経営の意思決定のあり方
こんにちは、ケンゾウです。戦略ファームの仕事は、経営者が抱える課題解決の為に何をするべきか、その意思決定を支援することにあります。そのために様々な調査や分析を行い、とるべき施策について提言します。つまり、コンサルタントは、意思決定のための助言を行うプロフェッショナルと言ってもよいでしょう。
今日は、そういった戦略ファームでの仕事を通じて、経営における意思決定はどうあるべきか、私なりに考えていることを書いてみたいと思います。
結論から言うと、私は経営における意思決定のあり方は、「経営=サイエンス×アート」で表現できるんじゃないかと考えています。これは、サイエンティフィックに決定できる部分と、アーティスティックに決定する部分の両方があり、どちらも必要であるということを表現しています。
先ず「サイエンス」の部分についてですが、これはデータや事実から合理的に意思決定が出来る部分のことを指しています。意思決定をするために可能な限り情報を集め、数値化出来る部分は極力数値化していき、論理的に解決策を導き出していくアプローチです。これは、正しく課題設定ができ、正確に情報を収集することができれば、ある意味、誰が判断してもほぼ同じ結論に到達するはずです。しかし、実際には、課題を正しく設定すること自体が難しかったり、短期間で情報を正確に収集するのが容易でなかったりするため、戦略ファームに相談が来るのです。
ここまで読まれてお気付きの通り、このような科学的・合理的なアプローチでの意思決定の支援は、戦略ファームが最も得意とする領域といえるでしょう。最低限、ここでバリューを出せないようでは、戦略ファームでの仕事とは言えないでしょう。
次に「アート」の部分についてですが、これは「サイエンス」で述べたような積み上げ型の分析的なアプローチではなく、ある意味でトップダウンというか、結論が先に来るような意思決定アプローチです。例えば、非常にクリエイティブな解決策のアイディアというのは分析したら出てくるものではありませんよね。また、どんなに過去のデータを分析しても将来の予想には限界があると思いますが、そういった「合理的な解決策」を見出すことが不可能な中で意思決定をしないといけない場合、最後は自分の信念、直感、経験などを頼りに決めていくと思いますが、それらが「アート」と書いた部分です。戦略ファームでも、この部分まで踏み込んで提言することは多々あります。ただし、この領域には絶対的な解があるわけではない(というかやってみないとわからない)ため、「我々はこうではないかと考える」というトーンになってしまいますが。
サイエンスとアートのバランス
上記で述べたことは「サイエンス」が左脳的、「アート」が右脳的と考えてもいいのかもしれません。私は「経営=サイエンス×アート」と書いたように、経営上の意思決定を行っていく上では、この両方のアプローチが共に必要となってくると考えています。しかし、一方で、この両方を一人で高度に操れる方というのは、なかなかいないのではないでしょうか。多くの経営者は(というか人であれば誰しも)、得意なアプローチがどちらかに偏っているのではないかと思います。
そこで重要になってくるのが、経営チームの作り方ではないかと思います。自分がサイエンス型の経営者であるならば、アート型の人材を参謀にするとか、又はその逆にするなどして、両方の視点で経営上の意思決定にあたれるような体勢を作るということです。そのときに経営トップは、サイエンス型とアート型の両方を得意技とする必要はありませんが、少なくとも苦手な方のアプローチについても勉強し、理解をしておく必要はあると思います。そうしないと、経営チーム内できちんとした議論が出来ませんので。
わかりやすい例で言うと、米国Apple社において、故スティーブ・ジョブズは典型的なアート型の経営者であったと思いますが、あれだけ極端にとんがった(ぶっ飛んだ?)アート型の経営者でも会社としてきちんとまわっていたのは、当時COOであったティム・クックが、これまた極端なほどサイエンス型であったため、チームとして最高のパフォーマンスを発揮していたのだと思います。(御存知の通り、ティム・クックは「SCMの鬼」と言われ、細かい数値をどこまでも正確に把握して幹部に突っ込みまくっていることで知られています。それくらい精密に経営していたお陰で、Apple社の在庫管理は卓越しており、同社の超高収益を支えていると言われています。)
ちなみに、ベンチャー企業を創業する際に、「経営トップは、出来るだけ自分と異なるタイプ(性格・キャリア等)の人材を経営チームに招くべき」という考え方がありますが、これも本質的には同じようなことを言っているのだと思います。気心の知れた仲間で経営チームを作りたいという誘惑に負けず、違った視点で厳しい突っ込みを入れてくれるタイプの異なる経営パートナーがいた方が、企業としてより強くなれるというのは間違いないのではないでしょうか。皆さんも、自分の職場のチームメンバーを見渡して、どちらかのタイプに偏ってないかを見直してみたら、何か発見があるかもしれませんね。