4月は育児休業を取得した社員の多くが職場復帰する時期です。職場復帰から1カ月、復帰した社員にとっても、復帰した社員を迎え入れた職場にも色々なことがあったのではないでしょうか。
育休からの復帰直後のトラブル
育休からの復帰は、復帰する社員だけでなく職場にとっても大きな転機となります。復帰直後の育休社員には「子どもが病気で会社に行けない」「出社した途端、保育園から電話がありお迎えにいかなければならなくなった」「久しぶりの職場でちょっと様子が変わっていた」といった、大小様々なトラブルが発生します。そうなると職場でも「急な欠席であいた仕事の穴を埋めなければならない」「復帰した社員のせいで急な残業が増えた」といったトラブルが連鎖的に発生します。
原因を探す心理
トラブルが発生すると、私達はその原因を探し求めます。復帰した社員を受け入れた職場の皆さんは「このトラブルの原因は、復帰した社員にある。」というように、トラブルの原因は自分ではなく、復帰してきた社員にあると考えるのではないでしょうか。
私達はうまくいかないことがあった時、その原因が自分にあるのではなく、自分以外の何かにあると考えがちです。「うまくいかないのは○○のせいで、自分は悪くない」と考えることで、自分がラクになるからです。「その社員が復帰してからトラブルが増えた」のだとすれば、「うまくいかないのは復帰した社員のせい」です。ですが、「うまくいかないのは復帰した社員のせいで、自分は悪くない」と考えることで、抜け落ちることがあることに注目しましょう。
うまくいかない状況の放置
「うまくいかない」かつ「なんとかしなきゃ」と考える時、私達は「どうしたらいいんだろう」と考えます。ですが、「うまくいかないけど、自分は悪くない」と考えた時、「どうしたらいいんだろう」とは考えません。「うまくいかない原因(ここでは復帰した社員)がどうすればよいかを考えるべき」と判断します。つまり「自分は悪くない」という思考は、うまくいかない状況の放置につながるのです。
うまくいかない状況が放置されれば、トラブルが多発します。トラブルの多発は、雪だるま式に私達を追いつめ、「お前のせいだ」という感情を増大させます。悪循環ですね。
トラブルの原因を放置しない
「トラブルの原因は復帰した社員にあるのだから、彼(女)が何とかすべきではないか?」という疑問を持たれる方も多いでしょう。確かにその通りです。トラブルの原因の一端は、復帰した社員にありますので、彼(女)も「どうしたらよいか」を考える必要があります。ですが同時に、復帰した社員を受け入れた職場の皆さんにも「どうしたらよいか」を考える必要があります。
いくつかの理由がありますが、最も大きな理由はここでの職場の皆さんの立ち振る舞いが、復帰した社員の今後の働き方の分かれ目になるからです。育休復帰後も働き続ける社員のキャリアはどうあるべきか、という点については様々な議論がなされていますが、現段階で頻繁に聞かれる問題が「育休後復帰してきた社員が思った程働かない」ということです。
復帰直後という転機
復帰した直後は、子育てしながら働くという新しい経験をする時期であり、同時に仕事と育児の両立ができるのかという不安でいっぱいの時期であり、キャリア上の大きな転機と言えます。転機は人の心を敏感にします。そんな時に「会社は子育てしながら働く社員に冷たい」「両立は大変なのに会社はわかってくれない。助けてくれない。」といった思いを強くすることは、その社員のこれからの何十年に渡る仕事や会社に対する姿勢や意欲に大きく左右します。「会社がわかってくれないのなら、最低限の仕事をすればいいや」と考える人が出てくるかも知れません。
復帰直後の職場での関わり方が「仕事をしない子供がいる社員」を生み出す原因になりうるのです。このことは「復帰した社員のせいでトラブルが多発する」以上に大きな問題です。眼の前で起きているトラブルについて、復帰した社員と彼(女)を受け入れた職場が共に解決策を考えることは、職場のトラブルを解決するだけでなく、その後の彼(女)のキャリアにも影響すると考え、眼の前のトラブルに対し、しっかりとコミュニケーションを取り、解決策を考え、実行してほしいと考えます。
まとめ
- 育休からの復帰者を迎えた職場では大小様々なトラブルが発生するが、「復帰者自身でトラブルを解決しろ」というスタンスは事態を良い方向には持って行かない。
- 復帰直後の職場での関わり方が、復帰者のその後の働き方やキャリアに影響するので、コミュニケーションをしっかり取り、共にトラブルを解決し、乗り越えていくことが大切。
筆者プロフィール
- 坂爪 洋美
法政大学キャリアデザイン学部 教授 - 慶應義塾大学大学院経営管理研究科博士課程修了 経営学博士。専門は産業・組織心理学ならびに人材マネジメント。主要な著書は『キャリア・オリエンテーション』(白桃書房、2008年)等。