ストレスはいつも悪者なのか?
前回に続き、ストレスについて考えてみましょう。ストレスは一般的には悪者と考えられています。それは、私達がイライラしたり、落ち込んだり、眠れなくなったりする原因の1つにストレスがあるからです。そして、眠れないことや食欲の低下が、私達の身体やメンタルにおける健康度を低下させることにつながるからです。
ですので、一般的にストレスは悪者と捉えられることが多いです。しかし、ストレスは常に悪者なのかという問いに対する答えは「YES」ではないと言われています。例えば、就職や転職、結婚や親になるといった「変化」は、代表的なストレスですが、転職先やパートナーとの新しい生活に適応していくことで、新しい能力がつく、新しいスタイルが身につくといった私達の成長につながる側面があります。ストレスには、良い面悪い面双方があるのです。だとするならば、私達にとって大事なことは、ストレスとどう付き合うかということになります。
何にストレスを感じるのか
そもそも私達はどんな時にストレスを感じるのでしょうか。私達は、その出来事は自分にとって「脅威」と感じるものに対してストレスを感じます。そして、より脅威だと強く感じるものに対してはより強いストレスを感じます。
例えば、あまり親しくない友人ともめた時よりも、上司ともめた時の方がより強いストレスを感じるでしょう。それは、上司とうまくいかなくなると仕事がやりにくくなり、かつ上司はあなたの評価者であることから、評価に対して悪影響を与える可能性があるので、よりあなたにとって悪影響を及ぼすからです。多大な悪影響は大きな脅威となります。
ストレスへの個人差
では、上司ともめるという状況に遭遇しても、強いストレスを感じる人とそうでない人がいるのは何故でしょうか?こういう問いをすると「ストレスに強い人と弱い人がいるから」という答えが返ってくることがよくあります。確かにそういう部分もあるのですが、答えはそれだけではありません。先ほどの脅威というポイントから考えてみましょう。
人が脅威に感じるものは、その人が大事にしているものだと言えます。上司ともめることが強いストレスになる人は、「常に上司と良好な関係にあること」をとても大事にしている人だと言えます。逆にあまりストレスとならない人は「上司との関係がうまくいかなくても、大したことはない」と考えていることから「上司との良好な関係」を大事にしていない人だと言えます。
ストレスを通じて自分の価値観や期待を知ろう
見方を変えると、その人が何によってストレスを感じやすいのかを理解することで、その人が何を大切にしているかを捉えることができます。つまりストレスを通じてその人の価値観を理解することができます。
同様に、その人が周囲に対してどのような期待を持っているかを理解することができます。例えば、自分に対していつも怒っている人は、「周囲の人は自分に対してやさしく対応すべきだ」という強固な期待を持っていることが多くあります。その期待が強固なため、そこから少しでもずれた対応をされると、期待を裏切られたと感じ、強い怒りの感情がわいてくるのです。
価値観や期待を知って、ストレスとうまく付き合おう
ストレスを感じやすい人は、「ストレスに強くなりたい」という希望をよく口にします。ストレスに強くなる1つの方法は、ストレスとうまく付き合うことです。うまく付き合うためには自分自身の価値観や期待を知ることが大事です。
どんな価値観を持っているかを理解することで、ストレスを自分で予測し、予防策を講じることができます。また、その価値観や期待は妥当なものなのかを再度振り返ることができます。例えば、前述した「周囲の人は自分に対してやさしく対応すべきだ」といった期待は、場合によっては的はずれであり、その不適切な期待がストレスの原因となっていることから、期待を変えることがストレスの予防になります。ストレスをきっかけとして自分の中にあるストレスの原因に気づき、対処していくことがストレスとうまくつきあうことにつながります。
まとめ
- ストレスは私達に悪影響を及ぼすことが多いが、ストレスには私達を成長させる側面がある。
- あなたが強いストレスを感じるものは、あなたが大事にしているものと密接につながっている。自分がどんな対象にストレスを感じるかを振り返り、自分の価値観や周囲への期待を理解しよう。
- 状況に応じて、価値観や期待を柔軟に変え、ストレスとうまくつきあっていこう。
筆者プロフィール
- 坂爪 洋美
法政大学キャリアデザイン学部 教授 - 慶應義塾大学大学院経営管理研究科博士課程修了 経営学博士。専門は産業・組織心理学ならびに人材マネジメント。主要な著書は『キャリア・オリエンテーション』(白桃書房、2008年)等。