- プロフィール
- 高等専門学校の電子情報工学科でITの知識を幅広く身に付けた後、上京して中堅IT会社に入社。主に、主力製品である大企業向けグループウェア製品の新機能開発や機能改善などを行い、社内で高い評価を得る。加えて、数多くの社外勉強会に参加し、技術以外の世の中のトレンドや日本や世界の未来を予見する俯瞰的な視点を習得。今後は人々の働き方が激変することを見越し、トレンドとITのハブに自らがなることを目指して、22歳の若さで転職を決断。広い視野を評価され、エムスリーキャリアの内定を獲得した。
大企業向けグループウェアの開発では、多くのプログラミング言語を素早く習得し、アプリケーションやチャットボットの開発に貢献した。
だが、上司の勧めをきっかけに参加した社外勉強会である疑念が浮かぶ。
これからは「個」が連携して、スピーディーに事業やサービスを作っていく時代。それなのに、大企業向けの開発に携わっていて良いのか。フリーランスの「個」が連携して働ける新しい未来を作ることが、自分の使命ではないのか——。
そうした次世代型の「真の働き方改革」を実現するために、自分に足りないのは、事業を開発する力。
使命に目覚めて転職を決断し、新規事業やサービスの開発を得意とするエムスリーキャリアから内定を取得するまでの道のりを辿った。
「個」の時代が来るのに、大企業向けのITで良いのか
北陸にある高専でプログラミングを学び、学園祭では友人と公式アプリを開発するなどエンジニアとしての頭角を現した。卒業後、就職先に選んだのは東京にある中堅ITサービス会社。様々な知識やスキルを習得して、将来的には地元に戻って何らかの形で還元したい思いがあった。
—— 入社後に携わった仕事を教えてください。
Oさん:最初は、顧客の問い合わせ状況をチャットボットを使って参照できるシステムの開発でした。入社早々、研修の一環で担当しましたが、詳細設計から実装、テスト、デバッグ、ドキュメントの作成まで全て一人で行っています。使用した技術はHerokuやRuboty、Rubyなど扱ったことがないものばかりでしたが、高専時代に得た知識のベースがあったので、何とか1カ月ほどで稼働にこぎ着けました。
その後に配属されたのが大企業向けグループウェアの開発。新しいプログラミング言語を覚えながら、新機能開発や機能改善、不具合修正、問合せ対応などに携わる毎日でした。アドオン開発や、チャットボットによる開発チームの業務改善にも注力。当初から即戦力として力を発揮することができ、上司からも高く評価されました。
—— 社内評価が高かったのにも関わらず、入社2年目で転職を決意されています。なぜでしょうか。
Oさん:きっかけは、上司の勧めで複数の社外の勉強会に参加し始めたことです。ジャンルは、最新の技術の他にも、読書会、経済関連、自己啓発系など様々で、年間の参加回数は約100回に及んでいます。中でも最も刺激を受けたのが、ビジネス書を紹介しあう読書会。日本でも世界でも、将来的にビジネスは企業中心からフリーランスの「個」が中心になる時代が来ると、多くのビジネス書で読みました。
そんな中、将来にわたって大企業向けにITツールを開発するキャリアを続けて良いのか。来たる「個」の時代に役立つようなツールや仕組みを作ることにこそ、力を尽していくべきではないか。そうした将来のビジョンを真剣に意識するようになったのです。
—— 働き方が激変することを想定し、大企業向けではなく、個に貢献できるITツールの開発こそがご自身の使命だと思うようになったわけですね。
Oさん:ただし、そうした仕組みや事業を生み出すための経験が、私には圧倒的に不足していました。とはいえ、今のまま働き続けても、事業を起こすチャンスが巡ってくることは考えにくい。当時は社外勉強会で転職について話し合うことが多く、外に出なければという意識は高まる一方でした。そこで、まだ入社して2年目だったのですが、自分のビジョンを実現できるキャリアを歩むために、転職を決断したのです。
実績が少なければ、将来のポテンシャルを強調する
早速、転職活動をスタートさせ、手始めに自分が興味を持った企業の仲介を行っている人材紹介会社3社に登録。その中にはリーベルの名前もあった。ただし、他の2社とはキャリアコンサルティングの手法が明らかに違っていた。キーワードは“定性的”だ。
—— リーベルと他の人材紹介会社は、候補となる会社選びのアプローチが異なっていたようですね。
Oさん:他の人材紹介会社は、私の希望年収やポジションなどと企業側の提示年収や求める経験のスペックに注目し、主に数字上で候補先を絞り込んでいく、いわば“定量的”なイメージの選定。一方、リーベルは、私が何を望んで転職したいのかを詳しくヒアリングした上で、その想いが実現しそうな会社を紹介してもらえる、言ってみれば“定性的”なアプローチのマッチングを行っていました。私にとっては、思いや内情に合わせて、合致する企業を紹介するリーベルの手法は、本当の意味でのマッチングだと実感。リーベルから候補先に上がったのは、エムスリーなど3社でしたが、結局この3社を中心に転職活動を進めることにしたのです。
—— その後の転職活動の経過を教えてください。
Oさん:正直に話すと、3社のうち1社は採用方針が変更となり応募ができず、もう1社は難解な技術試験をクリアできませんでした。そして、エムスリーについては、書類選考とコーディング試験に合格して面接を受けたものの、相手側が求めることと自分の希望が上手く合わず、困難な状況に。ただ、グループ会社であるエムスリーキャリアが興味を持ってくださったため、エムスリーキャリアの面接を受けてみることにしました。
—— 結果はいかがでしたか?
Oさん:エムスリーキャリアの面接では、今までの実績と転職のきっかけ、そして自分のビジョンをアピール。特に、私がエンジニアでありながら、社会の流れやビジネスモデルに詳しく、新しい事業を起こせる潜在能力があると思うと強調しました。まだ社会人2年目で実績が少ない私にとって、将来的なポテンシャルを相手に伝えることこそが、採用の成否を決める最大のカギだと自覚していたからです。
面接官は、技術だけに傾倒せず、世の中のニーズを見極める力があり、広い視野を持っていることを高く評価。22歳とまだ若くはあるが、将来的な伸びしろがあると判断していただき、最終的にエムスリーキャリアから内定を獲得することができたのです。
事業を起こせるエンジニアになる
面接官の助言で受け直した会社から、幸運にも内定を取得できた。エムスリーキャリアのどの点を魅力的に感じて、次のステージとして選んだのだろうか。上手くマッチングできたポイントについて聞いてみた。
—— エムスリーキャリアは医師や薬剤師の転職支援を主業務とする会社です。エンジニアから見て、どこに魅力を感じましたか?
Oさん:転職支援がメインですが、その他にも各病院の公式情報に医師からのクチコミをクロス集計して情報を提供する「m3.com 病院クチコミナビ」など、世の中にないサービスを展開しています。このサイトでは、従来は把握しづらかったワークライフバランスや人間関係などの要素も数値で可視化しており、新しい視点による病院選びが可能です。さらに、医学生のための研修病院探し支援サイト「m3.com 研修病院ナビ」や、医師のインタビューを掲載するWebマガジン「Epistle(イピスル)」、薬剤師のキャリアと生活について考える「薬キャリPlus+」など、他にはない様々なWebサイトを事業化しています。
—— 確かに、エムスリーキャリアのWebサイトを見ると、実に多様なサービスを展開していることがよくわかります。
Oさん:エンジニアが約20人在籍しており、こうした事業は技術陣からの発案が多いとも聞いています。自分で企画し、IT技術を駆使しながら新規事業を立ち上げる経験を積める点が、エムスリーキャリアを転職先として選ぶ決め手となったわけです。
—— 人材紹介業もネットサービスで接点を作り、集客を図る時代です。エンジニアの技術力と提案力が求められています。
Oさん:前職ではBtoB向けに大規模グループウェアを開発していましたが、エムスリーキャリアでは、自分の将来のビジョンにつながる「個」を対象としたBtoCの事業開発がメインになります。まずは医療関係の「個」のユーザーを集めるための接点づくりをITに絡めながら作りつつ、今後は人材紹介に限らず、医療関係の他分野の事業も考案できればと思っています。医療は現場の働き方改革が最も必要な業界の一つであり、IT技術を使いながら、何らかの形で貢献することが、当面の目標です。
若くても“ビジョン”を持てば転職の道は拓ける
最近では、20代前半で転職するエンジニアも増えている。しかし、皆が転職に成功するわけではない。それが現実だ。若き転職者が面接を乗り切り、希望の企業を勝ち取るにはどうすれば良いか。最後に秘訣を聞いた。
—— 同じようにこれから転職活動に挑む若手の方たちに、アドバイスをお願いします。
Oさん:自分が偉そうなことを言える立場ではないのですが、あえて言及するなら「ビジョン」を持つことは大切だと思います。ビジョンとは、簡単に言えば「なりたい自分」のイメージを固めることです。私の場合、「個」が連携して働く未来のワークスタイルに貢献する事業を起こせる自分になることが、ビジョン。面接ではそのビジョンを軸としてぶらさずに、自分がやってきたこと、やりたいことを徹底的にアピールしたわけです。若く、まだシステム構築やマネジメントの実績が少なければ、「今の自分」より「将来の自分」を売り込むことが、最善の戦略。そうして面接官にポテンシャルを印象付けることが、一つのアプローチではないでしょうか。
—— 若くても自分の将来像をしっかりと描くのは重要ということですね。
Oさん:将来自分がどうなっていたいかという構想があるから、それが基準となって転職先が決まり、その会社で何をやりたいかが見えてくるのです。その構想がなければ、目先しか見ないスペック型の転職にならざるを得ない。年収が高いから、休みが多く取れるからといった数字だけを求めることになり、転職してから「こんなはずじゃなかった」と嘆くことになりかねません。ビジョンがあるからそれが明確な柱になり、ビジョンをベースに面接官に話せば伝わりやすくなる利点もあります。
—— 大きな目標として掲げている「個」が連携するワークスタイルの支援ですが、実現できそうですか?
Oさん:私は、残業を減らす、あるいは生産性を上げるというのは、働き方「改革」ではなく、「改善」に過ぎないと考えています。会社主体から個主体に働き方をシフトすることこそが、真の働き方改革ではないでしょうか。
製品にはライフサイクルがあります。製品が生まれ、発展し、成熟して、やがて衰退するという一連の流れのことです。同様に会社をベースにした仕事のやり方にもライフサイクルがあり、それは今や終盤に差し掛かっていると唱える専門家もいます。つまり、今まで常識だった「会社で仕事をすること」が選択肢の一つとなり、代わりに「個人で仕事をする人」が増えていく現象が急速に広がっています。特に米国ではその動きがいち早く現れているわけです。
—— その時代の流れを考えれば、今後は「個」の連携を手助けするシステムやサービスのニーズは高まりそうです。
Oさん:エンジニアもそうした世の中の流れを見て、先んじて動くことが大切だと思っています。新しい職場では事業化の経験を積み重ね、将来のビジョンの実現につなげていければと思っています。さらに言えば、ゆくゆくはその経験を地元に持ち帰って、何らかの事業を起こして還元できればとも考えています。
—— 大きな夢がかなうことを願っています。ありがとうございました。
ライター プロフィール
- 高橋 学(たかはし・まなぶ)
- 1969年東京生まれ。幼少期は社会主義全盛のロシアで過ごす。中央大学商学部経営学科卒業後、1994年からフリーライターに。近年注力するジャンルは、ビジネス、キャリア、アート、消費トレンドなど。現在は日経トレンディや日経ビジネスムック、ダイヤモンドオンラインなどで執筆。
- ◇主な著書
- 『新版 結局「仕組み」を作った人が勝っている』(光文社)(荒濱一氏との共著)
『新版 やっぱり「仕組み」を作った人が勝っている』(光文社)(荒濱一氏との共著)
『「場回し」の技術』(光文社)など。