COLUMN
コラム:転職の技術
第869章
2018/11/16

社内SEの甘い罠(中編)

— バラ色の環境なんてそうそうない、メリット・デメリットをきちんと知ろう —

大規模プロジェクトが終わったあとは?

私も現在社内SEをやっているので分かるのですが、正直なところ、大掛かりなシステム刷新はやりたくありません。収益事業に時間を使いたいので、いま使っているシステムが曲がりなりにも使えているなら、クリティカルなことがない限り、そっとしておきたいと思っています。

IT業界にいたときに、なんでこんなに老朽化対応プロジェクトがあるんだろうと思っていたのですが、要するに、必要に駆られなければ誰もシステムリプレイスなんてやりたくないんだな、ということを、社内SEになって初めて実感しました。

さて、その前提のもと、「いま大規模なシステム導入が控えている」「大規模プロジェクトが進行中である」、だから来て欲しい、という募集があったとします。募集時の打ち出しとしては、ITに対して積極的に投資をしており、あなたに活躍の場がある、ということになるわけですが、本当に積極的に投資をしているのか、それとも必要に駆られてやっているだけなのかはよく確認する必要があります。

もし前者であれば、大規模プロジェクトが終わった後もやりがいを持って生きていくことができるでしょう。ただ、後者だった場合は、大規模プロジェクトが終わった後は、少なくとも5年は大規模プロジェクトはまずありません。日々の運用、ヘルプデスク、そして保守開発のプロジェクトがパラパラ、という感じで、次の大規模プロジェクトをじっと待つことになります。

それはそれでラッキー、楽でいいな、と思われるかもしれませんが、その5年の間、ご自身の経験の積み上げが薄く、市場価値が低くなってしまう可能性がありますし、そもそも仕事のモチベーションが続くのか、という問題があります。

忙しい日々を過ごしていると、仕事があまりない生活に憧れますが、実際にやってみると地獄です。ある友人は、どれだけ頑張っても1日4時間くらいしかやることがなく、有名企業で高い地位を得て、お金も時間も十分にあるけれども空しいということで、先日ベンチャー企業へ転職をしました。また、私自身も、学生時代に住宅展示場の案内プラカード持ちのアルバイトをやったことがあるのですが、非常に時給が高いものの、突っ立っている以外何もしてはいけないので、暇で暇で仕方なく、即刻辞めたという経験があります。

短い人生、たまには暇も欲しいですが、常時暇というのは人生そのものを暗くしていきます。そのため、大規模プロジェクトがあるとしても、その先はどうなっていくのかといったことをよく確認していただきたいと思います。

ワークライフバランスは本当にいいの?

最も誤解を生みがちなのが、社内SE=ワークライフバランスがいい、という思い込みです。前述の通り、傾向としてSIerやコンサルティングファームよりも業務調整がしやすいことが多いものの、そうではないケースも予想以上にあります。

これは実態を個別に調べていくしか方法がないのですが、調べ方の観点としては、ITの整備状況、IT担当の業務範囲、業界の特徴、社風、事業部門の方の働き方などが挙げられます。

社内SEになりたい方で陥りがちなパターンとしては、現職の仕事が忙しくて仕方がなく、逃げるようにして転職先を決めてしまって、入社してみたら前職と変わらず忙しかった、というものです。IT担当は事業会社内でも立場が弱いことが多く、もしそういう会社に入ってしまったら、事業部から急ぎでやれと言われたら情報システム部長であってもそれを断れないため忙しくなるようです。

また、IT関係の業務がそれほどない場合でも、事業会社の社員というのは、あくまで事業を維持し伸ばしていくことがミッションなため、ITとは関係のない仕事であっても、事業部が困っていたらヘルプで入るため忙しくなる、といったこともあります。実際、ある看板事業をやっている会社に社内SEとして入社した方が、繁忙期に現場に駆り出されて徹夜で看板を立てました、ということを仰っておられました。前述の調査の観点の一つに「IT担当の業務範囲」と書いたのはそのためで、IT系の業務範囲だけ聞いても十分でない場合があり、そこが入社前のイメージと入社後の働き方のギャップを生む原因になっていたりします。

そして、管理上は残業時間がほぼなくても、社風として会社に申告せずたくさん残業をする会社もありますし、事業が昼夜を問わない性質のものの場合、それを支えるIT担当も昼夜の境目がなくなったりします。

慎重に転職活動を進める方であれば、こういったことはきちんと調査・確認をされると思いますが、現職業務が多忙だったり、面接が多すぎて疲れてしまっていると、どうしても内定が出たところに飛びつきがちです。しかし、上記のようなこともあり得ますので、社内SE=ワークライフバランスがいい、という思い込みは捨てて、実態を確認していただきたいと思います。

給料は上がっていくの?昇進昇格は?経営に関われる?

ITが台頭する前から存在する業界にいる方は、そもそもITがなくても事業が成り立っていたため、「自分たちが主役でITはおまけ」「ITはコストセンター」という意識を持ちがちです。

いまはもうITなくして事業が成り立たないケースが圧倒的に多いですし、それは従来からある事業会社の方々も頭では理解しています。しかし、やはり「ITは裏方である」「稼いでいるのは自分たちだ」という意識が強く、なかなかIT担当の立場が上がってきません。いまだに事業会社に新卒で入った人が情報システム部に配属されると、これは私がやりたかったことではないと嘆くくらい、事業会社にとっては花形とはほど遠い部門と認識されているわけです。

ある超有名企業の情報システム部のトップにいた方が、「部門ではトップなんだけどこれ以上あがることが出来ないし、ITがこれだけビジネスの要になってきていても、やっぱり現場の発言権が強いので、新卒採用担当になったときには、ITは三軍(二軍ですらない)だよと正直に話をしています」と自嘲気味に仰っておられました。その会社は、対外的には最新ITを積極的に取り入れてビジネスを加速させていると各経済誌や経済系ニュースでも大々的に取り上げられている企業です。その企業ですらそうだったのか、と私も驚きを隠せませんでした。

この方は、それでもその会社で昇進・昇格を果たし、部長として経営にも関わっておられましたので、社内SEの中でも恵まれた立ち位置で仕事をしておられました。ただ、現実的にはまだまだITは脇役、コストセンターという意識の会社がたくさん存在し、それ故に給与も上がりにくく、昇進・昇格も事業部門に比べて遅く、経営はおろか事業にすら口を出せないという古い企業も少なくありません。

この手の情報は外部にはほとんど公開されないため、調査が非常に困難なのですが、口コミサイトであったり、私どものように業界情報を日々集めているところに聞いたりして情報収集をしていただきたいと思います。(後編に続く

筆者 田中 祐介
コンサルタント実績
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