著者プロフィール
- 内川 成泰
- 1996年大手ソフトウェア日本法人に入社後、2000年にアメリカ本社開発部隊へ転出。世界各国にいるソフトウェア開発者へソフトウェア国際化のサポートを行なっている。
第1章:売れと言われても、これでは使えない!
今回のキャリア研究室では、海外で仕事をすることはどういうことか、海外で仕事をするために必要なスキルは何か、英語はどれくらい話せる必要があるのかなど、海外で仕事をしたいと希望されているエンジニアに向けて参考となる情報を紹介していきたいと思います。
第一回目は、日本人エンジニアが求められている「今」についてのお話をしたいと思います。
外資系のソフトウェア会社が新しい製品・コンセプトを発表したとします。斬新なアイデアと最先端の技術をもって出荷された製品は、日本の顧客からもすぐに使いたいと要望があがります。3~4年前だと、外国で製品発表があったものが、日本で出荷されるまで数ヶ月かかることはごく当たり前のことでした。しかし、現在では同じ日、遅くても1~2週間のブランクで製品が日本で出荷されるようになってきています。実は、この製品出荷のタイミングを大幅に短縮させることが出来た背景には、日本人エンジニアの多大なる貢献がありました。
外資系ソフトウェア会社の日本法人や日本の代理店で、ソフトウェアの販売やそのソフトウェアを使っての開発をしたりするときに困ることがあります。英語のデータだと問題なく動作するのに日本語データを入れるととたんにソフトウェアが動かなくなったり、製品のコンセプトが日本の商習慣と合わなかったり、ユーザインターフェースが日本語に訳されていなかったり、製品のクオリティが日本の顧客が求めるものと程遠かったり等々、本社から売れと言われても、「これでは売れない!」状況が発生したりします。
多くの日本人エンジニアは優秀なので、このようなケースはワークアラウンド(回避策)を自分たちで考えて使い続けたりします。しかし、これではいわゆるその場しのぎでしかなく、後々出てくる製品やアップグレードされる製品でも、また同じ問題を抱えてくることになりかねません。英語が苦手なエンジニアですと、問題を本社に報告するよりも、回避策で動けば良いやと考える人もいます。
また、少し英語の使えるエンジニアでも、個別に本社の開発者とやりとりするときに、なかなか問題の本質を解ってもらえずに苦労することもあります。普通に考えると当たり前なのですが、「日本語だと動かないから治してくれ!」と言われても、本社の開発者は日本語を読むことができませんから、手探りで治すしかないのです。仕事をする上でのプライオリティ付けも、自分たちの解る言語、すなわち英語で動いているからという理由で低くなりがちです。(余談ですが、優秀な日本のエンジニアはワークアラウンドを親切心で開発者にも伝えてしまいます。しかし、このことは開発者の問題に対するプライオリティをさらに下げてしまうことになりかねません。どうにも動かないものが当然優先されてしまいます。)
最近は、多くの外資系ソフトウェア会社が、自社のソフトウェアで日本語で動くかどうか注意を払うようになってきています。というのも、日本語でソフトウェアが動けば、中国語や韓国語など、他のアジア圏の言語でも動く可能性が高いからです。さらに、インターネットやグローバリゼーションの流れにのって、英語圏以外(米国・英国・豪州など)でのソフトウェアの利用は増える一方で、いくつかの統計では英語圏以外でのソフトウェア販売が全体の6~7割に、インターネットの利用は7~8割に達していると伝えています。ということは、英語以外でそのソフトウェアが動かなければ、6~8割の売上をロスすることにもなる訳ですから、グローバルにソフトウェアを販売する会社にとってみれば、英語以外の特殊な言語の代表である日本語、さらにそれを器用に操ることが出来る日本人エンジニアが注目されるのは自然な流れだったのかもしれません。
次回は、ソフトウェアの国際化についてお話したいと思います。