第1回では、テクノロジー&デジタルコンサルティング事業部(以下、TDC)を牽引する荒井慎吾氏に、PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)のテクノロジーに対する視野、姿勢、人材像などを聞いた。
第2回の今回はTechnology Advisory Service(以下、TAS)にフォーカスした。TASを率いる福田健氏に、リーベルの社長である田中祐介が、この組織の特色、発想、戦略、人材観などを聞く。
プロフィール
- PwCコンサルティング合同会社
上級執行役員 パートナー
テクノロジー&デジタルコンサルティング事業部
Technology Advisory Service
福田 健 氏 - 日系大手電機メーカーのSE、外資系コンサルファームを経て、2008年にPwCコンサルティングへ転職し現職。ERP導入から始まり、ITデューデリジェンス、IT-PMI、コネクテッド・サービスの企画立案・導入、サブスクモデルのアドバイザリー支援など、IT戦略の立案から実行支援に至るまで幅広いプロジェクトに携わる。
- 株式会社リーベル
代表取締役
田中 祐介 - Javaエンジニアからキャリアをスタート。要件定義から設計・開発、保守運用まで経験したのち、アビームコンサルティングに転職。ITコンサルタントとしてフィージビリティスタディやIT基盤構想策定などの上流からプロジェクト推進まで幅広く従事。リーベルでは、IT業界での経験を生かし、様々な転職者を支援。2016年、代表取締役に就任。
PwC JapanのITコンサルティングの中核、TAS
田中:まずは、TASがどういう組織なのかを教えてください。
福田氏:PwCコンサルティングでのTASの歴史は実は古く、2008年頃にPwCがコンサルティング部門を再立ち上げした時からが始まりと言えます。2009年にはべリングポイント日本法人をメンバーに迎え、100名弱の陣容になっています。私がPwCに中途入社したときは、ITコンサルティング部門は20名程度でしたから、一挙に人員と事業内容が拡充されたことになります。TASはPwCのITコンサルティングの歴史を引き継いだ部門と言えるのです。
田中:現在はどのくらいの人員を擁していますか。
福田氏:約300名です。TDC全体が約600名ですから約半数をTASが占めています。
田中:歴史的にも陣容的にも、TDCの中核と言えるチームなのですね。TDCにおけるTASの位置付けやミッションについて教えてください。
福田氏:TASのミッションを一言でいえば、「あるべき社会や企業をデジタル技術の活用により実現し、日本の生産性を向上させる」こと。業務効率化一つ取っても、単年度での実現に留まっていたら意味がありません。企業のアップサイド(成長可能性、収益向上のポテンシャル)にテクノロジーで貢献したいと考えています。
田中:そうですね。業務効率化といっても、コスト削減を目的とするか、スループットを高めることを目的とするかで、ターゲットとする業務も実現方法も変わってきますよね。アップサイドに貢献するために、どのような組織を目指していますか。
福田氏:私たちの目標は、エンタープライズ・アーキテクト(Enterprise Architect。以下、EA)集団です。米国のある調査会社によれば、EAは一時のデータサイエンティストやフルスタック・エンジニアをしのいで今、人気No.1の職種だそうです。PwCコンサルティングでは数年前から、EAを掲げてきましたが、それが今、社会に受け入れられつつあると思います。
田中:エンタープライズ・アーキテクチャという概念自体は以前からあり、ITコンサルティングのアジェンダとして最上流のフェーズで顔を出してきますが、職種としてのEAはまだ日本では浸透していないですよね。「アーキテクト」という言葉は聞き手により解釈が全然違っていて、アプリケーション・アーキテクトをイメージされる方もいれば、インフラ・アーキテクトをイメージされる方もいて、EAの仕事内容をはっきりとイメージできる方はそう多くはないと思います。EAとは、実際にはどのようなことをする職種なのでしょうか。
福田氏:企業が抱える経営課題をテクノロジーで解決するためにはさまざまなスキルが必要です。最初に戦略があり、それに基づくビジネスモデルを考えなくてはなりません。そのうえで業務プロセス設計、アプリ、インフラ、必要な組織や人材まで考える必要があります。EAはそれらすべて、つまり戦略から実行までを支援できる存在です。その集団でありたいという野望があります(笑)。
田中:なるほど。アーキテクチャと言っても、IT分野に止まらず、企業の構造そのものを組み直し、価値を創出する仕組みのことを指していて、その仕組みづくりの実現を包括的に支援するのがEA、ということですね。
福田氏:その通りです。企業は戦略を立て、戦術に落としこみますが、そのときテクノロジーは必須です。テクノロジーとビジネスを掛け合わせ、経営の目標を実現することにこだわりたいと考えています。
田中:日本でもこれからEAの時代が到来しそうですね。
福田氏:これから注目の職種になるのではないでしょうか。
4本の軸でソリューションを展開
田中:EAは戦略から実行まで、非常に広い領域をカバーする職務ですから、大変だと感じます。
福田氏:TASという組織としては、この広い領域をカバーできていると思います。しかし個々人で見ると、アソシエイトやシニアアソシエイトくらいで入社された方が、いきなり経営戦略に携わるといっても難しいと思うので、まずは得意分野を活かせるような育成、配属をしています。
田中:インフラ、アプリなど、自分の経験してきた分野、もしくはそれに近いところから入っていくのですね。
福田氏:もちろん、そこから希望するキャリアへと発展させていくこともできます。
田中:求人においても、分野が多岐にわたりますね。
福田氏:4分類12サービスを柱にビジネスの拡大を図る実行体制を構築して、職種の定義はソリューション軸にインダストリー軸を加えて、5職種を定義しました。
TDC-TAS 実行体制
まず、Front Business Transformationは、ワークスタイルや働き方をデジタル・テクノロジーで変革しようというものです。昨年、TASにマイクロソフトのチームが加わったこともあって、Microsoft Related Solutionsのチームを中心に、全ソリューションにOpen AIの技術を導入、展開していく予定です。
田中:テクノロジーのトレンドがこの1年で、がらっと変わりましたよね。特に生成AIの影響が大きいと思いますが、少し前までクラウド・ファーストと言っていたものが、あらゆる企業が(生成)AIファーストと言うようになりました。TASのアジェンダとして外せないトピックのため、AIをあらゆるソリューションに組み込んでいける体制を整えたのですね。
福田氏:次のNew Technology Architectureには、IT Modernizationなどが入ります。その中のIndustry Specific Architectureは、各産業にフォーカスしたソリューションを開発・展開していく方針を反映した軸です。企業ごとに課題を把握、仮説を立案するやりかただけでなく、業界ごとに想定できる仮説を準備し、業界にフィットした高度なソリューションをより迅速、的確に提供しようというものです。Hyper Automationは、私たちも含めたあらゆる企業において、AIの利用などにより仕事の自動化を加速化することを目指します。
Data Transformationはデータ利活用ですね。ビジネス・ケースの検討から実装まで携わります。ここにInter Company Federationとありますが、これは社会課題の解決のため、企業間でデータ連携することを指しています。背景には、社会課題を解決するには、一企業内のデータだけでは十分ではない、という認識があります。
最後がDigital Strategy & Governance。最もTASらしい、TASの豊富な経験が蓄積された分野ですが、チャレンジもあります。これまでPwCコンサルティングはクライアントのM&Aの支援に携わってきましたが、PwCコンサルティング自体がM&Aで成長することにそれほど注力してきませんでした。これからは、M&A案件で培った目利きの力を生かして、どのような業界のどのようなスタートアップと組めば私たちの成長につながるのかを探索し、成果につなげていければと思っています。
田中:それは確かに、これまでにはなかった新しいチャレンジですね。今、コンサルティング業界でも、M&Aやジョイントベンチャーに着目している企業が増えてきている印象です。斬新なアイデアとサービスを持っているスタートアップとコラボすることで、さらなるバリューアップが見込めますね。普通に考えたら、M&Aを得意とするPwCアドバイザリー合同会社(以下、PwCアドバイザリー)が担う分野かと思ったのですが、TASがこれを担うのですね。なぜTASでこれができるのでしょうか。
福田氏:もちろん、PwCアドバイザリーと連携しますが、もともとPwCコンサルティングは、PwCアドバイザリーのコンサルティング部門に起源があるんです。当時からM&Aの一環でITデューデリジェンスを実行してきたため、TASでのM&Aが可能なのです。
田中:なるほど。だからTASでM&Aを手掛けることができるのですね。ここにあるDX/IT Function Transformationについても教えていただけますか。チーム名から、DX推進を担う組織だとは思うのですが。
福田氏:多くの企業が今、DXの加速のために内製化を進めていますが、なかなかうまくいっていません。これを組織改革、人材育成の段階から取り組むのがこのチームです。またXaaS(X(Anything) as-a-Service)の引き合いも多くなっています。
田中:クラウドやサブスクなど、何かしらのサービスをお客様が作りたいので共創してほしい、ということですね。
福田氏:いわゆるモノの販売からサービスへシフトしたいというお客様が増えているんです。サブスクビジネスへの志向ですね。これに応えてTASでは、ビジネスモデルの策定からプラットフォームの構築までの一連の取り組みを支援しています。
“IT×インダストリー”を意識し、課題解決
田中:組織図の横軸には、これまでご説明いただいた多彩なソリューションのチームが並んでいますが、縦軸には インダストリー(産業)別のチームが配置されていますね。これまでも、この人はこの業界に強い、という各人の強みや特色があって、プロジェクトアサインにもある程度反映されていたと思いますが、今回、インダストリーカットの組織が明示されています。先ほど、各産業にフォーカスしたソリューションを作る、というお話がありましたが、TASの中でインダストリーのナレッジを強化していく方針なのですね。
福田氏:その通りです。インダストリーチームごとにディレクターやテクノロジー担当者を配し、各インダストリーの事情や特性に応じたテクノロジーの知見を深めるしくみにしています。ITコンサルティングの現場では、お客様のIT部門だけでなく、事業部門や企画部門、管理部門といったあらゆる部門と関わるようになってきていますので、業界知見が豊富なインダストリー部門とのコラボレーションがこれまで以上に重要になってきています。そして、それらの部門との連携力を強化するためには、TASにも業界知見を持つチームが必要と考えました。TASのインダストリーチームが各業界の専門性を持つインダストリー部門と定期的に情報交換をすることで、業界のトレンドをいち早くキャッチし、業界に合ったソリューションの開発や提供をタイムリーに実施できるようになります。
田中:実行体制の右に「Global」と書かれています。もともとPwCはグローバルには強いと認識していますが、このチームはどういうミッションを持つチームでしょうか。
福田氏:私たちのクライアントには、海外に拠点を持つようなグローバル企業も多いため、クロスボーダー案件の際は、海外現地のPwCメンバーファームと連携し対応するようにしています。その際、PwCコンサルティングのメンバーは、短期出張として現地に赴くか、グローバル・モビリティ(国際間人事異動制度)という制度を利用します。この制度は、希望により現地ファームに出向し勤務できるというものです。
ただ、社会がスピードを持って変化していくなか、クライアントの課題もより複雑化してきています。私たちはクロスボーダー案件の際も、クライアントに近いところで支援ができるよう、海外の中長期プロジェクトに対応できるような支援体制の仕組みづくりを検討しています。
田中:そうなのですね。もともとグローバルに強いところを、更にクライアントに貢献できるよう強化していくのですね。今後の進展が楽しみです。
最初は経験を活かせるジョブから
田中:幅広く多彩な業務があり、さまざまな人材が求められていると感じます。抽象的な表現になりますが、どういう人を求めていますか。
福田氏:一言で言えば、テクノロジーを使ってコンサルティングサービスを提供したい人ですね。何らかのテクノロジー知見を持つ方はもちろん、インダストリーに特化したナレッジがある方なら、そこからテクノロジーを身に付けていただければと思います。
田中:そうなのですね。TASこそITコンサルティングの一丁目一番地ですので、テクノロジー経験のない業界経験者も採用を検討していただけるとは思っていませんでした。他にも、例えば、IT ガバナンスの経験を持っていて、他の経験はないけれども、将来的にはデータ・トランスフォーメーションをやりたい、といった方がおられた場合、TASで受け入れていただくことは可能でしょうか。
福田氏:そうした方も歓迎です。また、入社前にやりたいと思っていたことがあったものの、実務を手掛ける内に別のことに興味が出てきた、といった場合も問題ありません。TASには、関心領域が変化した場合でもそれをバックアップできるしくみがあります。これは「オファリング・プログラム」と言い、先ほど申し上げた横軸のソリューションごとにこれを深化させ、教育するプログラムです。このプログラムは毎年各職員に対して適用されており、また、その時のトレンドに合わせて常に更新されています。まあ、これを全部受けたらEAになれますよ!というわけですね。
田中:全部は無理にしても、常に最新のソリューションを学べるというのはすばらしいことですね。一方、幅を広げていくキャリアの方向性とは逆に、特定のソリューションやインダストリーに特化し極めたいという人もいると思います。そういう方もTASでの活躍ができますか。
福田氏:大丈夫です。さらに言えば、そもそも私たちはTAS以外の部門でキャリアを築きたい、という方にも門戸を開いているんですよ。
田中:OEP(Open Entry Program)ですね。
福田氏:そうです。当社のこのOEPというのは、グループ内異動制度のことで、希望によって他の部門やチームへの異動ができますし、PwC Japan有限責任監査法人やPwCアドバイザリーなどの別法人への転籍もできます。そのため、TASで採用されたけれども、先端技術を極めたいとなったらテックラボ(Technology Laboratory)へ移ることもできますし、セキュリティ分野への関心が大きくなったのであればDT(Digital Trust)チームに移るといったケースもあります。またインダストリーを担当する側からTASに来るメンバーもいるなど、かなり柔軟に異動できます。
田中:競合他社でも異動制度はありますが、これだけ実際に運用されているところは他にはないでしょうね。私がご支援して過去にPwCに入られた方も、実際に異動したり転籍したりしてキャリアを築いておられます。そこで一つ気になったのですが、異動するとこれまでとは異なる仕事をすることになります。また、採用した人の中にはコンサルティング未経験の方もおられると思います。そういった方々をどのように一人前のコンサルタントに育成しているのでしょうか。
福田氏:まず、中途入社の方には、1カ月のコンサルティング基礎研修を受けてもらい、その後、実際の業務に入っていただきます。先ほど申し上げたように、そのときのアサインは、各人の経験が生きるように配慮しています。アプリケーション開発者だった方ならアプリ開発に関係するプロジェクトへ、自動車業界から来た方なら、自動車産業関係のソリューションへ、といったやり方ですね。
田中:ただ、それでもすんなり行くとは限らないですよね。経験のそれほどない若い方の場合は特にそうです。
福田氏:そこで、TAS内にはL&D(Learning & Development)チームという教育目的のチームを設置しています。これは基礎研修のテクノロジー版のようなもので、オンラインの研修を、コーチによる進捗確認も含めて行います。実際のプロジェクトと並行して、かなり長期間にわたって教育し、脱落してしまう人が出ないようにしています。これは中途入社の方だけでなく、チーム異動をしてきた方にも適用しています。
田中:すばらしい仕組みをお持ちですね。中途入社の方も安心されると思います。もう一つ、SEをしてきた方の場合はいかがですか。L&Dによる教育プログラムがあるとはいえ、システム開発などのSE業務とTASのコンサルティング業務の間にはギャップがあると思います。この対談記事を読まれる方の中の多くはSEの方なのですが、コンサルティングなんて自分にできるのかな、と不安に思われる方も少なくありません。
福田氏:コンサルティング業務の経験がないSEの方については、アサインやタスクで工夫をしています。最初にアサインするのは全体の一部、それも今の能力・スキルでできそうなタスクを担当していただきます。そして、こまめにタッチポイントを設けてレビューします。具体的には、業務開始時、午後、夕方の3回に分けてチェックし、成果物のレビューを行うとともに、タスクを完遂できるようアドバイスしていきます。特に、リモートワークが増えてからはメンバーが孤立しないよう、頻度を増やし、まだ業務に慣れていない入社直後の方についてはさらに緻密にフォローするようにしています。
組織的にはPeople Careの観点で、TASメンバーを細分化して構成された約30人単位のグループを作り、その中で互いにコミュニケーションを取りあう仕組みを作っています。また、ディレクターやパートナーがグループのチームリーダー、コーチとなり、一人ひとりをケアしています。これによって横の人間関係もできますし、ジョブの悩みなどもコーチに相談できます。加えてバティー制度によって同年代とのつながりができるのは中途入社の方にとって心強いと思います。
田中:仮にTASにSEの方が中途で入るとして、入社前にしておいた方がよいことがあれば教えて下さい。やはり、ロジカルシンキングとかプレゼン資料の作成とかでしょうか。
福田氏:私が面接でよく尋ねる質問があります。「その仕事は何のためにしているのですか」です。実は、目的をよく理解しないままプログラムを書いてくる人が案外います。コンサルタントは、プロジェクト全体を把握する視野を持ち、その中で自分の立ち位置をロジカルに説明できるような人材です。従って、目的は何か、何のためにそれをするのか、を、どのような仕事をするときにも常に考えるようにしておいていただきたいと思っています。そうすれば、コンサルタントとして必要不可欠な本質追求思考習慣を獲得できます。
田中:なるほど。コンサルティングの仕事をしていると、そもそも、という言葉を毎日のように使いますが、これは言わば本質追求を意味しているんですね。スキルは入社してからでも身に付けられるので、早めに身に付けておくとよいのはこうしたコンサルタントとしてのマインドや思考習慣。そうしておけば、立ち上がりが早いということですね。もう一つ、ITコンサルティングではあらゆるテクノロジーを提案に含めていきます。それを考えると、常に新しいトピックやテクノロジーを取り入れる姿勢も必要かと思います。
福田氏:そうですね。ただ技術そのものを追うときりがありませんから私はそれはやりません。情報を網羅するのではなく、社会課題の解決という目的を意識して、解決策としてのテクノロジーを探していくとフィットしそうなものが見えてくるものです。探究心が膨らみ、いろいろな情報や知識がつながって課題解決に役立つこともあります。
田中:先に興味、関心を持つテーマがあり、それにはどのようなテクノロジーが必要なのか、と考えていくのですね。もっと言えば、「社会がどうあるべきか」という、高く広い視点や目的があって、そのために技術や手段を考えるのだと。
福田氏:コンサルタントとはそうあるべきだし、そこがこの仕事のおもしろさでもあると思います。
課題解決の手法を一から考える
田中:実際にTASに中途入社され活躍されている方の例を挙げていただけるとうれしいのですが。
福田氏:実は、私自身が中途入社です(笑)。だから中途採用の方の心情もかなりわかるつもりです。
田中:ぜひ福田様のご経験を聞かせてください。
福田氏:最初は大手電機メーカーの社内SEでした。販売・物流系のSEです。実は、先ほど話題に出た、コンサルティング経験のないSEだったんです。そこから外資系コンサルファームに転職したのですが、最初はERPの導入コンサルティングから始まりました。入ったばかりなのに、ERPの大規模なプロジェクトで物流領域のリーダーを任されて必死でしたね(笑)プロジェクトがカットオーバーしたときは、「ああ、これでこの業界で生きていける」とホッとしたのを覚えています(笑)。
田中:そういう時代ですよね(笑)。今では考えられませんが、当時は「君が入社できたということは、コンサルタントとしてバリューを出せるということだよね」とばかり無茶ぶりされるのが業界のデフォルトでした。私自身も、SEだったのに、いきなり大手商社のIT基盤構想策定にアサインされて苦労した経験があるのでよくわかります。その後、会社がPwCのメンバーファームに再編成されたのですね。
福田氏:そうです。そこからは銀行のシステム統合などでシニアマネージャーとしてのスキルを磨き、IT-PMIやその前段階のITデューデリジェンスなどに携わるようになりました。最近では自動車メーカーのコネクテッド・サービスやDXにも携わっています。こちらはAuto部門と一緒に進めています。
田中:TASの仕事は上流工程のみ、というイメージがありましたが、デリバリーまでしっかり手掛けているのですね。もちろん、詳細設計や開発をやるわけではないですが、それならSEとしての経験も生かせますね。
福田氏:私の他にもSEからTASに来た方はいます。例えば、前職がSIerのSEで、要件定義、ITアーキテクチャ、開発などを担当し、基幹システムや業務システムを手掛けていた女性がいます。彼女はUIやUX系のデザインに興味があり、TASでも最初はそうした仕事をしてきましたが、デューデリジェンスにも興味があると聞き、そちらにアサインすると十分な成果を上げてくれました。まだシニアアソシエイトですが、期待の人材です。
田中:そのようなアサインやキャリアパスが実際にTASにはあるのですね。SE出身者がコンサルティング業務を行うとき、どのような苦労がありますか。福田様ご自身の体験からお聞かせいただければと思います。
福田氏:まずは何をしたらよいのかにとまどいましたね。SEのように「要件を聞き、それを実現するプログラムを書く、システムを構築する」ではなく、「問題を聞き、課題を明らかにし、何をすべきか考える」のがコンサルタントですから。米国の方法論を手掛かりに試行錯誤しながら仕事をしていましたが、何がゴールなのか、何が自分のタスクなのかがなかなかつかめませんでした。
田中:そもそもお客様自体も何をしたらよいのかわからないケースが多いですよね。私も最初にアサインされたプロジェクトで、「何をしたいですか」とお客様の役員の方に聞いたら、「それを考えるのが君たちでしょ」と言われて衝撃を受けました。
福田氏:そうなんです。ただ、今のPwCには、そういった状況の中でもコンサルタントとしてアウトプットを出せる環境があります。プロジェクト事例、そのアウトプット、ナレッジなどが豊富に蓄積されていて、研修で学ぶだけでなく、そうした財産を活用したり、アレンジしたりすることで成果を出せるようになっています。そして何より、周囲のサポートや人間関係があります。ですから私が入った頃よりもスムーズに能力を高めていけると思います。
田中:外資系コンサルティングファームの一般的なイメージとして、人に頼るな!自分でやれ!と言われそうなイメージを持つ方が多いのですが、むしろ他業界よりも中途入社の方が活躍できるフィールドがあるという印象を持ちました。最後に、TASを志向する方に向けてメッセージをお願いします。
福田氏:コンサルタントはお客様の課題解決の支援でフィーをいただける仕事です。それだけに、自分がどのくらい社会へ貢献できるか、クライアントへ価値を提供できるかを真剣に考える人であってほしいですね。そして、TASおよびPwCコンサルティングには、心理学者マズローの言う欲求五段階の最上位、「自己実現欲求」を満たせる環境が十分に整備されていると思います。ですから安心して、高い志と強い意思を持って来ていただければと思います。
田中:本日お話をうかがって、ここまでできるのか、ここまでやるのか、という気づきがたくさんありました。TASで手掛けるコンサルティングアジェンダは、決して簡単にできるものではありませんが、コンサルティングには興味があるけれども自分で大丈夫かな、という方でも、ぜひ勇気をもってチャレンジしていただきたいですね。本日はありがとうございました!
ライター プロフィール
- 織田 孝一(おだ・こういち)
- 1959年生まれ。学習院大学法学部政治学科卒業後、広告制作会社および人材採用サービス会社の制作ディレクターを経て、1989年にライターとして独立。ビジネス誌などの他、企業広報・採用関連の執筆も多い。現在注力しているジャンルは、科学技術、IT、人材戦略、農学、デザインなど。