第3章:モデラーを目指す方へ
前章では、モデラーのスキルレベルを「守破離」になぞらえて説明しました。あたかも茶道や武芸の達人になるように、ある限られた人が鍛錬を重ねてやっとなれるもののように思ったかもしれません。
しかしモデラーに必要なスキルはそれほど特殊なものではありません。
モデラーに必要なスキルは“本質を見極めるスキル”なので、IT業界においてはモデラーに限らず、少なからず必要となるものです。
さてIT業界は以下のような歴史を繰り返してきました。
- 問題に対応すべく、新たな技術、方式が発明される。
- 方式をパターン化して、誰でもできるようにする。
- 2.のパターンを多くの人が使えるように教育を行なう。
- 時代とともにこのパターンが古くなってくる。
- 1.に戻る
ここで、1.の時代に活躍した人は、新たなITの歴史を開拓してきた人たちであり「離」のレベルに達しています。そのため、1~5どの段階になっても問題なく適応できます。しかし、3.のレベルから始めた人はいつまでも「守」のレベルから脱け出すことができず、4.5.の時代になると取り残されてしまう傾向があります。ここで、大規模なスキル転換が必要になります。このとき、「破」のレベルに達している人は、新しい技術を学ぶ期間だけで、比較的早期にスキル転換することができますが、「守」のレベルだと、古いやり方に固執してしまって新しい技術を身に付けないため、いつまでたってもスキル転換ができないことになります。
このサイクルはIT業界ではとても早く、4~5年のスパンで回転していきます。そのため、IT業界で生き残っていくためには、少なくとも「破」のレベルには達している必要があります。
たとえば、DOA(Data Oriented Approach)のやり方を学習して、その手順通りやってきた人がいるとします。オブジェクト指向を利用した開発をしようとしたとき、DOAの知識が先入観となって、オブジェクト指向の考え方になかなか馴染めない場合があります。
ここで、DOAを極めている人であればDOAの考え方そのものを理解しているのでオブジェクト指向の考え方も容易に理解することができるのです。
現実をそのままに捉えたほうが良いときはオブジェクト指向を、データベースを効率的に設計したいときはDOAと、必要に応じてそれぞれを自由に使い分けることができるわけです。
これはIT業界に限った話ではありません。特に最近は世の中のあらゆるサイクル(消費の嗜好、情報伝達速度など)が早くなってきています。そのためどの業界も新たな概念、考え方を次々と取り入れていく必要があります。ビジネスの本質を捉えることができるスキルはどこであっても不可欠であると言えるでしょう。
今まで日本は、仕事を出す側も、受ける側も、全てを語らず暗黙知として仕事をする傾向がありました。ビジネスを「阿吽」の呼吸でやってきたのです。
単一民族のため、全てを明確にしなくても、意思疎通がはかれていたという面があったのかもしれません。
そのため、1つの事柄に対して厳密な分析をして、原因と対策を明確にすることを疎かにするという弊害が生じました。
何か問題があっても技術一筋の職人に一任し解決されればよし。という観がありました。
しかし、日本もそれだけでは生き残れない時代になってきています。
オフショアがその1つの例です。今まではシステム開発をするにも、日本の協力会社だけを相手にしていればそれで間に合いました。しかし今後、中国やインドなど海外に委託するときに、だれでもが分かるような形でモデル化する必要があります
また、近々制定されるJ-SOX法により、システム開発だけではなく、業務の流れ自体をモデル化し、見えるようにしておくことが求められるようになります。業務を可視化し、その問題点、リスクを洗い出し、そしてその対応策を考えて行くことがあたりまえになってきています。
こういったことも、モデルを利用することで、伝えるべきこと、問題点、変更すべき点が明確になります。
このように、モデリングは今非常に注目されています。
2003年10月にはモデリングの普及を目的として、UTMPという団体がNPOとして認可されています。
(http://www.umtp-japan.org/)
UMTPでは、モデル共有促進、モデリング技術普及、認定事業、国際連携を行なっています。
UMTPでは技術者のスキルレベルの標準化をし、モデリング能力のレベルを定義し、その検証のためのモデリング技術者の技能認定試験を実施しています。このような試験に挑戦するのも良いでしょう。
今後モデラーはさらに注目されるものとなるでしょう。そしてそのスキルは、あらゆる職種で必要とされるものなのです。