第2章:IoTの実現を可能にするために必要な要素
IoTを実現する人たち
第1章ではIoTとはどんなもので、IoTがもたらす革新についてマクロ的な視点からお話をしてきました。また、IoTが進むにつれて私たちの身の回りの生活がどのように変化し、現時点でどの程度実用化されているかについても簡単に触れました。これまでの内容から、IoTがもたらす大きな変革にワクワクしてきた方も多いと思います。(そう思っていただけたら、非常に光栄です。)本章では、もう少し内側の視点、つまりテクニカルな側面からお話をしたいと思います。
情報システム部門以外のIT
本記事を読んでいただいている方は、「情報システム部門」と聞いて、どんな役割を思い描くでしょうか。本章では、IoTが進む中での「企業としてのITを活用する部門」についてお話をしたいと思います。
例えば、人事給与システムを例にしてみましょう。人事給与システムは人事部門がユーザとなり、年末調整や家族情報の追加/修正、また毎月の給与明細出力など、人事業務全般に携わるシステムです。ただ、上記の内容はあくまでシステムが安定運用フェーズに入ったときの話。仕様の調整から始まって、サーバのメンテナンスやシステムのリプレース計画、ユーザ試験計画など、カットオーバ前からシステムを主導しているのは、多くの企業の場合、情報システム部門です。人事給与システムの場合、法制度の変更等がなければ既存業務と大きく変わることはないため、リプレースの時も既存機能を踏襲した形+αで改修が進みます。設計や製造のノウハウも、過去に構築したシステムの内容が比較的継承できるはずです。システムの目的が明確な人事給与システムなどの基幹系情報システムでは、情報システム部門がシステムの川上から川下まで携わっていました。
しかし、IoTの主導は情報システム部門ではなく、より現場に近い事業部門にあります。例えばある製品に付加価値を付けるため、事業部門が自らIoTと絡めた製品企画をしようとしたとします。この場合、当然事業主である事業部門が主体となってIoTサービスを定義しなければ、当然良い企画は生まれません。事業部門自らが、システムの要件定義~設計/製造をすることになります。(さらに、運用までする必要があるかもしれません。)つまり、情報システム部門以外にはあまり関わりのなかった、システム開発のノウハウや手法が、事業部門にも必要になるということです。
そのため、情報システム部門と事業部門の関係は大きく変化します。ITの扱い方を知っている情報システム部門と、事業に詳しい事業部門のお互いがノウハウを共有/継承しながら新製品の立ち上げを進めていかないと、IoTが強い会社、企業は生まれないでしょう。
企業が目指す新しいIT活用
前項では、IoT時代における情報システム部門の在り方についてお話しました。本項では、企業が目指す新しいITビジネスについてお話します。IoTはデバイスから集まってきたデータを分析/収集し、ユーザに新しい価値を与えるというお話をしました。では、デバイスから分析/取集されたデータはユーザのみに価値があるデータでしょうか。
例えば、第1章でお話をした建設機械メーカの場合、IoTサービスはユーザへ対して付加価値を提供します。しかし、同社の本業はあくまで「建設機械自体を販売すること」。一番の収益源となる建設機械の販売を伸ばすためにも、建設機械自体の製品開発や研究開発が必要不可欠です。IoTでは機械自体のデータを取得できるため、各部品の劣化状態を容易に取得し、データを活用して新しい製品の開発に役立てることができます。分析データをユーザへ提供するだけでなく、自社内でIoTデータを有効活用し、本業へ活かすことも可能なのです。
さらに言えば、製品が市場に出回った後の利用データを見ることにより、販売後の使用方法から、開発のヒントを得ることができます。製品の使い方はユーザによって異なる場合も多く、新しい製品のマーケティングの観点でも役に立つデータではないでしょうか。IoTが進むことで、過去にはマーケティングを実施して得ていた情報を瞬時に取得できるため、顧客と製品開発者が近い存在となります。IoTは、企業と顧客の位置関係も変えてしまうテクノロジーなのです。
IoTビジネスのステークホルダー
本項では、IoTのビジネスを実施した場合にどのような要素が必要で、今後IoTの普及はどのように進んでいくかのお話をしようと思います。
IoTビジネスの取り巻く環境
IoTに限った話ではないですが、ITやビジネスを取り巻く環境は変化を続けています。一般的に、新しいIT技術はまず法人向けとしての活用が期待、導入されるなか、数年経つとコンシュマー向けに技術が広まっていく傾向が多いように思います。
インターネットでさえ、1980年ごろには法人向けのサービスが主流でした。しかし現在では一般の方にもインターネットが容易に繋がれ、私たちは日々インターネットを使っています。携帯電話が出た初期のころは法人契約が多かったと思いますが、昨今では、個人向けの契約がほとんどだと思います。
このような流れから考えると、IoTも現在では法人向けの機械監視サービスや故障検知サービスが一般的ですが、ここ3~5年程度で大きくコンシュマー向けのサービスやビジネスに展開・変化するように思います。
IoTの一番の利点は、顧客と企業の関係がより密になる点だと考えています。インターネットにつながったデバイスから、顧客情報が企業へ直接送信されるという仕組みこそ、最強のマーケティングデータです。企業側では、出荷された製品の使用状況や問題点などをすぐに把握でき、次回の商品開発や新しいサービスのキッカケになるでしょう。デジタルマーケティングの観点から言えば、極めて効率的であると言えます。
IoTを活用するメリットが企業側・顧客側にも存在するため、それを取り巻くビジネス環境は優位性があると考えられます。企業と顧客の関係は、IoTを使うことによりこの3~5年で大きく変化することでしょう。
IoTデバイス/サービスを提供する人たち
前項ではIoTが取り巻くビジネス環境は明るいというお話をし、3~5年程度で大きくIoTの活用が進むというお話をさせていただきました。本章では、IoTのサービスを提供する人たちについて、触れてみます。
IoTが一番普及するための条件としては、良質なハードウェアと良質なサービスがあって、初めて普及すると考えます。当然ハードウェアの設計/製造が得意な会社、サービスの設計/製造/運営が得意な会社があると思います。この両方が得意な会社は世の中にそんなに多くありません。代表例としては、アップルコンピュータです。(アップルのビジネスモデルの記載は割愛します。)ハードウェアとサービスの両軸で投資をしようとした場合には、必要なスキルセットを持った人材も異なれば、投資額も膨大になることが想定できます。よほど資産が潤沢でない限り、多くの企業ではどちらかの得意領域の投資に留まるはずです。ハードウェアが得意な企業とサービスが得意な企業が、お互いの投資領域とビジネスの得意領域を分析し、コラボレーションすることが、IoTビジネス成功の近道かもれません。
そのため、昨今では、オープンイノベーションやハッカソンなどが盛んになってきています。オープンAPIなどの盛り上がりによって、企業間同士の連携がさらに進んでいくはずです。これらのコラボレーションにより、今まで自社では知ることができなかったテクノロジーが共有され、自社にはないカルチャーと、アイデアを具現化することができるようになります。このようにコラボレーションという観点から考えると、IoTデバイスやサービスを提供する人たちは、意外にもIoT普及の対象となる一番遠い人がなり得る可能性があります。
最後の章では、「今後のIoTに必要なもの」というテーマで具体的に説明します。