シスコシステムズ社が提供する技術者認定資格「CCIE(Cisco Certified Internetwork Expert)」。同社認定資格の5つのグレードの中でも、エキスパートレベルの技術者を認定する、極めて価値のある資格だ。圧倒的な難易度の高さから取得者は「ネットワークの神様」と称されることもあるこの資格に、なんと20代の若さで合格したのが、森田弘宣氏と岡田奨平氏(のなめしゃちょー)の二人のエンジニア。なぜ彼らはこの難関資格に挑むことを決め、合格までにどのような努力をしたのか? そしてこの資格を取得したことは、日々の業務や将来のキャリア形成にどのように役立っているのか? リーベルのコンサルタントが詳しく訊いた。
CCIE取得までの経歴
「社会人になるまで、勉強というものを全くしたことがなかった」(岡田)
「文系出身。ITの知識はほとんどなかった」(森田)
リーベル 本日はお忙しいところ、ありがとうございます。早速ですが、まずはCCIEの取得に至るまでの、お二人のご経歴をお聞かせ願えますか?
岡田氏
岡田 わかりました。私は1993年生まれで、今、26歳。大阪の情報系の大学を卒業して、2015年にIT企業に入社しました。
実は僕は、社会人になるまで勉強というものを全くしたことがなくて。大学も偏差値38のいわゆるFラン大学(笑)。IT企業入社後、ネットワークエンジニアになったのも、プログラミングの知識がないからプログラマは無理、営業もシンドそう、と、消去法で選んでのことです。
ただ、入社後は、人生で初めて「勉強をしよう!」と思い立ちまして。同期の中で常に最初に資格を取る、という決意のもと、シスコシステムズのCCNA、CCNPを順番になぎ倒していき、2018年2月にCCIEを取得しました。その過程で2回の転職をし、今は取得した資格を活かし、大手外資系メーカーで働いています。
リーベル 偏差値38からCCIEを取得して成り上がり、ついに外資系に勤めるまでになったと(笑)
岡田 ええ(笑)。リーベルさんとのご縁は、最初の転職をサポートしていただいて以来なのですが、今は本業に加えて、ダブルワークの形で、リーベルの契約社員としても仕事をさせてもらっています。主に勉強会を一緒に企画したり、ファシリテートしたりしていますね。さらに、個人事業として、勉強版ライザップのようなサービスを提供するほか、ブロガー、ユーチューバーとしても活動しています。
リーベル お世話になっています(笑)。本当に活動が幅広いですよねえ。それでは続いて、森田さん、お願いします。
森田 はい。私は1990年生まれの29歳。東京の私立大学の文系学部を卒業して、某日系大手IT企業で働いています。
もともと文系出身なので、私も社会人になるまでITの知識はほとんどありませんでした。入社後3ヶ月間に何回か行われる試験の成績が配属先に影響するということで、ただでさえ遅れているんだから頑張ろうと勉強に励んだところ、その試験で好成績を収めまして。結果、会社のメイン業務であるインフラ系の部署に配属され、ネットワークエンジニアの道を歩き始めました。そこでまずはCCNAを全員取るように命じられ。その後、CCNP、CCIEと取得していきました。CCIEを取得したのは2018年10月です。
なぜCCIEに挑もうと決めた?
「20代はカネの使いみちは自分」(森田)
「年収1000万円を目指す上での『蜘蛛の糸』だった」(岡田)
リーベル 実は私もネットワークエンジニアからキャリアをスタートしていて、上司から「3ヶ月以内にCCNAを取得しろ!」と言われ、ギリギリ3ヶ月で取ったという苦い記憶があるんですが(笑)
CCNAの上のCCNPを取得するのも、若手にとってはかなり大変だし、3年ごとに更新ということで、そこまで資格取得に時間をかけていられないと諦めてしまうケースも多いと思うんです。受験費用も高額ですしね。CCIEの受験費用って、いくらするんでしたっけ?
岡田 筆記だけで6万円、さらに実技で20万円です。
リーベル うわっ! 実技は20万円ですか! しかも1回で受かるケースなんて稀でしょうから、受験するたびにその金額がかかるわけですよね。そんなにハードルが高いのになぜ、お二人とも20代でCCIEを取得しようと思ったんですか?
森田 正直、最初は何も考えていなかったんです。CCIEがどれだけ難しいかということもよくわかってなかったんですが、とりあえず目標は高くということで、挑んでみようかなと。大学受験で、最初は東大を目標にするようなものですね(笑)。あと、私の場合、受験費用を全て会社が出してくれたのも大きかったです。
リーベル それはありがたいですね!
森田氏
森田 自腹でも取得しようと思っていたんですけど。もともと私には、「20代はカネの使いみちは自分」という考えがあって。
リーベル いい言葉だなあ!若いうちは自分に投資するべきだと。では岡田さんは?
岡田 僕の場合、社会人になって、せっかく仕事をするならお金が欲しいと思ったんです。入社当時にとりあえず、「20代で年収1000万円」という目標を立てました。
リーベル おお~! そのための1つの手段がCCIEだったと?
岡田 そうですね。「どうすればネットワークエンジニアで年収1000万円を達成できるだろう?」と考え、いろいろ調べたところ、「CCIEを取得すればその可能性が出てくるのでは?」という結論に至ったんです。今となってはCCIE取得だけではそこまではいけないとわかるんですが。
目標に従って、新卒入社した2015年の11月にCCNA、翌2016年5月にCCNP、そして2018年2月にCCIEと、急ピッチで取得を進めていきました。
リーベル 一番のモチベーションはお金だったわけですね。全く悪いわけではないと思いますし、むしろわかりやすい理由だと思います。ただ、お金、となると例えば「株をやろう!」とかいろいろな手段も思いつくと思うのですが、なぜCCIEだったのでしょうか。
岡田 そこに関しては環境もあります。僕が新卒入社した会社は、1000人規模の会社だったんですが、CCIE取得者が1人もいなかったんです。エキスパートといえる人がほとんどいない。そういうコミュニティにいると、情報が入ってこないんですよ。年収1000万円を目指そうとしても、どういう道を目指せばいいかわからない。そんな中で僕にとって「蜘蛛の糸」のように、おぼろげながら見えた道がCCIEだったんですね。
リーベル なるほど、よくわかりました。むやみやたらに手を出すわけでなく、むしろ堅実な選択をした、ということかと思います。ちなみに、森田さんの会社には、他にCCIE取得者はいるんですか?
森田 40代以上には何人かいますが、20~30代では私だけですね。
リーベル やはり難易度はかなり高いんですね。
どんな勉強を、どのくらいした?
「勉強に費やした総時間は2000時間にはなる」(岡田)
「取得まで4年半。6回目の受験でようやく合格」(森田)
リーベル では続いて、CCIEを取得するためにどんな勉強をしたのかを教えてください。取ろうと決めても、実際に取るまでは本当に大変で、犠牲にしたものも多いと思うんです。仕事をしながらですし、遊びたい、みたいな気持ちもあるでしょうし。
岡田 僕の場合、CCIEのための勉強をした期間は、2016年5月から2018年2月までのほぼ1年半です。3回目の受験で合格しました。勉強に費やした総時間は2000時間にはなるでしょうね。
リーベル 2000時間ですか!
岡田 ええ。仕事をしながらでも、平均1日5時間は勉強していましたから。
リーベル 1日のスケジュールはどんな感じなんですか?
岡田 まず、毎朝5時に起床して、出勤までに3時間勉強。昼休みも食事をさっさと済ませて1時間勉強。そして仕事が終わってから3時間。その6時間のうち、5時間は確実に勉強するというイメージですね。休みの日は、まる1日勉強漬けで12時間やる日もありますし、6時間程度で切り上げる日もありました。いずれにせよ、勉強を習慣にするために、勉強しない日は作らないようにしていましたね。
リーベル うわ~! 想像以上のハードさですね。
岡田 さらにですね…。CCIEの試験って、全て英語で行われるんですよ。勉強に使う参考書や問題集も、全部英語で書かれている。僕は学生時代にまるっきり勉強をしていなかったんで、英語の学習も並行して行わなくてはならず、それもまた大変でしたね。
リーベル 確かにエンジニアにとって英語は避けて通れないでしょうが、そこもイチからというのは、想像を絶します…。森田さんはどうでしたか?
森田 CCIEの勉強に費やした期間は、2014年の5月から2018年の10月まででしたから、4年半ぐらいですね。
リーベル 長いですねえ!
森田 私は6回目の受験でようやく合格したので。期間が長いだけに、勉強時間にもバラツキがあって。モチベーションの低い時期は、それこそ1日1時間しか勉強しなかったり。逆に高い時期は、1日5時間程度、休日は10~11時間程度は勉強していましたね。トータルで見ると、やはり私も2000時間くらいは勉強したと思います。