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第853章
2018/07/20

言葉になる前に提案できるか

— ホテルに学ぶSEの提案力 —

ホテルからの提案

先日、家族サービスのために1泊2日の小旅行に行ってきました。その際に宿泊したホテルでの話です。

予約をした部屋は、タイムセールで予約したこともあって、一番下の階にある喫煙部屋。2歳の子供がいるものの、しっかり消臭するとの話だったため、そのまま宿泊することにしていました。

送迎バスから降りてホテルのロビーに向かったのですが、他の宿泊客で混雑気味。娘は寝ているし、席は空いていないし、困ったなと思っていたところ、マネージャと思われる方がさっと出てきて、一つ席を作ってくれました。

そして、自分の名前を告げて予約内容を確認して貰っていたのですが、その方から、以下の提案をいただきました。

  • いま一つお部屋が空いています。禁煙のお部屋で、子供が歩き回れるスペースも広く、いますぐ入室できます。
  • ご予約の部屋は消臭をしていますが、どうしてもわずかながら煙草の匂いがします。お子様はまだ小さいようですし、できれば禁煙のお部屋の方がよいのではと思います。
  • また、ご予約頂いたお部屋は、ダブルベットが並んでいるタイプのお部屋ですが、空いているお部屋は、靴を脱いで上がる造りとなっていて、ベッドも端に寄せられますので、お子様が広々と歩き回ることができます。
  • ご予約の部屋はまだ準備中なのですが、こちらのお部屋であればいまからでもご入室が可能です。
  • 追加料金は通常、〇〇円かかってしまうのですが、今回は〇〇円にさせて頂きます。いかがでしょうか。

もともと、格安だったので宿泊を決めたこともあり、できれば追加料金は払いたくなかったのですが、非常に良い提案だったため、即決で提案を受けました。

提案のポイント

ホテルの方の提案の最も素晴らしい点は、こちら側が何も言っていないのに、その場の状況を見て提案をしてくれたことです。

状況

  • ホテルに到着したのは14時。チェックインは15時だったのでちょっと早く着いた。
  • ベビーカーを持ってきておらず、寝ている子供を私がおぶっていた。
  • 子供は小さく、ところかまわず歩き回りそうな感じ。
  • 子供が小さいので、タバコの匂いが少しでもあると親が懸念しそう。

そのような状況からこちらの不安を察し、そうであればこういうことが可能ですがいかがでしょうかとさっと提案してくれました。そしてきっと、格安プランでの宿泊者であることを考慮して、これぐらいであれば大きな負担には思わないだろうという絶妙な価格を提示してくれたのです。

もしホテルの方からの提案がなくても、恐らくは私は不便・不安を伝えたでしょう。そして、結果として同じ条件の提案を受けていたかもしれません。

ただ、そのような形で提案を貰ったとしても、料金が上がるので提案を受けたかどうかは分かりませんし、仮に受けたとしても、自分が交渉したからいい条件を引き出せた、という思いが先立ち、ホテルに対する満足度には変化がなかったでしょう。

こちらが快く提案を受け、お金を追加で払い、しかもホテルの満足度も格段にUPしたのは、ひとえにホテルの方が、こちらが何も言わなくても状況を察して、リーズナブルな提案をしてくれたからだと思います。

SEとして学ぶべきこと

このホテルの提案の仕方は、SEとして学ぶべきことが多いものと思います。

私もSE経験があるので分かるのですが、SEをまじめにやればやるほど、どうしても「お客様のご要望を如何にして叶えるか」という姿勢が強くなりがちです。また、「たくさんある顧客の要望を如何に削るか」というところに神経を使いがちでもあります。

もちろん、それはSEとしては必要な能力です。SEのスペシャリティは技術専門性にありますので、顧客では難しい「技術的にできるかどうか」を判断することはSEにしかできないものです。また、顧客から貰える対価は限られており、顧客は最小の対価で最大の利益を得ようとするものですから、要望は雪だるま式に増えるのが普通で、それを如何に自社に利益があるように収めるかがSEの腕の見せどころでもあります。

ただ、顧客から言われたことの可否を判断し、叶えられる要望を絞り込んでシステム化する、というだけでは、顧客満足度は「普通」にしかなりません。場合によっては、「いつもすぐ『出来ない』っていうよね」と顧客が不満を抱く可能性もあります。顧客が面と向かって「もうちょっとやってよ」と言ってくれればいいのですが、大抵は黙っています。それどころか、「いや、よく頑張ってくれたよ」と褒めてくれたりもしますので、言われた側としては、これでいいんだと勘違いをしてしまうこともあります。

でも、考えてみて頂きたいのですが、自分がホテルやレストランのサービスを受けたとき、普通だった場合や不満があった場合でも、黙っていたり、逆に心にもないことをリップサービスとして言ったりした記憶はないでしょうか。

顧客は本音を言いません。それを、褒められたから、何も不満を言われていないからと言って満足していては、顧客からの本当の満足を得ることはできないのです。

ではどうすればよいか。それは前述のホテルの対応にヒントがあると思っています。ポイントは以下の3点です。

  • 顧客の状態・状況をよく見て、困っていそうなことを想像すること
  • いわれてなくてもこちらから提案できることはないかと考えること
  • 対価を求めて嫌がられることを恐れず、自分を信じて提案すること

これはプライムSIerのSEに求められる必須スキルであり、この3点を意識し、実行するだけで、SEとしての提案力が格段にUPします。また、このポイントはコンサルティングにも通ずるものであり、SEからコンサルタントにキャリアチェンジをするときにも役に立ちます。

職務経歴書や面接にて「顧客からよく相談を受け、解決をしてきました」とアピールすることは、それはそれで良いのですが、より市場価値の高い「提案できるSE」になるために、もう一歩踏み込んだ行動をしてみて頂ければと思います。

筆者 田中 祐介
コンサルタント実績
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