突然ですが、秋山真之という人物をご存知でしょうか。日露戦争の最大の海戦で日本を勝利に導いた海軍軍人で、名参謀と言われる人物です。今回のコラムではこの秋山真之が主人公となっている「坂の上の雲(二)」(司馬遼太郎著)で出てきた下記の名言をご紹介します。
『たとえば軍艦というものはいちど遠洋航海に出て帰ってくると、船底にかきがらがいっぱいくっついて船あしがうんとおちる。人間もおなじで、経験は必要じゃが、経験によってふえる智恵とおなじ分量だけのかきがらが頭につく。智恵だけ採ってかきがらを捨てるということは人間にとって大切なことじゃが、老人になればなるほどこれができない。』
たしかに経験すればするほど智恵はつくけれども、それによって凝り固まった考えしかできなくなってしまったり、余計な思考が働いてしまったりして、うまく進めなくなることもありますよね。もちろん経験をすることは良いことですし、智恵をつけるのも良いことです。しかしそれにとらわれすぎないように意識することもまた大事だということです。
中途採用は経験ベースでの採用となるので、言わずもがな経験は重要です。しかしベテランに限らず、若手であっても、これまでの経験にとらわれすぎて、残念ながら自らキャリアの可能性を狭めてしまっている方もお見受けします。例えば、企業選定において、一度常駐で嫌な目にあったということで常駐はNG、と拒絶してしまうように、偏った経験則によって物事を判断してしまうこともあるのです。経験則そのものは生きるために必要で、すべての物事を経験則で判断するな、というのは無理があります。しかし転職というキャリアを見つめ直すタイミングがせっかく訪れたのであれば、一度頭のかきがらを落として、本当に自分がやりたいこと・できること・すべきことは何なのか、考え直してみると良いのではないかと思います。特に転職エージェントは多くの企業を客観的に見ているプロなので、ときには素直に耳を傾けてみると、可能性を広げられるかもしれません。また、転職活動に限らず、普段の仕事でも一度かきがらを落として物事を考えることで、新しい道が開けてくるかもしれません。
もし何かに行き詰った時には、頭についたかきがらを落として、真っ新な思考で物事を見つめ直してみてはいかがでしょうか。
<参考書籍>
文春文庫『新装版 坂の上の雲(二)』司馬遼太郎著