医療システムの進化
このところ医療業界におけるIT活用の流れが強まってきました。かつてはIT活用が遅い代表格として、医療業界は教育業界と並んであげられていたほどで、エンジニアが活躍するフィールドも限られていました。
特に病院はセキュリティを重視する業界特性上、どうしても院内ローカルでデータを保存するオンプレミスシステムが長く使われており、外部接続を良しとしない傾向が強く残っていました。言語もVBなどが依然として使われており、古い環境が今でも現役で稼働しています。その医療業界が、ここに来てDX化が著しく進んでいます。
そもそも市場としては以前から注目を集めていました。高齢化社会の日本において、医療や介護、ヘルスケアといった業界では需要拡大が当然見込まれています。ただ昨今はそれに加えて、コロナによる医療プラットフォームの重要性、クラウドやAIなど先進技術の発達が相まって、現場のデジタル化が増えています。
医療ビッグデータの分析
まず注目を集めているのがデータ分析です。これは患者のカルテを分析することで、新薬の開発や医療現場へのフォードバックが行われ、先進的な医療へと変革できる可能性を秘めています。
昨年NTTデータは大手製薬会社のファイザーと提携し、医療ビッグデータの提供を始めるとプレスリリースを行いました。患者の電子カルテ情報などを匿名加工して分析し、その結果をファイザーへ提供。がんなどの研究に役立てるというスキームになっています。それ以外にもNTTデータは古くから医療業界のデータプラットフォームに関わっており、全国民のレセプト情報を格納する特定健診等情報データベース(NDB)をHadoop/Sparkを活用して構築しています。このデータべースは医療費の適正化に向けた調査や分析などを行う目的で活用されており、高い処理能力とスケーラビリティを併せ持つシステムを同社が構築しています。医療業界向けのデータプラットフォームの構築、データ分析といった需要が増えつつあり、ビッグデータ関連の求人も実際に増えてきています。
医療クラウドサービス
長く院内に閉じていた病院システムも、このところはクラウド化が進んでいます。特にサービスの運営ノウハウとクラウド技術に長けたWebサービス企業が積極的で、医療関連のクラウドサービスを打ち出しています。
例えば日本最大級の医療従事者の専門サイト「m3.com」を運営するエムスリーでは、グループ会社がクラウド電子カルテサービスを運営しています。同社は元々医療業界向けのWebサービスを専門的に運営しており、医療業界での知名度と高い技術力を誇っています。開業医などを中心としたクラウド電子カルテ事業も好調で、導入件数が3000件を突破。実現された診療は延べ7000 万人分に迫ると発表されています。
Webサービス大手のエムティーアイも、現在では医療サービスを多数運営しています。健康情報サイト「ルナルナ」や母子手帳アプリ「母子モ」など、ヘルスケアアプリを複数手掛けており、これまでは紙で管理していた健康情報をすべてスマホアプリ内でコントロール出来るように取り組んでいます。今ではコンシューマーだけでなく、自治体や病院、企業からのニーズにも対応するほどです。
コロナ禍で注目が集まっているのはオンライン診療システムです。医療ベンチャーのメドレーが提供しているオンライン診療サービス「CLINICS」は既に多数の医療機関に加えて、保健所や宿泊療養施設にも提供を行っています。ソーシャルが確保できるオンライン診療に関しては国も積極的に推進しており、市場からの期待も高いサービスです。
これらサービスはいずれもサービス事業者が自ら内製化しており、クラウド環境での開発者やスマホアプリの経験者を積極的に募集しています。
医療用の画像診断
AIを活用した画像診断は、以前から医療の現場で活用されてきました。特に内視鏡に強みを持つオリンパスやコニカミノルタといったメーカーでは、画像処理にAIを適用。専門医のスキルを学習したAIが画像を確認し、病気と疑われる箇所を特定していきます。画像処理に関しては、国内でもトップクラスのエンジニアが在籍しているのがこれら医療メーカーです。
一方で、診断そのものをプラットフォーム上で行うサービスもあります。ドクターネットは遠隔で画像診断を行うサービス「Tele-RAD」を運営しています。画像診断を行う放射線診断専門医は圧倒的に少なく、医師一人当たりで見ても多くの画像を診断しなければならないという偏った構造になっています。同社は診断用の画像を自社プラットフォーム上に保存し、登録している約700名の放射線診断専門医が診断するというサービスを提供。これまでも多数の方々の命を救ってきました。
医療業界でのキャリア
仕事を選ぶ上で「社会に貢献したい」と考える方はきっと多いはずです。特に昨今の状況から、人の命を救う医療業界へ向けたシステム開発にモチベーションを感じる方が増えてきました。
SIer、クラウドサービス、メーカーと立場こそ違いますが、医療業界におけるIT活用も増えています。求人も増えてきましたので、ご興味のある方は、ぜひ挑戦してみてください。