第5章:日本法人との関係
外資系ソフトウェア会社の日本法人から海外にある本社を見る場合と、本社から日本法人を見る場合と、当然見え方は異なります。そこには微妙な関係が存在するのですが、第5回目は、客観的に見た海外本社からみたソフトウェアの日本法人について、エンジニアの働きぶりなどの違いについて、お話をしたいと思います。
私がもともと日本法人で勤務していた時は、本社の開発部隊とのやりとりが何度もありました。しかし、本社側はなかなかこちらの要求を聞いてくれなかったり、レスポンスを待っているにもかかわらず無視されたりなど、コミュニケーションの難しさを痛感していました。その時は、ただ言葉の違いや時差があるためだけだと思っていました。
しかし、実際に出張で本社に行き、そこで開発部隊と合同で新製品のテストや教育カリキュラムの作成を行ったときは、コミュニケーションもスムーズに運び、グローバルでみな同じゴールに向かって仕事をしていることを肌で感じることが出来ました。一度一緒に仕事をし、自分たちの役割や日本の現状を理解してもらうとその後は仕事がやりやすくなります。単にフェーストゥーフェースでコミュニケーションを取れば良いというものではなく、お互いの役割や現状を共有することが重要だということです。
逆に私が本社で勤めていると、日本法人のエンジニアが何を考えているのかわからなくなるときが時々あります。あるソフトウェアに問題があると、「問題があるから治せ!」とか「品質が悪すぎる!」などのクレームが入ります。それが、毎週行なわれているグローバルで開催される定例ミーティングで報告されたりするのであればわかりますが、不特定多数の人から不定期に不特定多数の上司などにメールが送られてきたりします。
これでは、本社でも日本法人は誰が窓口で、何が問題で、誰に対応して欲しいのかが全く伝わりません。日本法人の業務の中心は顧客対応です。顧客にとってはソフトウェアが動かないことは動かないことでしかないのですが、開発部隊はソフトウェアのどこが問題なのかを知りたいのです。そのギャップを埋めるのが日本法人のエンジニアの役割のはずなのですが、要求が顧客の言っていることの丸投げであったりすることが多々あります。これだと、開発部隊も対応のしようがありません。これは単なる英語でのコミュニケーションの問題ではありません。
確かに本社の開発部隊は、米国以外でソフトウェアが使用されていることに関する意識は高くありません。また、米国の開発部隊は具体的な仕事内容が詳細に決まっています。自分たちがアサインとされたメインのプロジェクトをやり遂げ、それに対する成果で彼らは給料をもらっているという意識があります。この様な意識を持った開発部隊に対しては、現状をきちんと説明し、共通の認識を持った上で、問題を解決してもらう必要があります。顧客が品質が悪いと言っているから治せ、というのでは、どうにも対応が出来ないのです。
少し前までは、外国のソフトウェアを英語以外での言語を使いたいと望むのは日本の顧客だけ、日本仕様ということで特別に対応してもらうこともありました。しかし、今はそんな時代も終わりつつあります。
特にグローバル企業は、グローバルでの全体最適化を望む傾向があり、日本は特殊だということに対しては受け入れることは出来ないと言います。しかし、これは逆手に取って考えるべきです。グローバルで最適化を望むのであれば、グローバルで使用に耐えうる製品を、あらかじめデザインしろということができます。日本が特殊だからといった考えのアプローチではなく、グローバルの中でたまたま日本で問題が起こっているだけで、今後グローバルで同じような問題が発生する可能性があるといったアプローチを取ればよいのです。
海外本社と日本法人とのコミュニケーションでは、英語の問題も確かに存在します。例えば、ソフトウェアの問題を様々なケースをメールに羅列して書いて送る人もいるようです。例えば、「この場合は、これは動いてこれは動かないが、あの場合は、あれは動くがあれは動いたり動かなかったりする」のような文章です。確かに、いろいろなパターンで動きが異なることを説明したいのはよくわかりますが、これは裏目に出ます。よく開発者から、こんなメール(もちろん、英語)をもらったが訳してくれといわれます。英語を英語に訳す仕事ってと、変に思われるかも知れませんが、今までも何度かありました。開発部隊にメールを書くときは、とにかくシンプルに伝えることだけを書くことが重要です。日本人が決して英語力で劣っているわけではないのです。英語が達者ではないエンジニアも(中国人やインド人ですか)たくさんいます。
最近は、メッセンジャーと呼ばれるオンラインチャットを使ってうまくコミュニケーションが取れるようになったとも聞きます。確かに、すぐ英語は出てこなくても、短い英語で言いたいことだけ伝えられるメッセンジャーは日本人と海外の開発者とのコミュニケーションをスムーズにする可能性はありますね。英語でのコミュニケーションに関しては、また第7回で詳しくお話したいと思います。
しかし、海外本社から見ていると日本人エンジニアは非常に良く働きます。これは間違いないことです。だからといって本社の開発部隊が仕事をしないわけではありません。メリハリがはっきりしているといった感じでしょうか?製品リリース前にはどこのオフィスも夜中まで電気がついています。
さて、次回は日本人エンジニアから見た、外国人上司についてのお話をしたいと思います。