ITプロフェッショナル対談

注目企業の現場に聞く。IT業界経験者のリーベルのコンサルタントが、業界経験者ならではの切り口でキーパーソンにインタビューし、その核心に迫ります。

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PwCコンサルティング合同会社(第4回)

最新技術を、迅速に、柔軟に体験できる形にして提供、新時代のコンサルティングへの突破口を開く

コンサルティング、法務、税務、アドバイザリーなどをグローバルに展開するPwC。その日本のメンバーファームであるPwC Japanグループでは今、最新テクノロジーの活用、強化に注力している。背景には、将来予測が極めて難しい社会の中で、これからのPwC Japanグループがトップランナーを目指し、パーパスである「社会における信頼を構築し、重要な課題を解決する」には、テクノロジーが鍵であり、強力な手段だととらえているからだ。
そこで4回にわたって、PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)のテクノロジーおよび人材についてお伝えする。
第4回の今回はExperience Consulting部門にフォーカスした。Experience Consulting部門のエンジニアチームを率いる一山 正行氏に、リーベルの社長である田中祐介が、部門のねらい、現状、今後の戦略、人材観などを聞いた。

プロフィール

PwCコンサルティング合同会社
執行役員 パートナー
テクノロジー&デジタルコンサルティング
Experience Consulting
一山 正行 氏
ハイテク企業、通信企業、製造業・小売業、金融業など幅広い業種で、戦略立案からメインフレーム、オープン系を含むシステム導入までのコンサルティング業務に従事。PwCでは先端技術の応用、デジタルIT戦略策定、ITインフラのクラウド化計画策定、ITデューデリジェンス、M&Aに伴うグローバルIT統合計画策定などのプロジェクトを手がける。
2019年にエマージング・テクノロジーチームを立ち上げ、デジタル技術(IoT、ロボティクス、ブロックチェーンなど)や現在研究中の技術(量子技術など)に関わるアドバイザリーならびにコンサルティングサービスの提供を開始。DXを伴走支援するための各種技術を実装できるエンジニアや、UX向上チームのサブリードもしている。
株式会社リーベル
代表取締役
田中 祐介
Javaエンジニアからキャリアをスタート。要件定義から設計・開発、保守運用まで経験したのち、アビームコンサルティングに転職。ITコンサルタントとしてフィージビリティスタディやIT基盤構想策定などの上流からプロジェクト推進まで幅広く従事。リーベルでは、IT業界での経験を生かし、様々な転職者を支援。2016年、代表取締役に就任。

技術を体験することがコンサルティングの重要な要素に

田中:Experience Consultingという部門を組織し、人材を集めた理由を教えていただけますか。

一山氏:はい。従来のPwCコンサルティングの業務は、クライアントの情報インフラの構築や、CIOをはじめとする経営陣に向けた経営アジェンダについてのアドバイスなどが中心でした。それが近年の最新技術によって環境が大きく変わってきました。そこでこの環境の変化によって生じるクライアントのあらたな課題を解決するために、私たちも変化が必要だということになりました。

田中:具体的にはどのような環境の変化ですか。

一山氏:まず、クラウドサービスの出現に付随したさまざまなプロダクトが開発され、それらをマッシュアップしてユーザー企業自身が容易にITサービスを開発できるようになりました。センサー類やIoT機器、それらを活用した複合的なデバイスも出てきました。AIを搭載したロボティクスや、さらに拡張していえば、ブロックチェーンも最新技術に入ってきます。さらに、XR(VR/AR/MR)など人間の能力を拡張する技術ですね。こうした技術が普及してきた今、コンサルタントはこれらを知らないまま、クライアントに的確なアドバイスをすることはできません。これらの技術を具体化し、クライアントに見せ、体験していただかないと、ビジネスを説明、提案することもできないのです。

田中:最先端技術がもたらす未来がイメージしづらいため、プレゼンだけだと説明不足となり、クライアントにも聞いていただけない時代ですね。

一山氏:PwCでは、BXT(Business× Experience×Technology 図1参照)を提唱していますが、“Experience”を含めているのは、実際のデモ、モック制作、MVP(Minimum Viable Product)作成などにより、お客様に試してもらい、体験していただくことが重要になってきたと考えているからです。それによって私たちの能力も示せるし、短期間にお客様との関係を築きやすくなります。

図1 BXT(Business×Experiense×Technology)

田中:なるほど、実際に動くモノを見せれば、お客様へのインパクトは強いでしょうし、具体的な要望も出やすくなりますね。

一山氏:はい。提案だけでなく、実際に受注した後も、お客様の要望をフィードバックしたモノをすぐ翌週にはお見せし、また議論する、といった良いサイクルを生み出せると思います。

田中:そのためにExperience Consultingではエンジニアを求めているのですね。

一山氏:おっしゃるとおりです。ただ、無人の荒野を切り開くような極度に先鋭的な技術を求めているのでなく、既存技術をうまく使いながら、迅速、柔軟に、試せる形、お客様と議論する共通の土台を作る力が求められます。

クライアントが、IT面で自走できるように支援したい

田中:どのような組織構成になっていますか。

一山氏:Experience Consultingは、BXTで言えば、X(Experience)とT(Technology)の比重が大きい部署です。組織は大きく三つのチームから成ります。第一は、エクスペリエンスをデザインするチーム。エクスペリエンスコンサルタントと呼んでいます。第二は、新興技術を使って、それらをマッシュアップした開発などができるエンジニアがいるチーム。第三は、アナリティクス&インサイツと呼ばれる、BIやカスタムAIの実装などを手がけるチーム。三つのチームはそれぞれが活動するだけでなく、連携して動くこともあります。

田中:このチームの仕事は他とは毛色が違い、社外のクライアント向けの開発や試作だけでなく、PwC内に向けたDX推進、ツールやサービスセットの開発といった仕事もあると聞いています。

一山氏:その通りです。ただ現在は、社内からのニーズも多いのですが、社外向けの仕事を積極的に増やそうとしています。

田中:社外向けの事業での実例を教えてください。

一山氏:一例として、ある素材の有益な活用法を探ることができるサービスを開発するというプロジェクトがあります。また民間企業だけでなく、地方公共団体を対象にした地域活性化プロジェクトなどもあります。過疎地域にメタバースを利用して人を誘導し、町興しにつなげるといった試みです。

田中:「社会課題の解決」ですね。以前、Technology Laboratoryのお話しを聞いたときにも、社会課題解決型が特徴的であるとのお話しをお聞きしました。PwCのDNAとして「社会課題の解決」があると感じます。ただ公共の仕事というと、収益面では必ずしも魅力的でないこともあるかと思います。

一山氏:確かに常に予算が潤沢とは限りません。ただ、現代においては、社会課題の解決は、重要テーマとなってきています。この傾向は当社にも、クライアントにも言えることです。ビジネスが何らかの社会課題解決とつながることは増えています。

田中:この部門は、社内からはどのような期待をされていますか。

一山氏:BXTのアクセラレーターになれる存在ですね。PwCを含めて、企業がより競争力を強化するきっかけを作れればと思っています。

田中:そこにはチェンジ・マネジメントの要素も含まれていますか。

一山氏:含まれています。特に日本企業の場合、ここが顕著です。一般に欧米企業では、情報システム部門は権限も機能も強く、社外の専門企業の力を部分的には借りつつも、自力でIT戦略の判断や実現ができます。しかし日本企業では、外部のITベンダーや自社グループにIT子会社を設立してそこに全面的に任せたりすることが珍しくありません。つまり情報システム部門が事業部門と交わっていない、二つが密接に連携していないケースがまだ多いように感じます。

田中:なるほど。しかしやや意地悪な見方をすれば、コンサルティングファームやITベンダーにとっては、クライアントから依存された方が、ビジネスを囲い込める、という考え方もできますよね。そのあたりはどのようにお考えですか。

一山氏:外部に任せきりにすることは企業の在り方としてはヘルシーではないように思います。今は何とかなっても、いずれどこかで問題が出てくるのではないでしょうか。DXを推進するうえでの迅速性やアジリティが確保できなくなります。実際、そうした危惧があるせいか、企業上層部には依存体質を変えたいと考えている方が少なくありません。私たちにはその支援ができます。情報システム部門と事業部門が交わり、連携できる仕組みづくりをして推進します。

田中:外部依存ではなく、クライアントが自走できるようにするということですね。

一山氏:そのとおりです。クライアントと対峙していると、日本の大きな社会課題として人口減少があり、自動化などのニーズが増えていることがわかります。

多彩なプロと協業し、1を10へ発展させる仕事

田中:一山さんが担当されているEmerging Technologyのチームを中心に人材について伺いたいと思います。専門分野によって、さらに内部ではチームを分けているのですか。

一山氏:チームは今、40数名います。ブロックチェーン系、メタバース系、生成AI系など、得意分野でゆるやかに分けてはいますが、基本的には一人がさまざまな専門性を持ってもらう方針をとっています。生成AIによるプロダクト開発、業務効率向上のためのデスクトップツール開発、ローコード開発プラットフォームによるDX推進、メタバースをデモ用に作成して商材につなぐ、など多彩な仕事があります。アサインメントはなるべく個人の志向に合わせたいと思っています。

田中:最初にアサインされた分野以外の分野を経験する機会もあるということでしょうか。

一山氏:そうですね。一つの技術を深掘りするというより、複数の技術を組み合わせる時代になっているので、広い分野の技術の特性を知ってほしいと思っています。そして短期間に最も効果的な形で組み合わせることができれば理想的です。ただ、基本的なテストの方法などは知っておいてほしいと思います。

田中:どのような経歴を持った方がいらっしゃいますか。

一山氏:メーカーでの組込ソフト開発、ソフトウェアハウスでの請負開発、大手SIerや中小SIerでのシステム開発、デバイスメーカーでのプロダクト開発など、バックグラウンドはさまざまです。また企画部門であれば、デジタル技術を使った新規ビジネスの経験者などもいます。

田中:Emerging Technologyならではのやりがいはどんなところだと思いますか。

一山氏:PwC Japanグループには、各業界についてのエキスパート、ディールアドバイザリーやリスクアドバイザリーなど多彩なプロフェッショナルがいます。もちろんExperience Consultingにも多様なメンバーがいます。こうした人々と出会い、共に仕事ができることがまず挙げられます。それがどう作用するかは人によって違いますが、非常に大きな刺激になると思います。こうした方々には分野と関係なく、共通したプロフェッショナリズムがあります。品質へのこだわり、クライアントにベストを尽くすこと、対価としての報酬の考え方などですね。このプロフェッショナリズムが身に付けば、将来、どのようなキャリアステップを歩んでも役立つと思います。次に、完成されたように見える技術やサービスも、どこかに隙間はあるものですから、広く多様な知識や技能を持つことは、そこに気づき、活用する能力になり得ます。もちろん、メタバースや生成AIといった最新トレンドに触れるおもしろさや刺激も大きいですね。

田中:あえて例えてみると、おもしろいテクノロジーを扱い、1を10にできる仕事、という感じですね。

一山氏:おもしろいモノを作ってみたいという人にはとても恵まれた環境だと自負しています。しかもそれをクライアントとともにできることも魅力ですね。

田中:やはりモノづくり志向の人が多いのですか。いわゆる手を動かしたい人、という意味です。

一山氏:技術から離れたくない人が多いですね。この仕事は、手を動かす一方、携わるのは上流工程なので、そこに魅力を感じてもらえる人だとよいですね。

技術のカラクリを理解し、技能としてのコミュニケーション力を発揮する

田中:携わるのは上流、ということですが、そうは言っても実際にご入社頂いた方の傾向を見ると、やはりある程度の技術者としての力量が必要そうに思っています。エンジニアの方には、どの程度の経験、スキルを求めていますか。

一山氏:まず、なんらかの開発、要件定義やテストを着実に手がけ、自らハンズオンで技術を扱えること。もう一つは、問題が起こったとき、どうしたらよいか解き明かせる力。言い換えると、障害などが起こったとき、仮説を立て、原因を探る、見当を付けて修正できるといった能力です。こういう能力を身に付けるには、技術への関心を持ち続けていること、デバイスやシステムのカラクリや構造を理解していることが鍵になります。当社の場合、ベタなコーディングの力ではなく、デバイスがどう動いているのか、この動きだと制御しにくいのではないか、などと察知できる力が必要になります。

田中:実装の量が重要ではなく、何がどういう仕組みで動いているかをイメージできるだけの技術理解があるかどうか、ということですね。同じ事象を見たときに、その事象しか見られない人もいれば、その裏でどのようなことが起こっているのかまで想起できる人もいます。後者を求めておられるということなのですね。

一山氏:もう一つはコミュニケーション力です。よりよいコミュニケーションを下支えする力と言った方がふさわしいかもしれません。特に問題が起こったとき、クライアントや周囲のメンバーと意見を交わし、相談、情報交換する力です。

田中:この仕事に限りませんが、緊急事態や想定外の問題は常に起こる可能性がありますから、そのとき、どうコミュニケーションを取っていけるか、でしょうか。

一山氏:特にクライアントに対し、リスクや課題を上手に言語化して伝えられることは重要です。クライアント側も、コンサルタントとはそういう職種だと考えていますから、そこは大切です。状況に応じて語れる必要があります。

田中:言うべきことを適切なタイミングで語る力が必要なんですね。

一山氏:「技能としてのコミュニケーション力」とも言えます。また、自分だけに集中したいタイプの人もいるでしょうが、閉じていてはだめだと思います。何もかも一人で抱えこまないことですね。

個々人によって多様なキャリアアップが可能

田中:どのような軸でエンジニアの方を評価していますか。コンサルティングファームでは技術者は評価されないのではないかと不安に思われる方もおられます。

一山氏:PwC Japanグループはプロフェッショナルに対する評価軸を持っています。これはかなり汎用性があって、Experience Consultingにも適用されますし、当然エンジニアの方にも適用されます。

田中:仕事の形も専門性もさまざまですから、キャリアの選び方も多様になりますね。

一山氏:そうです。ただ、エンジニア職であれ、ストラテジーのコンサルタントであれ、クライアントサービスを提供するプロフェッショナルというベースは同じ。その上にどう個性を出し、キャリアを築くかは個々人で違ってきます。

田中:具体的なキャリア例をご紹介いただけますか。

一山氏:当チームにはさまざまなバックグラウンドを持つメンバーがそろっています。
デザインを専攻していた人、自動車メーカーで技術職をされていた人、リサーチの経験を持っている人、SIerのエンジニアだったという人も結構います。そして、例えば、デザイン系のスキルを持つメンバーが先端技術研究を行っているTechnology Laboratoryとの共同プロジェクトに関わっていたり、メーカー系で経験を積んだメンバーがM&A案件に関わっていたり、技術リサーチの知見を持つメンバーがブロックチェーンに関わったりするなど、それぞれがPwCコンサルティングで、自分の強みを活かしたり、新たなことを吸収したりして活躍しています。

田中:ちなみにエンジニアリングではどのような言語が多く使われていますか。レガシーな技術はさすがに扱ってないと思っています。

一山氏:Reactなど、Java系は多いですね。golangも増えてきました。もちろんPythonも多いですね。

自らを客観視できる冷静さ、人間的なオープンさも必要

田中:今までうかがってきたことにも加えて、ほしい資質のようなものがありましたら教えてください。

一山氏:人間的な明るさ、オープンさはほしいですね。この仕事ではどうしても精神的なタフネスを求められる局面は出てきます。そうしたときに自分を見失わず、コントロールして、明朗さに転換できることが望ましい。そのためにも、自らの性格や能力を客観視できる力、困難にぶつかったときに周囲にうまく支援を求めるといったことも必要になります。

田中:コンサルティングファームは激務らしい、自分には向いていないのでは?という先入観を持つ方もいるようです。これについてはどうですか。

一山氏:もし、そうしたネガティブなイメージがあるようでしたら、ぜひ払拭してほしいですね。長時間労働は、長続きする働き方ではありませんし、それによって価値を出そうとすることもなくなっています。プロフェッショナルとしての責任を時間の中で果たしていく働き方をしています。

田中:最後に、PwCコンサルティングおよび、Experience Consulting部門に関心をお持ちの方にメッセージをお願いします。

一山氏:今後、ますますテクノロジーが求められる時代になるでしょう。特に日本では、労働人口が減っていく中で、人間を代替したり、人間の能力を拡張したりする技術が強く求められるようになっています。これはコンサルティングファームにとっても、技術力を用いて活躍できる場が増えることを意味しています。もし今後のキャリアに不安や閉塞感を感じている方がいたら、次の可能性を開く場として、PwCコンサルティングを選択肢に加えていただけたらうれしいと思います。

ライター プロフィール

織田 孝一(おだ・こういち)
1959年生まれ。学習院大学法学部政治学科卒業後、広告制作会社および人材採用サービス会社の制作ディレクターを経て、1989年にライターとして独立。ビジネス誌などの他、企業広報・採用関連の執筆も多い。現在注力しているジャンルは、科学技術、IT、人材戦略、農学、デザインなど。
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