男性の育児参加の難しさ
先日、「イクメン企業アワード2015」と「イクボスアワード2015」が発表されました。「イクメン企業アワード」は、男性の仕事と育児の両立を積極的に促進し、業務改善を図る企業を表彰するもので、今年で3回目の表彰となります。一方、「イクボスアワード」は、部下の仕事と育児の両立を支援する管理職(イクボス)を表彰するもので、今回が2回目となります。
男性社員の育児参加を後押しする企業ならびに管理職を表彰する背景には、仕事が多忙で育児をする時間がないことを中心的な理由として、男性社員の育児参加に難しさがあること、それを象徴する男性社員の育児休業取得率の低さを向上させたいという思いがあります。
育児休業取得を阻む3つのロス
2014年の男性社員の育児休業取得率は2.30%であり、男性社員のほとんどは取得しないといっても過言ではありません(ちなみに女性社員の取得率は86.6%)。様々な調査からは、男子社員の3割程度が育児休業を取得したいという意向を持っていることが明らかになっています。ですが、育児休業を取得したいという意向を持っている男性社員に限っても、高めに見積もって10人中1人程度といった低い水準でしか取得していないことになります。
「育児休業を取得したい」と思っている男性社員は一定数いるにもかかわらず、ほとんどが取得できない(しない)のは何故でしょうか。育児休業取得のハードルには、所得が減ってしまう「所得ロス」、査定や昇進に悪影響が出る「キャリアロス」、業務知識の進歩から取り残される「業務知識ロス」という3つのロスがあることが知られています。
ロスに対処することで見えること
確かに短期的にはこれらのロスが発生する可能性は否定できません。しかし、だからといって育児休業取得を即座にあきらめるのはもったいないのではないでしょうか。育児休業はある程度事前に想定できる休業です。従って、自分が育児休業を取得するとどんなことが起こるか、取得することで起きる様々な問題は自分が対処可能なものか、どのような対処をすれば問題は最小限になるのか、といったことを想定し、その問題を最小限にするよう事前に周囲に働きかけることができます。
育児休業取得によってもたらされるロスに対して適切に対処することで、ロスがみなさんにもたらす悪影響はより小さくなるでしょう。それだけでなく、ロスへの対処を通じて仕事をより良い形で進める上で必要となる視点の高さや視野の広さ、物事の捉え方の柔軟性、調整スキルがレベルアップし、長期的には育児休業によるロスがもたらす悪影響よりも大きな良い影響をあなたにもたらすのではないでしょうか。
仕事の型をみなおすきっかけとしての育児休業
父親になる年代は多くの人にとって仕事にも慣れ、社内からの期待が高まる時期と重なるでしょう。慣れと期待は「こう働くべき」とか「こう働くしかない」といった自分の中で「働き方のあるべき姿」を生み出すことにつながります。自分なりの型を身につけることはとても重要なことですが、その型が今の自分にとってベストなのかを問い続けることも同じ位重要です。
例えば、「高い成果を上げるためにしゃにむに働き、残業が月間80時間を超えたけれど、そのおかげで力もついたし評価もされた」といった成功経験を持っている方は、「力をつけるためには長時間働くべき」といった型を身につけがちです。長時間働くことが力をつけるひとつの手段であることは否定しませんが、他の方法でも力をつけることができるのではないでしょうか。「長時間働く」という自分の型ができた結果、力をつけるための他の手段を模索することがおろそかになっている可能性があります。
仕事から離れ、父親という視点から今までの働き方を振り返ることで、それまでの自分の働き方を捉えなおすことができます。育児休業をうまく利用して、その時々で自分にとって最善な働き方を実現する柔軟性を身につけてはどうでしょうか。先ほどの例で言えば、「力をつけるための型」のバリエーションが増えることは自分自身のスキルアップを助けるでしょうし、みなさんが上司になった時の部下へのマネジメントを考える上でも助けになります。
まとめ
- 男性の育児休業取得のハードルには、キャリアロス・業務知識ロス・所得ロスという3つのロスがある。
- 育児休業取得がもたらす3つのロスによる短期的ダメージは否定しないが、ロスへの対処を通じて、ロスを上回る自らの仕事上のスキルをアップさせることができる。
- 仕事人としての視点以外に、夫視点・父親視点から自分の働き方を見直すことで、自分の働き方をブラッシュアップしていこう。これからの時代、自分の働き方を柔軟に変化させる力はとても大事である。
筆者プロフィール
- 坂爪 洋美
法政大学キャリアデザイン学部 教授 - 慶應義塾大学大学院経営管理研究科博士課程修了 経営学博士。専門は産業・組織心理学ならびに人材マネジメント。主要な著書は『キャリア・オリエンテーション』(白桃書房、2008年)等。