公認会計士
岩佐 泰次 氏
多くの日本企業が海外子会社を持つようになり、「連結会計」のシステムを導入し、グローバルで連結決算を行う企業が増えている。ディーバ(DIVA)は1997年からいち早く連結会計のパッケージソフトウェアを販売し、導入実績が850社以上に上る、連結会計システムの最大手だ。
一方、本社と子会社で連結された「管理会計」をグローバルに展開している企業はまだ少ない。管理会計とは、グループ会社の生産や販売のデータをタイムリーに集約・加工して原価分析、収益分析などを行い、経営陣の意思決定、計画立案に役立てる会計手法だ。会計ソリューションの中でも、グローバル管理会計のマーケットはまだ「立ち上げ期」と言える。
そうした中、連結会計のトップ企業として会計業界を牽引してきたディーバは、グローバル管理会計ソリューションの提供に近年力を入れている。チームのメンバーになれば、経営者や経営企画部、事業部のトップとダイレクトに議論しながら、グローバルに活躍できるチャンスを手にできる。ディーバの一員となり、日本企業の管理会計の実現を支援する醍醐味、やりがい、求める人物像などを、チームを牽引する管理会計事業部長の岩佐泰次氏に聞いた。
グローバルな管理会計で日本企業に貢献
日本企業はマーケットも生産拠点もグローバルに展開しているが、かたやバックオフィスや経営管理業務がその展開にどれだけ追い付いているかと言えば、まだ道半ばと言わざるを得ない。最低限のレベルで決算開示に必要な連結の財務諸表は出しているが、課題は山積みだ。
ディーバはこうしたグローバル企業の課題に対し、三本の柱を軸にサポートしている。まず、連結決算や海外子会社のガバナンスなど制度対応面を着実にサポートする「連結会計システムの構築と運用」が1本目の柱。さらに、グローバル企業に向けた「管理会計パッケージソフトの提供」が2本目の柱だ。そして、3本目の柱が、顧客が連結会計業務を内部の経理部門で行う必要性が薄れる中、その業務を一手に引き受ける「アウトソーシング業務」。そのうち2本目の柱に当たる管理会計ソリューションを扱う管理会計事業部は、2012年の事業部の立ち上げ以来、年率平均約40%の飛躍的な成長を維持している。
管理会計とは、簡単に言えば、「何が、どこで、どれだけ儲かったのか」を把握し、進捗を含めた差異の分析、予算との比較を行い、将来予測や計画立案に役立てる事だ。だが、この管理会計が国内ではできていても、海外を含めたグローバルではできていないのが今の日本企業が抱える大きな課題。「例えば、タイで原材料の調達と中間品の組み立ての前工程を行う。中国で後工程の組み立てを実施する。日本を介してから米国の市場で販売する。そうすると、4拠点が関わる事になります。これを一気通貫で繋いで原価と収益を計算しないと、タイと中国でどれくらいコストがかかって、最終的にどれだけ儲かったのかが把握できない。その結果、たくさん売れたのに儲からない、増収減益と言う企業にとって好ましくない現象が起こりかねません。それが一品目ではなく、何千品目、何万品目で同様のリスクを抱えているのが現状」と、岩佐氏は話す。
数値が把握できていなければ、極端に言えば企業は根拠のない計画しか立てられない。しかし、管理会計が機能し、個々の製品や顧客別の内訳が明らかになった瞬間に計画は充実する。本社と海外の現地子会社とのコミュニケーションが意味のあるものに代わり、生産拠点と販売会社との連携も円滑になる。管理会計はグローバル企業にとって、いわば将来にわたり成長を持続していくための生命線だ。各社が注目し導入を急いでいる理由は、その重要性を深く認識し始めたからに他ならない。
三位一体でモノとサービスを展開
グローバルな管理会計パッケージのメジャーな事業者は、ディーバも含めて5社程度だ。連結会計に比べてプレイヤーは少なく、どの会社が市場のトップシェアを握るかはまだ固まっていない。そうした中、ディーバのユニークな点であり強みが、ソフトウェアの開発、SI、コンサルティングの3つを1つの企業体で行う三位一体の組織である事。その強みの裏返しによって、顧客は多くのメリットを享受できる。
まず、顧客の要望が製品に反映されやすい点だ。コンサルティング会社やSIerが市販のパッケージでシステムを構築する場合、顧客が要望を出しても、それが製品自体に反映される事は難しい。三位一体のディーバなら、開発責任者が首を縦に振れば次のバージョンで即座に製品化される。
上流のコンサルティングと下流のSIを同時に手掛けている点も、顧客の利点につながる。「一般的なシステム構築の流れでは、最初にコンサルティング会社が顧客からヒアリングして要件をペーパー100枚にまとめます。次にSI会社がその資料を見て懸命に解釈し、場合によっては外注に開発委託。そうなるとエンドユーザーから三段階先の開発者が、ペーパーでは伝わらない本当の意味やニュアンスを理解しないまま作る事になります。それがエンドユーザーとの間にずれが生じる原因」と、岩佐氏は解説する。ずれが起これば作り直しとなり、時間もコストもかかってしまう。
「それに対し、ディーバでは極端に言えば、経営者と会話した人間が、そのままコーディングするイメージです。そうなれば、開発期間とコストは3分の1になり、顧客の満足度は2倍になる。言い換えれば、QCD(品質・コスト・期間)に関して、どこよりも旨くて、安くて、早いものを提供しているわけです」。
顧客の五感を動かす提案力
プロジェクトの進め方にも大きな特徴がある。まず始まりとして、現時点ではRFPによるコンペにほとんど参加していない。経営者や企画部門などから相談レベルの話を聞き、その解決策を考えて案件化すると言うのがプロジェクト始動の基本的な流れだ。「つまり、私たちはコンペに負ける事はない。ただ、相談レベルで終わって “happen”しない(案件化しない)事もあります。言ってみればそのhappenしない状況に陥る事が負けに等しい」。
そこで、同社は相談の段階から顧客データを使ったプロトタイプを作ってしまうことがあると言う。これは自社で「モノを持っている」からこそできる技だ。「机上で話していても案件にならない。それが顧客のデータを突っ込んで、アウトプットを見せるだけで事が前に進み始める。実際のモノを見せて顧客の五感を動かす事が何よりも大切」と、岩佐氏は言う。
導入スピードも速い。イメージとしては、9カ月で最初のプロジェクトを終え、3カ月を次の1年の取り組みテーマの検討に当て、翌年新たなプロジェクトへつなげていく、というサイクルだ。ディーバのプロジェクトへの評価は高く、売上げの半分が他部署や他のグループ会社への展開や、新たな機能、テーマの追加などのリピート案件で占められる。プロジェクトマネージャーの力量次第で、プロジェクトのPDCAを長期間回していく事が可能になる。
世界を飛び回り“泥臭い”体験を積む
一方、実際のプロジェクトで最大のネックとなるのが、「海外子会社」を管理会計の導入プロジェクトにどう巻き込むかだ。国によってシステムはバラバラ。言葉だけでなく、社風も文化も社員のモチベーションも異なる。システム導入に後ろ向きかもしれないし、仮に前向きだったとしても必要な会計データをタイムリーに出す能力やシステムが現状では備わっていないかもしれない。それらの状況をいかに克服するかが最大の関門だ。
もちろん、管理会計に関する全体の業務デザインが頭に入っていないと、現地子会社に対してどのようなデータを出せばよいか、的確な指示はできない。システムを構築するにはITの知識も不可欠。現地でシステムの改修が必要になるため、現地システムベンダーを管理する難題もある。すなわち、外国語によるコミュニケーション、業務素養、ITのバックグラウンド、現地ベンダーのコントロールと言う多様なスキルが求められる。顧客でそのスキルを持った人材はなかなか見当たらないため、ディーバのコンサルタントが代わって、それら全ての業務を請け負う事になるわけだ。
「顧客先の海外子会社から子会社へ、世界中を飛び回る事も珍しくない。欧州と北米の拠点を行き来するため、一年中北半球をぐるぐる回っているメンバーもいます。何度も壁に当たり、しかも9カ月でプロジェクトを終わらせる事は至難の技。本社と子会社の間に入って、調整弁になり、現地の人たちと食事などもしながら親しくなって、お互いを理解しながら物事を前に進めていかねばならない」と岩佐氏は語る。
現地で生身の人間と丁々発止の議論を重ねながら、解決策を捻り出していく。こうしたグローバルな、ある意味「泥臭い」体験は貴重なキャリアとなり、海外での本物の調整力、交渉力、コミュニケーション力が身に付くはずだ。
求める人材の3つのポイント
市場の拡大や案件の増加に伴い、管理会計事業部では新卒・中途の採用を積極化している。現在陣容は約40人になり、20代の若手採用にも力を入れているため、平均年齢は当初の30代後半から約30歳へと若返った。
中途採用者にとって同事業部に加わる魅力は、グローバルで活躍する機会が得られる事。また、経営者や経営企画部、事業部のトップなどマネジメントレイヤーと直接やり取りする機会を持てる事もその一つだ。
開発経験者でも、ユーザーと会った事がない人も多いだろう。ディーバの管理会計事業部のメンバーになれば上流工程の打ち合わせに同行するため、エンドユーザーとの接点が必ず発生する。直接議論すれば、今まで間接的にしか知る事ができなかった顧客の問題やニーズをダイレクトに把握でき、やるべき事がクリアになっていくだろう。
求める人材像のポイントは3点だ。1つは「考え抜く力」と言う。「管理会計と言っても、会計の深い知識が必要なわけでない。ユーザーの悩みや困り事に対して、絶対的な答えが見つからない中、しっかりと考えて、腹落ちさせて、これだと思う答えを導き出す“考え抜く力”が何より重要になります。分からないとすぐに他人に答えを聞く人、他人の考えのコピーしかできない人は厳しい」。
もう1つは「謙虚さ」。管理会計も日々やり方を変えていかなければならない。それには新しい領域に飛び込んで、学ぶ事が何より重要。その学ぶ力は謙虚さに起因すると、岩佐氏は考える。「人の話を聞けなくなった瞬間に成長は止まる」。
最後が、岩佐氏が「チャンピオンシップ」と独特な言い回しで表現する、言い換えれば「物事を前に進める力」だ。「私たちの最大の負け戦は案件が“happen”しない事と言いました。ではどうすればhappenするか。それは顧客の中に、問題意識を持ち、役員に掛け合ってまで自らが物事を前に進めようと力を尽くす、“チャンピオンシップ”を持った人の存在が鍵となります。これは相手側だけでなく、私たちの中でも最も重要な素養の一つ。海外に行って、後ろ盾が全くない中、一筋縄ではいかない子会社のメンバーを説き伏せ、現地のベンダーをマネジメントしていくためには、このチャンピオンシップこそが強力な武器になるのです」。
“オープン化”と“最もやりがいのある組織”を目指す
人材の補充を進めるなか、今後に向け岩佐氏は大別して2つの目標に向かう未来図を描く。1点目が「オープン化」。これまでは管理会計事業部の立ち上げフェーズであり、いたずらに案件量の拡大を求めず、自分たちの強みを確固たる物にする事に注力してきた。実績を重ねる中、ソリューションの完成度が増し、それを世の中に広げていく事が、社会全体のプラスになる手応えを感じてきたと言う。
「私はよくクライアントに『仕事は楽しいですか』と聞きます。従来は海外子会社から経営に必要な情報が集まらず、集めるにしても膨大な手間がかかった。そうした事務に忙殺される事から、“楽しい”と言う人は非常に少数でした。しかし、ディーバの管理会計ソリューションを導入すると、今までと違うレベル感で海外の販売会社や生産会社の情報を見る事ができるようになります。その結果、自分がグローバル企業にいる価値や今後の成長の可能性を体感できるようになる」。
未来の展望が見えてくると、モチベーションは自然と上がってくるものだ。「そうなると、皆さんの多くが『楽しくなってきた』と答えが変わります。この楽しさこそが、実はグローバル企業におけるホワイトカラーの生産性を上げる原動力になる。私たちは管理会計の導入を進めつつ、根っこでは実は日本企業の人材をつくる事に貢献しているという自負があります。つまり、この事業には大きな社会的意義がある。今後はアライアンスの強化など、幅広い営業チャネルへの展開を通じ、オープン化に力を注いでいきたいと考えています」。
2点目は、ディーバの事業部を、働くものにとって最もやりがいのある組織に高めていく事だ。当初はマネージャー中心の組織だったが、若手を多く採用し、裁量を与えた結果、今ではスタッフ中心の組織に変革しつつある。今後、オープン化で案件数が増えれば権限の委譲はより進むだろう。顧客のマネジメントレイヤーとの仕事やグローバルに活躍できる事に加え、判断ややり方まで任されれば、間違いなくやりがいも増幅される。
「経営・会計」「IT」「グローバル」と言う3つの領域をまとめて経験できるキャリアも、やりがいにつながる大きな要素だ。「この3つを軸に、市場価値を出していきたいと考えている人は少なくないはず」と、岩佐氏。次の5年でこれらを身に付けて成長していくシナリオを描いている人にとっては、ディーバの管理会計事業部のメンバーに加わる事が有力な選択肢になり得るだろう。
ライター プロフィール
- 高橋 学(たかはし・まなぶ)
- 1969年東京生まれ。幼少期は社会主義全盛のロシアで過ごす。中央大学商学部経営学科卒業後、1994年からフリーライターに。近年注力するジャンルは、ビジネス、キャリア、アート、消費トレンドなど。現在は日経トレンディや日経ビジネスムック、ダイヤモンドオンラインなどで執筆。
- ◇主な著書
- 『新版 結局「仕組み」を作った人が勝っている』(光文社)(荒濱一氏との共著)
『新版 やっぱり「仕組み」を作った人が勝っている』(光文社)(荒濱一氏との共著)
『「場回し」の技術』(光文社)など。
リーベルコンサルタントから一言
「コンサルティングファーム」、「SIer」、「パッケージベンダー」の全ての特徴を合わせ持った、業界の中でも唯一無二な立ち位置の企業です。「連結会計」という強みを軸に、クライアント企業の海外展開や、経営管理プロセスの高度化を支援し、コンサルティングからシステム導入までワンストップで実施しています。
私もこれまで事業部長や部長といった方々とお話をしてきましたが、どの方も自社のサービスとプロダクトに誇りを持ち、「ディーバが日本企業・日本社会の成長に貢献している」という誇りと熱い想いを持っていらっしゃいました。
ご興味がある方には、是非お話を伺って頂きたいと思います。