中途採用においてはこれまでの経験を活かして次の企業へと転職するのが一般的です。なかには未経験の職種に挑戦したい人も一定数いるかと思いますが、未経験職種への挑戦には厳しいハードルがあることを理解しておく必要があります。かといって、可能性がないわけではなく、成功させる人ももちろんいます。
成功する人とそうでない人の違いは何なのか、というと、一番に思い浮かぶのは自己学習の差です。エンジニア系職種は資格を取得していると特に書類選考時にアピールできますので、自己学習をされている人は多いのではないでしょうか。未経験職種への挑戦にあたっては入社後に使うことが想定される技術や知識を自己学習で事前に学んでいることはほぼ必須の準備といえます。
一方で、面接時には具体的に業務をイメージできているかどうかの差が成否に大きく影響を与えるのですが、意外と具体的な業務イメージを描けている人は少ないように思います。そこで今回のコラムでは業務イメージができているか否かで面接にどんな差が生まれるかについてお伝えします。
一般的なデータサイエンティストのイメージ
例えば、“データサイエンティスト”という言葉を聞いて、どんな業務をイメージされるでしょうか。
私は最初にデータサイエンティストという職種があると知ったとき、高度な統計知識を有しており、日々難しい数式と格闘している人なのだろうと想像していました。私も大学で統計を学んだことがあったので、データサイエンティストが台頭してきた当時、興味を持った記憶があります。仮に、このときの私が「統計なら少しはできるし、データサイエンティストを目指そう!」と思い立ち、実際の業務をイメージせずに面接を受けた場合、おそらく面接では「入社後は統計知識をさらに磨いて、データ分析のスペシャリストになりたいです!」などと安直なアピールをしてしまったことだろうと思います。
しかし「最強のデータ分析組織」(河本 薫著)という大阪ガスのデータサイエンティストが書いた本を読んでみると、私が当初思い描いたデータサイエンティストの業務イメージは業務全体のなかのほんの一部であることが理解できました。当然、面接で上述のアピールをしても、面接官からは業務をきちんと理解できていないと判断され、見向きもされなかったことでしょう…。
データサイエンティストの実態
さて、本著を読むと、データサイエンティストが数値を分析している時間は業務全体で見てみると実は少なく、それよりも業務部門と関わる時間が多いことがわかります。なぜかというと、データ分析は会社に貢献して初めて価値が生まれるものであって、業務のことや業務部門の担当者が抱えている課題を知らずには分析することもできず、結果的に会社に貢献することもできないからです。
著者の定義ではデータ分析には“見つける”“解く”“使わせる”という3つのステップがあり、数値を分析するのは“解く”のフェーズにあたります。“見つける”フェーズは業務改革につながりそうなデータ分析対象を見つけ出す業務で、“使わせる”フェーズは実際にデータ分析のシステムや分析結果を現場の担当者に使って、業務に活かしてもらうための業務です。“見つける”フェーズや“使わせる”フェーズでは業務部門との連携が重要なのはよくわかりますが、“解く”フェーズであっても数式と向き合うだけではだめで、業務部門と一緒になって進めることが重要とのことです。
また、実際に現場の話を聞いていくと、機械学習を必要とするような高度な分析が求められることはごく稀で、たとえ高度な分析スキルを持っていなくても、業務をきちんと理解し、適切に分析対象を定められるような、業務コンサルティングのスキルを持った人や目的達成のための効果的な問題設定ができる人が活躍できる分野でもあることがわかります。
面接合格のためには業務の実態を知ることが重要
このようにたった一冊の書籍を読むだけでも、データサイエンティストの実態にぐっと近づくことができ、統計知識や分析技術だけをアピールするだけでは物足りないことに気がつくでしょう。元々SEだった方であれば、要件定義ではきちんと業務を理解できるようにヒアリングをしてきたことや、システムトラブル真っただ中の混沌とした状況でも目的達成のために効果的に対策を打ってきたことをアピールしたり、業務部門との連携を意識したキャリアビジョンを語ったほうが面接官に効果的に響くとわかります。
これが業務イメージを具体化できている人とできていない人の差であり、面接に受かる人と受からない人の差でもあります。経験者であれば書籍に頼らなくてもイメージがつくかもしれませんが、未経験者は書籍や実際に働いている人の声を頼りにできる限り実態に近いイメージを膨らませるしかありません。
これから未経験職種への転職に挑戦しようとしている人は希望職種の業務を具体的にイメージした上で面接に臨んで、合格を掴み取りましょう。
<参考書籍>
日経BP社「最強のデータ分析組織」 河本 薫 著