- プロフィール
- 地方の国立大学の大学院を卒業後、中堅SI会社に入社。1年目に早くも要件定義から導入までを経験したが、2年目以降は保守の担当に。開発の仕事に携わることを求め、20代半ばで転職を決断してテクマトリックスに入社。金融系部門に所属し、パッケージの改修や新規開発を経験。比較的規模の大きい案件を任される人材に成長した。
しかし、上司のレビューがない体制に疑問を持つ。さらに保守業務に回されたことが決定打となり、開発に携わることができ、かつ自分に合った職場を求めて転職。
新天地はテクマトリックスの金融部門。そこは、上司のフォローが手厚く、社員同士の連携もしっかりと考えられた環境。まさに自分が求めていた「社員を大切にする会社」だった。
担当業務は金融系パッケージの改修や開発。難解な案件が多く、決して簡単な仕事ではない。しかし、持ち前の粘り強さや責任感でハードルをクリア。今は、自分が一段ずつ階段を上るように成長していることを実感する毎日だ。
一度は階段を踏み外しかけたが、そこからリカバリーし、成長軌道に乗れた要因は何だったのか。自分が望むキャリアに修正した軌跡と、それを成し遂げるポイントを聞いた。
上司のレビューがない体制への不安
これからのビジネスはITが不可欠になる。そんな思いから進学した国立大学の情報工学科。アルゴリズムの研究を大学院まで続け、卒業後、就職先として選んだのは、金融系システムに強い中堅のSI会社だった。
—— 大手ではなく、中堅のSI会社に就職した理由は何でしょう?
Hさん:大企業は手厚い指導が受けられるかもしれませんが、経験を積むのに時間がかかる。それに対し、中堅企業であれば新入社員から現場の主業務を任される可能性が高い。そんな見通しを持って、風通しが良く、自由度が高いSI会社を選びました。そのSI会社では期待通り、現場配属から約半年後にクライアント先に常駐することになり、債権管理システムの要件定義や基本設計を担当することになりました。
—— 新人ながら要件定義を任されることは、良い経験になったのでは?
Hさん:早くから顧客折衝の経験を積めたのは僥倖でした。しかしここで問題だったのが、上司のレビューがないことでした。つまり、全ての判断や業務は、基本的に自分一人で行わなければならなかったのです。何もわからないまま試行錯誤で対応する毎日。顧客の担当者にヒアリングしながら、何とか各工程を進めていきましたが、導入後、恐れていたことが起こりました。バグが出て、客先に迷惑をかけることになってしまったのです。
—— 裁量が大きいのは利点。ですが、レビューがなければ新人が作るものに高い品質を望むのは難しいのが現実です。
Hさん:クライアントにも「上司のレビューは受けているのか」と苦言を呈されます。そこで、多忙な上司に頼み込んで見てもらったり、それを顧客に報告、反映するなど火消しに追われる日々を送り、何とかやり切ったのです。新人ですぐに要件定義から導入まで経験できたことは大きな収穫。ですが、レビューがなく、低品質のものを納めざるを得ない体制に不安を感じたというのも正直なところです。
—— その後はどのような業務を?
Hさん:開発の案件から外され、債権管理システムの保守を担当することに。ルーチンワークが多く、もっと開発を経験したいという自分の思いとは真逆の業務でした。加えて、保守業務は徹夜の作業もあり、かなり根気を求められる仕事。それでも何とか気持ちを保ち、約1年間、真面目に取り組みました。
けれども、モチベーションが徐々に低下することは防ぎようがなく、このまま保守のエンジニアとして定着してしまうことにも危機感を覚えました。まだ、入社から1年半しか経っていない時期でしたが、自分のキャリアを修正するのは今しかない。そう考えて、思い切って転職する決断をしたのです。
転職の成功とその後の仕事を支えた“粘り強さ”
転職活動を始めたHさんが、サポートを依頼したのがリーベル。偶然、同じ時期に転職活動を始めた同僚がリーベルの支援を受けており、勧められたのがきっかけだ。
—— リーベルでは最初、どのような話をされましたか?
Hさん:転職を決意したものの、希望は「開発の仕事に携わりたい」という大雑把なもので、応募先は未定。そうした中、リーベルのコンサルタントと相談し、将来有望な医療システムの開発に携わろうと応募したのが、テクマトリックスの医療システム部門です。しかし、面接では、私が医療システムの開発経験が全くないことから、あっさりと不合格に。当然の結果だと落胆していると、人事担当者から「経験がある金融系であれば採用は可能」と言われ、渡りに船とそのオファーを快諾。こうして、テクマトリックスへの入社が決まったのです。
—— テクマトリックスがHさんを採用した理由を聞いていますか?
Hさん:エンジニアの経験は1年半と短く、中途採用としては物足りなかったと思います。ただし、システム開発を何とかやり切り、保守業務も粘り強く成し遂げてきたことが、評価されたようです。金融系システムやパッケージの開発は難解で根気の必要な作業が多く、求められるのは、実はこの粘り強さ。そこに適性があると見込まれ、採用が決まったというわけです。
—— 入社後、どのような案件を経験してきたのか、教えてください。
Hさん:最初にアサインされた案件が、銀行や生保向けのリスク管理パッケージの改修。リスク管理パッケージとは、株や為替、債券の価格が変動する中、各金融機関が保有する資産が最大どれくらい損失を被る可能性があるかを計測し、自己資本比率の算出に必要な指標を提示するソフト。当時、パッケージが想定していない「マイナス金利」が生じる中、それをソフトに組み込むための改修が初仕事となったのです。
—— 株、為替から債券まで幅広い知識が要求される業務を当初から担うことになったわけですね。
Hさん:担当したのは、計算によってはじき出された数値が正しいかを検証する業務。私がExcelを使って手動で計算した結果と、ソフトの計算結果を突き合わせていくのですが、これが実に根気がいる作業でした。両者の計算結果が違う場合もあり、そうなるとプログラムを読み解いて原因を突き止めなければならず、これがまたひと苦労。粘り強さが必要という意味を、最初の仕事で思い知らされたわけです。
—— ただ、根気を持って業務を最後まで成し遂げ、社内での評価も高まったと聞いています。
Hさん:上司が相談に乗ってくれたり、しっかりとレビューをしてくれたことが非常に力になりましたし、同僚と協力しながら対応する体制も整っており、まさに「社員を大切にする会社」であることが、私にとって大きな支えになりました。また、数値検証だけでなく、既存パッケージのバグを見つけて報告し、品質を高める改修につなげたプラスアルファの仕事ぶりも評価されました。
一つひとつ階段を上がりながら成長できる環境
上司のサポートを受けられ、社員同士も助け合う。前職とは異なる体制の後押しもあり、Hさんは社内で頭角を現していった。入社して2年目にはプロジェクトリーダーに抜擢され、キャリアを伸ばしていった。
—— 入社して2年目、プロジェクトリーダーとなり、また一つステップアップしました。
Hさん:同じリスク管理パッケージの機能拡張のプロジェクトでした。ただ、プロジェクトマネージャーが補佐してくれたので、不安を感じることなく業務を進めることができました。一方、要求される金融知識の量は格段に増加。自分で金融から統計学の専門書まで読破して理解しながら、上司や社内のコンサルタントにも教えを請け、何とかキャッチアップしていったというのが実情です。
—— その後は受注額の大きなプロジェクトも担当するようになりました。
Hさん:社内報で「注目の案件」と紹介される大きな案件の主担当になるなど、重要な役割を任されることも多くなっていったのです。また、当社では業界初の仮想通貨向けリスク管理パッケージを開発、リリースしていますが、その開発にも携わり、営業社員と共に仮想通貨業者に売り込みに行く役割も担っています。会社の業績に貢献できる案件に次々とアサインされ、やりがいを持って仕事に当たっている毎日です。
—— 転職先で自身の力を存分に発揮し、周りにも認められ、良いキャリアのスパイラルを駆け上がっています。要因は何でしょう?
Hさん:これは性格的な部分が大きいかもしれません。私は仕事を曖昧な理解で行うことは本来したくないタイプ。前職では、何も知らないまま取り組まざるを得ない場面があり、自分の本領を発揮できないこともありました。今は、専門書を読み込み、わからない点は上司に相談しながら、一つひとつの仕事を腑に落ちた形で取り組めています。私の真面目な性格を活かす環境が整っているのです。その中で、一つひとつ階段を上ることができた点が、良いキャリアにつながっているのだと考えています。
—— キャリアアップするのに自分に合った環境を選ぶことは重要ですね。
Hさん:そう思います。放任主義が性格的に合って成長する人もいると思います。ですが、私の場合そうではなかった。テクマトリックスは、いきなり放り出されることはなく、最初は上司がしっかり付いてくれ、慣れるにしたがってだんだん離れて任せてくれる理想的な環境。順々にステップを踏みながら成長できる点が、自分にはとても合っていると実感しています。
転職先で大切なのは働きやすい空気を作ること
自分の肌に合ったテクマトリックスで、水を得た魚のように思う存分力を発揮するHさん。どうすれば、そういった誰もが求めるキャリアを歩んでいけるのか。これから転職する方たちへのアドバイスとして聞いてみた。
—— テクマトリックスでは、活躍している社員を表彰する機会もあるようですね。
Hさん:テクマトリックスは楽天から資本出資をしていただいた時期があり、その際に楽天の文化に習う形で、月に一回、社員を集めて業績を報告する「朝会」を当社でも実施するようになりました。その中で、優秀な業績を残した社員を表彰する制度があり、実は私もマイナス金利案件の対応が評価され、「敢闘賞」を受賞しました。名前が呼ばれ、拍手されて皆の前に立ち、社長から表彰されることはとても名誉なこと。やる気がぐっと高まりました。
—— 改めて、表彰されるほど成果を出している理由をどのように考えますか?
Hさん:私は常々「仕事の品質」を大事にしたいと考え、目の前の業務に向き合ってきました。その品質へのこだわりが評価され、大きな案件を任され、責任感を持って取り組むことでさらに結果を出す、好循環につながっているのだと思います。もう一つは、転職した当初から社内に馴染めるように、積極的にコミュニケーションを取ってきたこと。例えば、事業部の枠を超えて、飲み会や送別会の幹事を率先して引き受け、自分の存在を知ってもらえるように心がけました。その甲斐もあり、1年目から「もう、3年も5年もいるような気がする」と言われるほど、溶け込むことができた。こうして自ら仕事がしやすい空気を作ることも、転職先で成果を出す秘訣だと思います。
—— 良いキャリアを積むための心掛けも教えてください。
Hさん:困難に直面した時の人の対応は、逃げたり適当に済ませたりするか、あるいは問題を解決するまで最後までやり抜くかに分かれると思います。私は常に後者の立場をとってきました。言い換えれば、負けず嫌いになり、自分自身にも決して負けないということ。その心構えがキャリアアップには必要ではないかと考えています。
—— どんな案件でも最後まで立ち向かっていくのが大切。その心掛けがあれば、一度は道を踏み外したとしても、修正がきき、望むキャリアを歩めるということですね。ありがとうございました。
ライター プロフィール
- 高橋 学(たかはし・まなぶ)
- 1969年東京生まれ。幼少期は社会主義全盛のロシアで過ごす。中央大学商学部経営学科卒業後、1994年からフリーライターに。近年注力するジャンルは、ビジネス、キャリア、アート、消費トレンドなど。現在は日経トレンディや日経ビジネスムック、ダイヤモンドオンラインなどで執筆。
- ◇主な著書
- 『新版 結局「仕組み」を作った人が勝っている』(光文社)(荒濱一氏との共著)
『新版 やっぱり「仕組み」を作った人が勝っている』(光文社)(荒濱一氏との共著)
『「場回し」の技術』(光文社)など。