レコメンデーションの威力
Spotifyのヘビーユーザーになっています。前々から良いとは聞いていたのですが、いざ使い始めるとそのサービス力に圧倒されています。使い始めて半年程度ですが、もう手放せません。これまで経験したことがないほど充実した音楽ライフです。バイト代を握りしめ、中古CD屋でジャケ買いしていた学生時代からは信じられない未来です。
Counterpoint Researchによると、音楽ストリーミングサービスの有料ユーザー数は3億9,400万人。売上高でみるとSpotifyのシェアが最も高く、AppleやAmazonなどを抑えて業界No.1として君臨しています。
Spotifyの凄さは、何よりレコメンデーション力にあると感じます。実は以前に他社のストリーミングサービスを使っていたのですが、比べてみても音質や楽曲数などはそこまで変わりません。UIも好みがあるので良し悪しの判断がつきづらいのですが、レコメンデーション力は驚異的です。私の好みを分析して、お前こんな曲好きだろ?ばりにどんどん知らない曲を提案してきます。それがとてもナイスな曲ばかりなんで、もう怖いレベルです。
レコメンド機能は他社のサービスにもありましたが、かなり質が違うように感じます。他社のレコメンデーションは、アーティストの表面的な繋がりを分析しているようです。同じジャンルや同じ年代、同じ音楽シーンで活動していたアーティストをすすめてきます。Linkin ParkならLimp Bizkit。宇多田ヒカルなら椎名林檎。五木ひろしなら伍代夏子。のような感じでしょうか。(あくまで勝手なイメージです)聴いているユーザーを分析すれば、こういった傾向は分かるのでしょう。
それがSpotifyだと、一見繋がりがないようなアーティストもふいにピックアップしてきます。ただ、聴いてみると自分の好みに合っているんです。どうやら曲調で好みを理解し、レコメンドしているようです。
SpotifyのAIアルゴリズムは曲を音声分析・解読しており、好みに合わせたおすすめをしてきます。なので、初めて聞くのに心地良い曲が多いんです。まったく知らなかったイスラエルのバンドが、今では私のお気に入りです。
AIを享受し過ぎると
一方で、レコメンデーションにも弊害があります。自分の好みから外さなすぎて、新しい刺激と出会うことが少ないのです。これはひとえに、AIが優秀過ぎるからです。レコメンデーションを重宝するがあまり、自分で検索せず受け身でサービスを享受しているとこういう状態に陥ります。
個人的にはもっとイギリスのアーティストを聴きたいと思っているのですが、私のSpotifyは日本の曲を多く提案してきます。普段から日本のアーティストを多く聞いている私に原因があります。たまには爆裂なロックを聴くか!と思っても、普段聞くようなアンニュイなナンバーを提案してきます。自分の好みに縛られて抜け出せず、これがAIに囚われた状態か・・・と日々痛感しています。(それでも最高ですけど)
AIは過去データの集約
『AIに潜む偏見: 人工知能における公平とは』というAIの問題点を扱ったドキュメンタリー映画があります。ある女性研究者が顔認識AIを使っていくと、黒人である彼女の顔をAIはなかなか認識してくれないことが分かってきます。さらに調査するとAIは有色人種よりも白人。女性よりも男性の方が認識しやすいという事実に辿り着きます。
これはつまり、AIが蓄積してきたデータに問題があるのです。AIに偏見が備わっているわけではなく、データが恣意的であったり公平さを欠いていたりするとAIは偏った判断をすることになります。
またアメリカのある学校では教師をアルゴリズムによって評価する仕組みが作られています。この制度自体もなかなかな挑戦的な取り組みですが、結果としても現実とのギャップが発生しています。長年勤務し多くの受賞経験まで持つ優秀な教師が、不当に低い評価をされてしまうのです。これもこの教師の功績が、アルゴリズムでは判断できない外の部分にあるのは明らかです。
AIとどう関わるべきか
AIは蓄積された過去のデータから学習します。つまりAIの実態は自分達の過去データの集約であり、その価値観の中での成功パターンが最適解となっています。言い換えれば、従来の価値観から外れたものはなかなか生み出せません。
一方で、人類の歴史から見ても過去の事例からはみ出たことで成功したイノベーションがたくさんあります。新たな成果を生み出すためには、過去の価値観からあえて逸脱する必要もあるのです。
AIを活用すれば社会も豊かになりますが、すべてをAIに依存しては新たな価値観が生まれません。AIを正しく利用するスタンスが、人間にとって重要になってきたと感じます。