働いていると「困ったな。どうしたらよいだろう?」とか「問題だ。嫌だな。」といった場面に遭遇することがあるかと思います。何か問題を感じたとき、皆さんはどんな行動を取るでしょうか。色々な行動がありますが、今回はそのうちの1つである「人に頼る」ことについて考えてみたいと思います。
人に頼ることの2つの意味
以前、ストレスを感じた時の対処行動には大きく分けて2つのタイプがあると書きました。ストレスの原因を減らそうとするタイプの行動と、ストレスの原因に対してできることはあまりないのでそこにはふれず、自分の気持ちをラクにしょうとするタイプの行動です。私達が「人に頼る」ことにはこの双方の側面が含まれます。すなわち、周囲からアドバイスをもらい、自分の困りごとを解決しようとする側面と、困りごとについての話を聞いてもらうことで気持ちをラクにするという側面です。
誰かが助けてくれるという期待
実際に周囲を頼ることで問題が解決したり、気持ちがラクになることはもちろんですが、実際に頼らなくても、「何かあれば周囲が助けてくる」と思えるだけで私達の気分がラクになるのです。前回お話ししたストレスに関する調査からも、「何かあれば周囲が助けてくる人がいる」と考えている人は、そうでない人と比べて、厳しい状況に直面した時に強いストレスを感じにくいことが確認されています。
人によって異なる、「頼る程度」
このように、一般的に私達が困った時に心強い選択肢となる「周囲に頼る」という行動ですが、周囲を頼る程度は人によって大きな違いがあります。困った状態に追い込まれても、周囲に頼らない人もいます。もちろん、人に頼らないで自分で解決するという方法自体は決して悪いことではありません。ですが、頼った方が良いであろう時ですら頼らないということはもったいないことではないでしょうか。
自分への高い自信というハードル
周囲に頼らない人は、概して自分に自信があることが多いようです。自分に自信がある人は、困ったと感じている自分に対して、なんて恰好が悪い、情けないといった否定的なイメージを持ちます。恰好よくない自分を周囲にさらすことはもっと恰好が悪いので、周囲を頼ることをしないのです。
周囲に頼ったことがないわけですから、周囲を頼ることでの成功経験も当然ありません。そうなると、「周囲に頼ることに意味はない」といった考えをもつようになり、ますます頼らなくなるのです。
2つタイプの周囲の頼り方
基本的には、うまく周囲を頼りながら困った局面を切り抜けていくことが大事です。それだけでなく頼り方も大事です。一口に周囲に頼るといっても、そこには2つの異なるタイプが存在すると言われています。自分自身で問題を解決すべく周囲を頼るのか、周囲が問題を解決してくることを最終目的として頼るのかという違いです。
自分自身で問題を解決すべく周囲を頼る場合、何が問題なのかということが自分の中で明確になっているので、周囲に求めるのは問題解決のためのヒントだったり、糸口となります。一方で、自分に替わって問題を解決してくれることを期待して周囲を頼る場合、何が問題なのかが自分の中で整理できておらず、「困った」「つらい」「大変だ」といった感覚が強くなっているため、周囲に求めるのは答えだったり、直接的な援助となりがちです。
周囲が問題を解決してくることを最終目的として頼ることが悪いわけではありませんが、自分自身で問題を解決すべく周囲を頼るというタイプの頼り方は、「自分で困りごとや問題を解決できた」という自信にもつながることから、できる時にはそのような頼り方をしていくことが望ましいでしょう。
大事なタイミング
問題が大きくなり、非常に追い込まれた状況に置かれると、人は余裕がなくなり「もうダメだ。今さら何をやっても遅い」と周囲に全く頼らなくなったり、逆に「もうダメだ。何とかしてくれ」と周囲に頼りっきりになるといった極端な行動を取りがちです。そうならない段階、つまりまだ余裕がある段階で周囲を頼りながら、自分が問題に立ち向かっていこうとすることも大切です。
まとめ
- 「自分が困った時には周囲が助けてくれる」という期待は私達をストレスから守ってくれる。
- 自分への高い自信が周囲を頼ることへのハードルとなる。常に周囲を頼らないのではなく、状況に応じて人を頼れるようになろう。
- 人の頼り方には、(1)自分でなんとかしようとする頼り方と、(2)周囲になんとかしてもらおうという頼り方がある。前者の方が自分の自信につながると言われている。
筆者プロフィール
- 坂爪 洋美
法政大学キャリアデザイン学部 教授 - 慶應義塾大学大学院経営管理研究科博士課程修了 経営学博士。専門は産業・組織心理学ならびに人材マネジメント。主要な著書は『キャリア・オリエンテーション』(白桃書房、2008年)等。