「お褒めの言葉」は喜んでも書いてはいけない
よく職務経歴書に「お褒めの言葉をいただきました」と書く方がいます。どこかのサイトにそういうサンプルがあるらしく、それに従って書いているようなのですが、私はこの表現に違和感があります。
もちろん、お客様や上司から、よく頑張ったね、君のおかげだ、ありがとうと言われたのは事実だと思います。ただ、その事実を「褒められた」という表現を使って表すことに、違和感を覚えるわけです。
え、実際に褒められたんだし、それは立派なアピールになると思うんだけど、何が悪いの?と思われるかもしれません。
ただ、私のこの違和感を裏付けるかのように、職務経歴書に「お褒めの言葉」と書いた方とそうでない方で、転職できる企業に違いが出ています。
一体、「お褒めの言葉」という表現の何が良くないのでしょうか。
褒めるということ
私は、褒めるという行為には、
- 上の人が下の人を評価する
- 自尊心を刺激する効果を狙って話す
の二つの要素が含まれていると思います。
言葉の意味を辞書で調べると、『人のしたこと・行いをすぐれていると評価して、そのことを言う。たたえる。』とあります。評価する、たたえる、という文言があり、ここからも、上記の2つの要素が辞書的な意味としても含まれていることが分かります。
それの何が良くないか、ですが、まず、無意識的に自分が評価される側、すなわち下の立場になっている点です。
仕事というものは、それぞれの能力と経験にあったミッションを遂行し、全体で共通の目的を達成すれば良いものです。そのため、誰が上とか誰が下とかは本質的になく、評価にしても、そのミッションをどの程度達成できたかで測るべきものです。それがプロフェッショナルと呼ばれる人たちの心理だと思います。
一方、「お褒めの言葉」を使う方は、上の立場の方が下の立場の方を、上の人の基準で評価するという上下関係を無意識的に意識しており、それを何の違和感もなく受け入れているように思えます。敢えて過激な表現を使えば、下っ端根性になってしまっているのです。これでは、いまよりもっといい立場で仕事をしたいと思って転職活動をしていても、下の立場としての考え、発言になってしまい、同じレベルの仕事をする企業からは評価されても、褒める側の立場の企業からは評価されません。
また、良くない点の2つめは、褒められること自体が仕事の目的や達成感に繋がっている点です。
本来喜ぶべきは仕事の目的を達成したことであり、もっと厳しいことを言えば、仕事をする以上、目的の達成は当たり前のため喜ぶに値しません。目的以上のプラスαを生み出したときこそ、いい仕事ができたと喜ぶべきです。
また、褒められることを喜ぶのはアマチュアです。自分の仕事の結果に対して、便利になった、分かりやすくなった、などの効果が発生したことに達成感を覚えるのがプロフェッショナルだと思います。
褒めるということが、「評価した上で更にたたえる」という意味を含むということの裏には、「評価した」という行為以上の満足感を得て欲しい、という評価者の気持ちが含まれています。それを嬉しいと思うのは、自分が評価される側の立場である事を認めていることになります。
「嫌われる勇気」で知られているアドラーは、褒めることを推奨していません。理由は、褒めるということは、相手の自律心を阻害し、褒められることに依存する人間をつくり出してしまうことになるからだそうです。
選考難易度が高い企業では、多くの場合、アドラーのいう依存する人間を不要とします。他人の評価基準で良し悪しを判断するのではなく、自らの基準を持って判断する人こそ、仕事を任せることが出来るし、いい仕事が出来ると考えます。
依存度の低い人は、基本的に褒められたという事をアピールしません。褒められて嬉しく感じることがあったとしても、それをアピールすることは依存的な人であると受け取られかねないというリスクを無意識的に理解しているからです。そのため、あくまで何を成し遂げたのか、どういう効果を生み出したのか、という事実を伝えてアピールします。
「憧れてます」もダメ
似たような類のもので、「憧れています」というのがあります。これは志望動機、即ち、なぜその企業を志望するのか、の理由を聞いたときによく出てくる言葉なのですが、これも「お褒めの言葉」と同様に、相手が上で自分が下という意識が見え隠れします。
「憧れる」という言葉は、もともと「あくがる」という言葉がもとになっていて、「あく」とは場所、「がる」とは離れるという意味だそうです。つまり、語源的に距離感があり、理想と自分との間に隔たりがある事を示しています。
もちろん、距離を縮める事は可能なのですが、この言葉を使う時というのは、「現実的には届かないかも。でも届いたらいいなあ」というニュアンスが含まれている事が多いと思います。
恋愛マンガであれば、憧れの先輩と結ばれるという話はよくありますが、現実的には、あまり多くはありません。憧れるくらいに距離があるなら釣り合わないよね、というのが、現実世界の話だと思います。
企業の選考でも同じで、「憧れているので入社したいです」と言われても、面接官としては、
「中途採用は即戦力が必要なんだから、そんなに距離のある人にある人に来られても困るよね」「憧れるだけにして、いままで通り協力会社としてお付き合いください」という心境になります。入社したいという強い思いをアピールしたつもりが、却ってマイナスの印象を与えてしまいます。
今回、「お褒めの言葉」「憧れてます」の2つの言葉をピックアップしました。神経質すぎるのでは?その言葉を使っただけでそんなに評価が悪くなるわけがない!と思われるかも知れません。
ただ、言葉というものは、その1つ1つがその人の思考・心理を表しています。たった1つの言葉からでも、その人がどういう人かが分かってしまうというのもシビアな中途採用の面接の場では極端な話ではありません。
今回、最も口の端につくNGワードを2つピックアップしましたが、他にも細かいものはたくさんあります。この2つに限らず、自分が職務経歴書や履歴書に書こうとしている言葉や、面接で言おうとしている言葉を反芻してみて、それが下っ端根性を表すものになっていないかを、いま一度チェックして頂ければと思います。