- プロフィール
- 都内私立大学の理工学部情報系学科を卒業後、大手銀行のユーザー系SI子会社に入社。仮想化共通基盤の保守を中心に業務を行う。6年務めた後、SaaSの提供やセキュリティ製品の販売を手掛ける大手IT商社に転職。2年後、再度転職活動に挑み、本田技研工業の内定を獲得。
だが、業務の中心がベンダーコントロールとなり、一抹の不安が脳裏をかすめる。まだ自分は基盤の技術の経験が不足している。20代で一定のスキルを積みたいとの想いから出した答えは転職だった。
エージェントの支援を受けて、大手IT商社への入社を果たし、プリセールスから設計・構築・導入まで一気通貫で携わり、サーバーやネットワーク、セキュリティなど基礎的な技術を広く習得できた。
しかし、技術を身に付ける中で、自分はマネジメント志望であったとの初心に戻って自らのキャリアを見つめ直す中で、技術的なスキルや経験を積んだ今、再度ユーザーに近いポジションでマネジメントに挑戦したい――との想いが湧いてきた。
ネックになったのが、転職回数の多さ。1度目の転職からまだ2年しか経っていない。ただ、マネジメント志向からはぶれてはいない。リーベルと考えを整理し、再び転職に挑んだ結果、事業会社である本田技研工業から見事に内定を勝ち取った。
銀行のシステム子会社から、大手IT商社を経て、事業会社へのキャリアアップの道を自ら切り拓くという、転職において成功をなし得た要因を聞いた。
マネジメントの経験を積む中で感じた技術不足の不安
大学ではプログラミングやコンピューターサイエンスを学んだ。この領域の勉強は好きで、就職活動もシステムエンジニアとして働ける会社に絞って進めた。結果、入社したのは大手銀行のシステム子会社だった。
—— 就職先として、大手銀行のシステム子会社を選んだ理由を教えてください。
Kさん:私は情報系の学科で学び、プログラミングやコンピュータ関連の勉強はとても好きでした。ただ、もの凄く突き詰めてプログラミングなどに傾倒していくスタンスではなく、コンピュータに触れながらも、マネジメント力を身に付けていきたいというのが、自分の中でのキャリアの考え方でした。そうした中で、ユーザー系のSI会社に入った方が、より早くプロジェクトマネジメントの経験を積めるのではないかと思い、大手銀行のシステム子会社という道を選択したのです。
—— 実際、入社していかがでしたか。
Kさん:会社側が適性を判断し、配属されたのが基盤の保守運用を行う部署です。親会社である銀行の仮想化共通基盤の保守がメイン業務となり、24時間365日体制で保守や障害対応を行う、割と忙しい部署でした。およそ50のシステムが稼働する基盤であり、障害が起こった際に作業を行うには、非常に多くの関係者との調整が必要となります。そのコミュニケーションの取り方や、それぞれの担当者の性格に合わせて対応するアプローチ方法などが、業務の中で修得できていったと考えています。合わせて、親会社の立場、つまりユーザー視点で常に物事を考える習慣が身に付いた点も、同社に入ったメリットだと感じています。
—— 自身が希望されていたマネジメントの経験は。
Kさん:年次が上がるにつれて、サブリーダーやリーダーを任されるようになり、徐々に管理系の仕事が多くなっていったのは、自分が思い描いていた通りでした。ただ、ベンダーコントロールなどの業務が多くなる中で、一度立ち止まって考えた時ふと感じたのが、私には『IT知識やスキルが足りていないのではないか』という不安でした。保守運用の固有のスキルや決まり事、やり方には詳しくなったものの、あまりにも局所化されており、マネジメント以前の問題として、今後、成長していくには心もとないというのが正直な気持ちでした。
—— そこで、思い切って転職に踏み切った。
Kさん:そうです。その際はリーベルではなく、他のエージェントに支援を依頼し、転職活動に挑戦したのです。そして、サーバーやストレージ、ネットワークなど自分の知識が活かせる職場で、なおかつより技術的なスキルが身に付く場所として大手IT商社を選び、その会社で、次のキャリアを積んでいくことになったのです。
基盤の技術が高められた一方で直面した思わぬ誤算
技術を身に付けたいと思って転職した先は、SaaSの提供やストレージ製品、セキュリティ製品などの販売を行う大手IT商社だった。様々な業界のあらゆる企業に対し、製品を提案し、設計、構築、導入するのが日課となったが、業務の中でギャップを感じるようになる。そのギャップとは何か。
—— 2社目となる大手IT商社ではどのような業務を。
Kさん:特定のストレージ製品を担当し、メーカーとやり取りしながら、顧客を新規開拓して販売していくことが仕事となりました。プリセールスの段階から営業に同行し、製品の説明をしたり、契約が取れたら顧客から要件をヒアリングして設計を担ったりするだけでなく、その後の導入作業も私が中心となって行っていきました。最後に顧客に製品の使い方をレクチャーしてひと通りのプロジェクトが完了します。
上流から下流まで担当することになり、業界を問わず様々な企業に提案、導入を行っていったため、仕事的には刺激のある毎日でした。ストレージの知識はもちろんのこと、基盤全般の知識もブラッシュアップされ、技術を深められた点は、自分の希望通りだったと考えています。
—— 前職とは全く異なるスタンスの業務ですね。
Kさん:1社目は100%親会社の業務しかなかったため、2社目は真逆の仕事であり、技術の知識やスキルが向上すると同時に、自分の視野が広がったことは大きな収穫でした。また、その会社の仕事の後半には、社内で導入実績がないセキュリティ製品について、自ら手を挙げて担当することを志願しました。海外メーカーで日本法人がない会社だったため、情報収集やコミュニケーションに苦労しましたが、それでも粘り強く対処して顧客に情報を提供するなどプリセールスの業務を行っていきました。
—— 自ら考えて動く場面も多く、経験やスキルの向上につながっていますね。
Kさん:そうです。技術的には蓄積できる環境で非常に良かったのです。ただし、問題は案件が1~2人で担当するのが大半で、多人数をマネジメントする経験をほとんど積むことができなかったことです。これは大きな誤算でした。
—— 事前に調べたり、エージェントに教えてもらったりすることは難しかったのでしょうか。
Kさん:その辺りの働き方はオープン情報ではないため、自力で調べるのは難しいと思います。エージェントからもマネジメントを行う機会の有無に関する情報提供は全くありませんでした。技術を高めたくてその会社を選んだのですが、年次を重ねるに応じて、それなりのマネジメントの経験も積むことができると考えていたのですが、その期待は実現が難しいというのが当時の状況でした。まだ入社して2年だったので迷いもありましたが、自分のキャリアを追求するため、再度転職活動に挑む決意を固めたのです。
複数の転職をしている場合に求められるキャリアの一貫性
2度目の転職活動に臨んだ。今度はエージェント選びを慎重に行いたいと考えた。選んだのはリーベル。理由は送られてきたスカウトメールの内容が、当時の自分の気持ちを言い当てていたからだ。
—— 早速転職サイトに登録し、活動がスタートしました。
Kさん:登録するや否や、スカウトメールが続々と届きました。その中で、目に留まったのがリーベルの担当者からのメールです。1社目に在籍している際、スキルを磨きたいと思って転職したものの、2社目で製品に特化された業務を進める中で、マネジメントの経験を積むことができず、業務の幅を広げたいと考えているのではないかと書かれており、それはまさに自分が思っている気持ちそのものでした。加えて、業界の内情や各社の性質も理解しているという印象を受けたため、この担当者であれば転職活動がうまく進められるのではないかと思い、リーベルに支援を依頼することに決めたのです。
—— リーベルの支援はどうでしたか。
Kさん:ひと言でいえば、「非常にきめ細かい」ということです。職務経歴書も前回の転職では、私が片手間で書いたものをエージェントは特に修正することなくそのまま企業側に提出するだけでした。それが、リーベルの場合は、「ここはこんな風に書いた方が伝わりやすい」「企業はこういうことを求めているから、それに沿った答え方が良い」など、思いがけず数多くの指摘をされたのです。
—— 特に印象に残っている具体的な指摘は。
Kさん:ひとつは、専門性の高い用語を使わずに、誰が見ても大変さや工夫が伝わるような書き方にすること。そしてもうひとつが、特に事業会社は、長く継続して務めてもらうことに力点を置いており、私の場合、短い期間で次の転職を行う形となっているため、その理由付けやキャリアの一貫性について、しっかりと説明することが重要であるということです。
後者に関しては、確かにその通り。そこで、私は新卒の頃からマネジメント志望であり、技術を身に付けた上で、もう一度ユーザーそのものである事業会社の中でマネジメントを行いたいという自分の思いを整理して、書類に落とし込むと同時に、面接でも明確に伝えられるようにロジックを組み立てていったのです。
—— 事業会社を中心に応募する中で、本命は本田技研工業となったのですね。
Kさん:大企業かつグローバルに事業を展開している非常に魅力的な会社で、大規模なプロジェクトのマネジメントを行える可能性が高く、システムを構築し、運用することに大きなやりがいを実感できると思ったからです。また、私は1社目では金融業界からキャリアをスタートさせましたが、その中で自分は正確さが求められる業務が得意であることも分かっていました。そうした着実に物事を進められる気質が、本田技研工業のような精緻な業務を必要とする製造業でも大いに役立つのではないかという自負もありました。
—— 本田技研工業の面接はいかがでしたか。
Kさん:特に印象に残ったのが、面接の前段でスライドを用いながら部署が行っている業務内容やフェーズ、組織構成などについて、詳しく説明して頂けたことです。オンプレミスだけでなく、パブリッククラウドの領域でも活躍できる場面が多く、大規模な案件でマネジメントを担える人材を求めているという説明を受けました。面接においては業務内容のミスマッチを防ぎ、理解を深めるための配慮がなされており、好印象を抱いたことを覚えています。
質問については、私の経験や実績を深掘りすることが中心でした。本田技研工業らしさを感じたのは、「チャレンジ精神や主体性を発揮したエピソード」を聞かれたことです。私はとっさにIT商社で自ら手を挙げて新規製品を担当した一件を話していました。
—— その後、本田技研工業から内定が出ました。どの点を評価されたと思いますか。
Kさん:私が配属される予定の部署では、共通基盤の保守業務が中心になるとのことだったので、1社目のシステム子会社の経験が生きると思っていただけたのが大きかったと思います。さらに、2社目で私が担当していたストレージ製品を同社が現在導入している真っ最中ということで、その知識が活用できるというタイミングの良さも要因になったと考えています。後は、チャレンジ精神のエピソードの部分でしょうか。これも、日ごろから自分の経験になるのであれば積極的に新しいことに挑戦しよう思っているからこそ、成し得たことであり、日々どのように仕事と向き合うかが重要だと改めて実感させられました。
ユーザーの立場で業務を行うことが事業会社への道を切り拓く
事業会社という次のステージへのキャリアアップが見えてきた。だが、入社前に今一度、本田技研工業の人事担当者との面談を希望した。互いに齟齬がないように、いくつかの条件を確認したかったからだ。リーベルに依頼すると、すぐに面談がセットされた。
—— 内定を取得した後に、面談を申し込まれたようですね。
Kさん:実際、どのような勤務になるのか、転勤はあるのかなど、いくつか気になる点をクリアにしたかったからです。前回、転職したIT商社の時は、業務の内情をよく知らなかったために、入社後にギャップが発生してしまい、その反省から今回は事前の面談を依頼したという側面もあります。実は自分のプライベートな話なのですが、直近で結婚しており、まず聞きたかったのが、転勤の可能性の有無。それに対しては、過去2、3年で1人が転勤しており、数は少なく、当然のことながら急に辞令が下りるわけではなく、本人の希望や状況を聞いた上で判断するとのことでした。その他も色々と質問させていただき、全ての不安が解消されたので、晴れて入社ということになりました。
—— 振り返ってみて、転職成功のポイントは。
Kさん:職務経歴書が鍵だと思っています。自分の経験や苦労点を書面だけで相手に容易に伝わるように整理して作成したことが転職活動のベースとなり、その後の面接も波に乗るように進められたのだと思っています。
また、リーベルの担当者による面接後のフォローも効果的でした。実は、最終面接で落ちてしまった会社もあったのですが、その原因分析で「こんな理由があったのではないか」「話の組み立て方はこうした方が良いのでは」と、親身になってアドバイスをいただけました。最後まで手厚い支援があり、それがあったからこそ転職活動を乗り切れたのだと考えています。
—— 事業会社で働きたいと考えているシステムエンジニアは少なくないです。どうすれば同じようにキャリアアップできるのか、助言をお願いします。
Kさん:最も大切なのは、常に顧客目線に立つことでしょう。私の場合、1社目がユーザー系のSIerだったため、有利な点もあります。しかし、2社目でも「顧客が本当は何を求めているのか」「どんな風なやり方をすれば、より顧客のためになるシステムを作れるのか」など、どんな場面でも視座を高く持ち、顧客の立場で考えることを忘れませんでした。
日々の業務に追われることもあると思います。一つひとつの細かい仕事に忙殺され、つい作業のための作業になってしまいがちな場面もあるでしょう。ただ、そうした中でも視座を高くすることを常に意識して実践していけば、事業会社への道も開けると考えています。
—— ユーザー系SI会社の経験がなくても、普段の仕事でユーザーの立場や視点に立って物事を考える癖を付けることが、その後の事業会社へのキャリアにつながるということですね。事業会社を目指す人にとって有益なアドバイスをありがとうございました。
ライター プロフィール
- 高橋 学(たかはし・まなぶ)
- 1969年東京生まれ。幼少期は社会主義全盛のロシアで過ごす。中央大学商学部経営学科卒業後、1994年からフリーライターに。近年注力するジャンルは、ビジネス、キャリア、アート、消費トレンドなど。現在は日経トレンディや日経ビジネスムック、ダイヤモンドオンラインなどで執筆。
- ◇主な著書
- 『新版 結局「仕組み」を作った人が勝っている』(光文社)(荒濱一氏との共著)
『新版 やっぱり「仕組み」を作った人が勝っている』(光文社)(荒濱一氏との共著)
『「場回し」の技術』(光文社)など。