、何とか採用する理由を見つけられないかを必死に探しているんだよ、あなたのことを知りたいという純粋な気持ちから聞いているので、そんなに警戒せずに、もっとオープンに話していいんだよ、ということを、面接が苦手と思っている方に知って欲しかったという気持ちもありました。

こんなにたくさんのことが採用企業側ではなされているんだと思うと余計に緊張してしまうかも知れませんが、どの面接官も、見送りにしたくて面接をする訳ではなく、あなたを採用したいという前向きで温かな気持ちで臨んでいます。そのため、面接を乗り切ることに必死になるよりは、人として分かり合いたいな、という、前向きな気持ちで面接に臨んで頂ければと思います。

筆者 田中 祐介
コンサルタント実績
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