COLUMN
コラム:転職の技術
第1035章
2021/07/30

メーカーのITエンジニア

10年前のメーカーを取り巻く状況

クリス・アンダーソンという人が書いた『MAKERS』という本があります。発刊されたのは2012年。今から10年前ですね。製造業のこれからが記された未来予測型のビジネス書で、当時それなりにヒットしていました。私も前職は日系メーカーだったので、興味があって手に取ったのを覚えています。

10年前には製造業は下火と騒がれていました。これからはサービスの時代と言われ始めたのがこの頃です。モノを作るのは古く、これからはサービスを提供する時代と言われました。自身もメーカーにいながら自社製品が減っていった状況を覚えています。

人員削減などネガティブな報道が続く中、リーマンショックが決め手となり大手メーカーは軒並み赤字へと転落。そこからメーカーは厳しい時代に突入します。

メーカー人材が流動する時代

2012年に私は人材業界へと転職しましたが、当時隆盛を極めていたのはゲーム業界。ソーシャルゲームが飛ぶ鳥を落とす勢いでした。その後、リーマンショックを乗り越えた各業界で採用が活発になって来ます。2013年ごろからはコンサルティングファームが、2015年ごろからは大手SIerも積極採用に転じてきます。事業会社からの求人も増え、社内SEという選択肢も徐々に確立されていきました。

そしてここ数年。メーカーからのIT求人が爆発的に増え始めました。1社や2社ではありません。業界全体の流れとして、IT人材確保に類を見ないほど活発になっています。

求人だけでなく、それ以上に活発な動きを見せているのがメーカー在籍の転職希望者です。以前までの転職市場では、SIerに在籍しているエンジニアが母体となってコンサルやゲーム業界などへ転職していくケースが一般的でした。10年前であれば、メーカーのIT人材は組み込みエンジニアか一部の社内SEのみ。正直市場価値が高いとは言えず、転職市場に出てくるのも稀な存在だったのです。それがここ数年で、新卒メーカーという優秀なITエンジニアが飛躍的に増えています。そして、これには明確な理由があります。製造業を取り巻く環境の変化と、テクノロジーの進化が重ね合わさって、エンジニアの需要が増えているのです。

では、メーカーで活躍するITエンジニアにはどんなタイプがいるのか。大別すると下記3つに分かれます。

Ⅰ, グローバルITプラットフォームの構築
Ⅱ, スマートファクトリーの推進
Ⅲ, デジタルサービスの企画開発

以下、それぞれ具体的に説明していきます。

Ⅰ, グローバルITプラットフォームの構築

平たくいえば業務系システムの社内SEですが、グローバルを指揮するヘッドクォーター機能というのが特徴です。
大手メーカーは海外工場での生産体制を確保していますが、生産計画から在庫管理、管理会計まで緻密なデータ管理を徹底しています。いち早い経営判断が求められる現代において、データの可視化は正義です。データを一つのプラットフォームとして管理する必要があり、各メーカーでは大規模な基幹システムを活用しています。SAP S/4 HANAやOracle E-Business Suiteなど、グローバルに耐えうるシステムへと積極的に投資を続けています。
かつて基幹システムはコストセンターと見られていましたが、今では基幹システムこそ重要な経営ツールです。生産体制のグローバル化と基幹システムの高度化という2つの進化により、基幹システムは経営判断に欠かせない役割を果たすことになりました。経営者と近い距離で最適なシステムを作り上げられる、優秀なエンジニアが必要になっているのです。

Ⅱ, スマートファクトリーの推進

現代の製造業は、第4次産業革命の真っただ中と言われています。第1次は18世紀末のイギリス。蒸気機関の発明によって工場の機械化がもたらされます。その後、石油・電気による大量生産の実現を第2次、コンピュータによる工場の管理を第3次産業革命と位置づけられてきました。そして第4次はデジタルの時代です。
これまでの工場では、ベテランの技術者たちが経験を活かして機械を動かしてきました。これからはその経験をシステムに覚えさせ、管理していく時代です。
キーワードはIoTとAIの2つ。工場設備をIoT化することによって、稼働状況をリアルタイムでの一元管理を可能にしました。またAIを生産現場に適用することで、故障予防や不良品の検品などを実現。デジタル技術の発展によって生産性の向上が実現されています。
とは言え、それをシステム化するのは泥臭い作業です。現場のヒアリングとデータの可視化を何度も行い、ブラッシュアップしながら開発していく必要があります。そのためには最新技術だけでなく、変革を進めるコンサルティング力も重要です。スマートファクトリー化を推し進めるために、メーカー内部に優秀なITエンジニアが必要になるのです。

Ⅲ, デジタルサービスの企画開発

今の製造業は、モノ作りだけが事業ではありません。モノと付随するサービスも提供し、サブスクリプションで売り上げを確保していく時代です。
自動車業界で言えばCASEです。Connected(コネクティッド)、Autonomous/Automated(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)という変革のキーワードで、これまで業界になかった付加価値をユーザーへ提供しようとしています。当然エンジニアにも変化が必要です。
エンジンやブレーキだけ開発していれば良いわけではありません。AIを活用した自動運転や、スマホアプリでの自動車制御など、ソフトウェアの重要性がより一層深まっているのです。
キーワードはクラウドとサービスデザインです。自社製品のセンサーからデータを取得し、それをクラウド上で分析していきます。製品単体とは離れた世界、クラウド上でのシステム構築力が重要になるのです。
またクラウド上のデータを如何に使うか、如何にユーザーへ付加価値のある情報を提供出来るかといった、顧客体験の設計がカギになります。デザイン思考を取り入れているメーカーも多く、各メーカーでは優秀なサービスデザイナーを積極的に求めています。

これからのMAKERS

かつて日本はモノづくり大国と言われていましたが、ここ10年ちょっとで国際競争力は低下しています。復活の為にはデジタルトランスフォーメーションが不可欠です。経営データを可視化し、生産現場をスマート化し、製品をサービス化して世界と戦えるようになると言われています。

書籍『MAKERS』では、モノ作りの主人公は製造業から個人に代わるだろうと記されています。3Dプリンタの台頭によって、個人個人がメーカーとなってモノ作りを出来る時代がもうすぐ来るというのです。なるほど、いずれそういう時代が来るかもしれません。

単なるモノ作りだけなら個人でも出来る時代。だからこそメーカーにとっては変革の時です。優秀なエンジニアやコンサルタントを求めています。

<参考書籍>
「MAKERS 21世紀の産業革命が始まる」クリス・アンダーソン 著/関美和 翻訳

筆者 鈴木 裕行
コンサルタント実績
  • 紹介求人満足度 個人の部 第2位
    出典元
    株式会社リクルートキャリア リクナビNEXT
    対象期間
    2014年4月1日〜2014年9月30日
    調査名称
    第12回転職エージェントランキング
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