ITプロフェッショナル対談

注目企業の現場に聞く。IT業界経験者のリーベルのコンサルタントが、業界経験者ならではの切り口でキーパーソンにインタビューし、その核心に迫ります。

NRIデジタル株式会社(中編)

NRIデジタルのプロジェクトにフォーカス キャリア採用の人材も手厚くフォローアップ NRIデジタルが考えるDXで重要なこと

前編ではNRIデジタルの会社としての実像を解き明かし、NRIとの協業の実態や事業の住み分けにも言及して理解を深めた。さらに、NRIデジタルのエンジニアの技術力の高さや実際に手を動かして仕事をする機会が多いこと、NRIデジタルの強みにも迫り、競合他社にはない魅力にも触れた。
中編では、リーベルの社長である田中祐介が、再び、NRIデジタルのCTOである柳沢克実氏とシニアシステムエンジニアの西原佑氏に相対する。今回聞くのは、まずはNRIデジタルの具体的なプロジェクトの内容。そして、リモートワークが主体となった働き方の中で、同社に入ったキャリア入社者にはどのようなフォローアップがあるのか、また、自身のスキルを磨いたり成長したりする機会はあるのかとった、入社後のリアルなイメージだ。

プロフィール ※インタビュイーの所属等情報は、2022年6月時点のものです。

NRIデジタル株式会社
CTO
DXエンジニアリング3 シニアマネージャー
DX開発 シニアディレクター
柳沢 克実氏
1996年、26歳の時にNRIにキャリア入社。流通分野のプロジェクトを担当後、通信事業会社向けのシステム開発に従事。通信分野の事業をNRIデジタルで行うことになり、同社に出向。
NRIデジタル株式会社
DXエンジニアリング2
シニアシステムエンジニア
西原 佑氏
2016年に新卒でNRIに入社。小売・流通のシステム開発を担当後、通信分野に異動。同分野の事業をNRIデジタルで行うことになり、同社に出向。
株式会社リーベル
代表取締役
田中 祐介
Javaエンジニアからキャリアをスタート。要件定義から設計・開発、保守運用まで経験したのち、アビームコンサルティングに転職。ITコンサルタントとしてフィージビリティスタディやIT基盤構想策定などの上流からプロジェクト推進まで幅広く従事。リーベルでは、IT業界での経験を生かし、様々な転職者を支援。2016年、代表取締役に就任。

途中から引き継いだ案件で“抵抗勢力”と見られることも

田中:前編では、NRIデジタルのエンジニアは、技術の基礎的な素養が身に付いており、それが、他社が途中で投げ出したり、契約上打ち切りになったりした案件でも、丹念に解決策を調べ上げ、システムの稼働に導く原動力になっているという話を聞きました。具体的にどんなパターンがあるか、教えていただけますか。

柳沢氏:多いのが、初めの企画段階では他のコンサルティング会社が進めていたものが、実際にシステムを作る場面になると、思うように構築できず、我々が引き継ぐというケースです。顧客のビジネス部門やトップと話す時には、コンサルタントはいかようにも話すことができます。しかし、現場のフェーズになって作る段階では、泥臭い作業も必要になります。それができず回らなくなるプロジェクトが非常に多いのです。それに対し、我々は必ず最後までやり遂げる力があり、それが一種の文化となっています。ただ、最初のうちは顧客の一部から“抵抗勢力”と思われてしまうこともあるのです。

田中:抵抗勢力ですか。プロジェクトを回すために、助けようとしているのになぜでしょう。

柳沢氏:我々は、システムや技術ありきではなく、顧客のビジネスを大切に考えるスタンスです。一方で、顧客の中でDXを推進しようとしている立場の人は、今のシステムをなくして一から作り直そうとしたり、抜本的に改革したりすることを目指しています。そのため、顧客ビジネスの状況次第では、場合によりレガシーシステムを残そうとする我々の提案に対して、「何を古臭いことを言っているのか」と、反発される場合も少なくないのです。

田中:解決の糸口を見つけるのが難しいケースですね。事業会社の中でも、新任のCIOが、なったからには変革しなければならないと、強引にスクラップアンドビルドを試みることは、どこにでもありそうな話です。そうした顧客をクールダウンさせ、地に足を付けたDXをやって行くことが重要ですが、NRIデジタルではどのように顧客を導いているのですか。

柳沢氏:やはり我々の技術力によって、やってみせるしか方法はないです。例えば、DXする部分と既存のシステムをつなぐ技術検証を行い、我々のやり方が正しいことを証明するのです。それを示すことができると、お客様も納得いただけ、信頼関係を構築することができるというわけです。

DXで重要なのは「顧客の真の目的」を引き出すこと

田中:今、DXの話が出たので、少し深掘りできればと思います。現在、DXは顧客もベンダーも最重要事項として捉え、積極的に推進するケースが増えています。ただ、DXというのは定義がまちまちで、業務をただIT化することをDXと言っていたり、DXでよく使われる技術をただ導入しただけ、といったことも発生しています。NRIデジタルとしてはDXというものをどのように捉え、プロジェクトを進めていますか。

柳沢氏:私が率いる部署も西原が所属する部署も、DXエンジニアリングという名称が付いています。しかし、だからといって、「こういうDXの技術があるから使ってください」という提案の仕方は絶対にしません。大切なのは、顧客が本当にやりたいことや目的です。それがDXといえるかどうかではなく、まずはやりたいことや目的を中心において、それを実現するために我々としてどういった技術を使えるのかを検討していくのが筋でしょう。そこを取り違え、DXや技術ありきで進めるのは、本末転倒です。

田中:最終的にやりたいことにフォーカスしないと何の価値も生み出さないですよね。

柳沢氏:そこで、顧客が何をやりたいかを引き出す力が重要となります。当社ではビジネスデザインという部署がそれを担っており、NRIではおもにシステムコンサルタントがその役割を果たし、我々と一緒に仕事を行うケースもあります。

田中:NRIデジタルにはDXを企画するビジネスデザインチームがありますが、NRIのシステムコンサルと協働する場面もあるのですね。

柳沢氏:はい、彼らはコンサルティングに長けており、顧客に入り込むことや課題の本質を掴むこと、資料としてまとめることなどを凄いスピードで実現していきます。ですから、案件に彼らがアサインされた際は、彼らの得意領域は彼らに任せ、当社は技術領域で価値を出していきます。こうして社内で協業できる点も、我々の強みであり、武器となっています。

西原氏:実際、現場でもNRIのシステムコンサルタントとNRIデジタルの開発組織は非常によく連携が取れています。コンサルティングと並行して技術検証ができるようにスケジュールを設定するなど、顧客価値を中心に考えながら社内連携も配慮し合っているので、我々としても非常にやりやすさを感じています。

柳沢氏:そうして、スムーズに案件を進め、我々が間違いのないシステムを構築します。さらに、作って終わりではなく、実際に顧客が使う際の運用や保守も手掛け、また次の案件を継続して依頼していただく。こうして最後までやり抜いて、その先の顧客との関係も続けていくというのがNRIグループのやり方であり、NRIとNRIデジタルが協業することでの好循環ができていると考えています。

マイクロサービスはどこをどの単位で切り出すかが難問

田中:NRIデジタルでは、実際にどのようにプロジェクトを進めていますか。

柳沢氏:顧客からマイクロサービスを行いたいという要望が出た案件で説明しましょう。取っ掛かりとしては、我々の考えはこうで、マイクロサービスはこういう風に作っていくということを、まずはPoCなどでデモをして、技術検証をしながら提案を進めました。そうした提案をしながらも、その顧客のシステムは巨大だったので、構築には大勢のメンバーを動かす必要があり、それらのメンバーが作る際に手本となるベースを作る、我々の言葉でいう「標準化」も並行して行っていきました。NRIデジタルのメンバーは数人ですが、プロジェクトが進むと、パートナーが加わり、実際に作るエンジニアは100人、200人と増えていくので、その人たちからのQA対応や技術的な課題の解決に奔走し、最終的にリリースまで持っていきました。

田中:なるほど。そのマイクロサービスを行いたいという顧客は、どのような会社で、なぜそのサービスを導入したいと考えたのでしょうか。

柳沢氏:顧客は大手通信会社様でした。その顧客はシステム全体が大きいため、顧客の言葉を使うと「サイロ化」してしまい、異なるチャネルで同じ機能が二重、三重にある状況でした。そこで、機能を切り出してマイクロサービスにすることによって、色々なチャネルで使えるようにして、無駄を省きたいというのが顧客側の要望。しかし、既存のビジネスの運営を止めずに作っていかなければならず、非常に大変なプロジェクトでした。

田中:これは私の興味なのですが、マイクロサービスの単位はどのレベルで作っていくのでしょうか。私もエンジニアだった時代、サービス指向アーキテクチャー(SOA)ということが盛んに言われていた時期にプロトタイプシステムを作る経験をしたのですが、その際もサービスをどの単位で作るかをずっと議論していました。

柳沢氏:まさに、我々も同じことをやっています(笑)。どの単位でサービスを作るかは永遠の課題なんです。みんなで集まってホワイトボードに書いて、どうするか議論していたのが実情です。マイクロサービスを教科書通りのレベルで作ると、物凄い大きなサービスになってしまい、全くマイクロではなくなります。ですので、そうした教科書は当てにせず、ここだったら効果があるというところを自ら探し出し、切り出していくしか方法はないのです。それは、顧客との会話の中からでしか生まれないため、やりたいことが何かを地道にヒアリングしていくことが重要となります。

田中:大規模プロジェクトでは、そうやって標準化チームのような立ち位置で貢献することが多いのでしょうか。

柳沢氏:そうした立ち位置が多いのは事実ですが、それだけではなく、アプリケーション開発における課題に対して、コアな部分やテクニカルなハードルが高い部分にも積極的に携わっていくのが我々のモットーです。

西原氏:NRIデジタルのメンバーは働くスタンスとして、そうして自ら動いて難しい課題に挑むことが好きなので、「みんな楽しくやっている」というのが正直なところです。

ほぼリモートワークの中、キャリア入社の人材を手厚くフォロー

田中:働き方の話が少し出たので、コロナ禍での仕事の進め方にも触れたいと思います。やはり、リモートで仕事をすることは多いでしょうか。

西原氏:そうですね。私の場合、9割以上がリモートです。

田中:ほぼ全てリモートですね。

柳沢氏:私のようなマネジメントの立場のポジションでも7割がテレワークになっています。実際、顧客との会議も大半をZoomやMicrosoft Teamsで行っているため、仕事としてはほぼテレワークで完結しているのが実態です。ですから、メンバーをリアルで集めるのは、コミュニケーションが目的となります。特にキャリア入社の人材は、2021年度でいうと、私が関係する部署で40人近く入っており、毎月何名か入社するため、そうした方々を各チームで受け入れるために、まずスタートの時に会うというパターンが最も多かったと思います。

田中:そうしたコミュニケーションの機会があることは非常に心強いですね。キャリア入社の方々は、転職する会社で人間関係をうまく構築できるか、結構不安に思っているものです。会社によっては、自宅にPCが届いて、1回も出社せずに仕事をしていくというケースもあります。このコロナ禍の2年間で一度も他の社員と会っていないという状況も出てきているほどです。

柳沢氏:NRIデジタルでは、入社後1年間で少なくとも数回は私やメンバーと対面する機会を作っています。それも、回数が決まっているわけではなく、私が入社後の様子を見て、個別に会って話したり、メンバーに伝えてもっと密にコミュニケーションを図るように働きかけたりもします。一度馴染むことができれば、リモートワークも問題なくできるようになるからです。

受けきれないほど充実している勉強会

田中:あと、もう一つ技術系の転職者の方が気にしているのが、社内の勉強会や外部のカンファレンスに参加するような活動がどの程度あるかです。

柳沢氏:NRIデジタルのメンバーはそうしたことにはとても積極的です。勉強会は、会社が企画するものも多いですが、それよりも社員が草の根的に行っているものの方がさらに多く、毎日何らかの勉強会が昼どきの時間帯に実施されています。基本的には持ち回りでクラウド系や特定のSaaSなどのトピックを掲げ、開催を提案した人が発表して、それについてみんなでディスカッションする流れです。これにはNRI、NRIデジタルに関係なく、様々な部署から参加者が集まります。

西原氏:私も数回発表した経験があります。それこそ、AWSやKubernetesなどクラウド系の話やマイクロサービスの話など、業務とつながりがある話を中心に議論する機会が多いです。今はコロナ禍なので全てリモートでの開催になっていますね。それぞれの勉強会に10~15人は参加しているような状況です。

田中:それはかなり活発ですね。転職者の中には向上心や成長意欲が高い人も多いので、そうした活動があることは転職者にとっても魅力になると思います。

ライター プロフィール

高橋 学(たかはし・まなぶ)
1969年東京生まれ。幼少期は社会主義全盛のロシアで過ごす。中央大学商学部経営学科卒業後、1994年からフリーライターに。近年注力するジャンルは、ビジネス、キャリア、アート、消費トレンドなど。現在は日経トレンディや日経ビジネスムック、ダイヤモンドオンラインなどで執筆。
◇主な著書
『新版 結局「仕組み」を作った人が勝っている』(光文社)(荒濱一氏との共著)
『新版 やっぱり「仕組み」を作った人が勝っている』(光文社)(荒濱一氏との共著)
『「場回し」の技術』(光文社)など。
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