選択肢は増えれば増えるほど良いのか?
現在リモートワークやDXの影響でIT人材の需要は高く、求人数もこれまでにないほど多い状況となっています。また、最近ではSIerやWEB系の事業会社のようなIT企業だけでなく、メーカーや金融機関、不動産会社まであらゆる業界でIT人材が求められており、IT人材のキャリアの選択肢は広がる一方です。面談でも今までの経験とは少し異なる領域の求人やより多くの求人を求められることがあり、転職者も自分のキャリアの選択肢を広げようとしていることがよくわかります。
ただ、多くの求人(選択肢)を提示することが本当に転職者にとって良いことなのか?というと、一概にはYesと言えない気持ちがあります。理由は、求人(選択肢)が多くなればなるほど、転職活動の満足度が高まるわけではないからです。さらに心理学的知見に基づいて考えると、逆に満足度は低くなる可能性が高いとさえ考えているからです。
そこで今回は心理学的知見に基づいて、満足度を高められる意思決定方法、とりわけ転職先の決定方法を考えていこうと思います。
意思決定に関する心理学的知見
意思決定(選択)に関する心理学の研究はこれまでに数多くなされてきました。最も有名なのは「ジャム理論」でしょうか。スーパーに6種類のジャムを置いたときと24種類のジャムを置いたときに購買意欲に変化があるのか、選択肢の多さが人間の意思決定にどのような影響を与えるのかを調べた実験です。結果、24種類のジャムを置いた場合には多くの人が試食はするもののほとんど購入はされず、6種類のジャムを置いた場合は試食の人数は少ないものの、試食をした人の多くが購入したようです。つまり、あまりにも多くの選択肢を与えられると人間は選ぶことを諦める、ということが示されています。
また、「選択のパラドックス」と呼ばれる現象もあります。私たちは選択肢が多いことをよしとし、選択の幅を広げることを望む一方で、選択肢が増えれば増えるほど、自分の選択に絶対の自信を持てず、選択後の幸福度が下がる、という現象です。
つまり、選択肢の多さは人間の意思決定に良い影響を与えない可能性が高いとの結果が出ているのです。
意思決定後の幸福度を高める理論
転職活動でせっかく苦労して内定を獲得して入社先を決めたのに、膨大な数の選択肢の中から選択したが故に幸福度が下がってしまっては元も子もないですよね…。しかし、これらの人間の特性さえ知っていれば幸せな意思決定はできると私は思っています。
例えば、ノーベル経済学賞を受賞したハーバート・サイモン氏は“満足化”と呼ばれる意思決定の考えを提唱しています。“満足化”を簡単に説明すると、ある程度以上良いと思えるものが1つでも見つかったら、即それを選ぶ、そして選んだら一切の検討はせずに先に進む、という意志決定方法です。それによって意思決定後の満足度を保つことができるというのです。
内容だけ聞くと当たり前のようにも思えますが、スマホでいつでもどこでも多くの情報を得られてしまう現代では意外と実行できていない方も多いのではないでしょうか。例えば、冷蔵庫を購入する際には比較サイトで徹底的に比較して購入する、さらには購入後も口コミなどを見てしまう方もいるかもしれません。仮に冷蔵庫だったら製品をすべて比べたとしてもそこまで労力はかからないかもしれませんし、多少選択に失敗したと感じても人生に関わる大きな問題にはなりにくいかと思います。
しかし転職活動の場合、IT人材の求人に絞ったとしても1万件以上あり、すべての比較には無理があります。さらに入社後も人生の多くの時間を仕事に割くことになるので、膨大な求人の中から1つを選択したことで幸福度が下がってしまうなんてことは避けたいですよね。
だからといって、満足化の考えを転職活動にそのまま適用し、「この求人ならある程度希望を満たしているので、この1社で勝負しよう!」とするのは少しリスクがあるようにも思います。求人を見るだけでは社風や業務の詳細などわからないことも多いですし、複数社並行して選考を進めたほうが面接慣れもして、選考通過率が高まる側面もあるからです。
そこで、“満足化”の理論の大事なポイントだけを適用した転職活動の進め方を考えてみました。
“満足化”の転職活動への適用
“満足化”の大きなポイントは (1)選択肢を増やしすぎないこと、(2)一度選択したら、それ以降は一切の検討をやめること、の2点です。この2点を意識して転職活動をおこなうだけでも転職活動における満足度は高められるのではないかと思います。
例えば、転職活動における最初の一歩は転職エージェント選びです。一緒に転職活動を伴走する転職エージェント選びも転職先決定の満足度を大きく左右する重要な要素です。ぜひ数社の話を聞いた上で、一番信頼の置けるエージェントに絞ると良いと思います。
そして、まずは求人の目利きである転職エージェントに自分に合った選択肢(求人)を絞ってもらいます。その中である程度以上良いと思える求人が見つかったら受けてみる、というスタンスで数社を選んで選考に進みます。ただし、一度に何十社も選考に進んでしまうと、結局選択肢は多すぎますし、そもそも対策もしきれず、選考に通過できなくなってしまいます。そのため応募の段階で対策できる範囲の社数に抑えておくのもポイントです。
さらに、選考が進んでから内定をもらうまでは内定をもらうことだけを考え、先に進みます。そして内定をもらって初めて、入社すべきかどうかを検討し、転職先を決定する、という流れです。おそらく内定をもらうときには多くても2~3社程度に絞られていますので、あとはじっくりと検討して、最終的な意思決定をするのみです。
また、転職先を決断した後(内定受諾をした後)は口コミの閲覧や知人からの情報収集など一切の検討をやめて、入社に向けて準備を進めることが大事です。
上記のように“満足化”のポイント2点、(1)選択肢を増やしすぎないこと、(2)一度選択したら、それ以降は一切の検討をやめること、を意識するだけでも満足のいく転職先決定を実現できるのではないでしょうか。ただし、これはあくまで小手先のテクニックで、一番大切なのは自分自身の選択を信じて前に進むことです。転職活動では想定通りに進むことばかりではなく、予期せぬ出来事も多々起こるでしょう。理論はあくまでも理論で、現実に適用できないことも多くあります。そんなときは転職活動のプロである転職エージェントに相談してみてくださいませ。
弊社は様々な理論や過去事例も熟知した上で、大手転職エージェントにはできない柔軟な対応までできるのが強みでもあります。満足のいく転職先を見つけたいIT人材はぜひ弊社への相談も一つの選択肢としてお考えいただけますと嬉しいです。