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著者プロフィール

松尾 健
1987年IT関連メーカに入社後、日本で最初のTCP/IPを採用したネットワークシステムの構築を手始めに数々のネットワークシステムを担当。主に官公庁関連のシステムを担当。その後、MPLS、Cisco、SUN、IAサーバなどのマーケティングプロモーションを 担当し、NETWORLD+ITTEROP97TOKYOではNOCチームメンバも務める。現在はインターネット系システムの設計/構築を担当する。

第1章:ネットワークエンジニアという仕事

これから述べるネットワークエンジニアの定義は、プラットフォームとしてのネットワークを担当するエンジニアのことであり、業務アプリケーションなどは含みません。また、ネットワークエンジニアを紹介するにあたり、コンピュータエンジニアとの対比をしながら紹介していきます。最終的にはコンピュータシステムとネットワークシステムが組み合わされてシステム全体が構成されるので、どちらが良いということではありません。

ネットワークという言葉に込められた意味

「ネットワーク」と聞いてどの様なことを想像しますか?人と人とのつながり、情報ネットワーク、米国3大ネットワーク(テレビ網)、など。ネットワークとは2つ以上のものどうしをつなぐもので1つのものだけで完結することはありません。つまり、必ずやりとりをする相手が存在すること。それがネットワークエンジニアの原点であり、ずっと付き合っていくポイントであります。

常に相手を意識して仕事をしていくのは大変ではありますが、上手く相手とつながった時の達成感はその相手の分大きく、とてもやりがいがあると思います。

ネットワークエンジニアの変遷

ネットワークエンジニアは、一昔前、電話網やパケット交換網に代表されるITU(International Telecommunications Union)などで規定化されている技術を活用したWAN(Wide Area Network)系のエンジニアとIEEE(Institute of Electrical and Electronic Engineers)などで規定化されている技術を活用したコンピュータを構内で接続するLAN(Local Area Network)系のエンジニアに大きく分かれていました。しかし、現在の一般的なネットワークエンジニアの仕事はこれらLAN、WANの知識も必要ですが、インターネットの普及で更にIETF(Internet Engineering Task Force)が中心となって業界標準となっているメールサーバ、DNS(Domain Name System)、WWWサーバといったコンピュータ関連の知識も必要とされています(図1)。

更にこれからはセキュリティ関係の知識も要求されていくことになるでしょう。

コンピュータ系エンジニアとの決定的な違い

ネットワークという意味、ネットワークエンジニアのカバー範囲を述べましたが、コンピュータ系エンジニアとの決定的な違いは、私の経験からするとネットワークエンジニアには「より論理的に物事を考える」ことが必要だと思います。

システムの障害が出たときにまず疑われるのは実はネットワークです。その中で、1つ1つデータのやりとりを頭の中でシミュレーションしていき、正常なやりとりと現在おこっている状況を比べ、ネットワーク側に原因があるかないかを判断することが必要なのです。ネットワーク側に原因がないとわかるとコンピュータ側が重い腰を上げるという事例を数多く経験してきました。コンピュータの間をつなぐのがネットワークですからコンピュータ間のデータのやりとりの仕組みをきちっと理解しておく必要があります。コンピュータエンジニアは、WindowsやPentiumなどプロセッサの動作を詳細に理解しなくても十分サポートしていくことができるのです。誤解してもらいたくないのですが、コンピュータエンジニアが論理的に物事を考えないのではありません。ネットワークエンジニアは種類の異なるものどうしをつなげることが多い分、コンピュータエンジニアよりも「より論理的に物事を考える」ことが必要だということです。

また、ネットワークエンジニアは、コンピュータ系エンジニアがByte(8bit)単位で物事を考えるのに対して、bit単位で物事を考える必要があります。例えばISDNは64Kbps(1秒間に64Kbit転送ができる速度)だとかギアビットイーサは1Gbps(1秒間に1Gbit転送ができる速度)ということを考えます。これに対しコンピュータ系エンジニアは、Byte単位(1Byte=8bit)です。このメモリは512MByteとかこのノートPCは40GByteのハードディスクを持っているという具合です。

コンピュータ系とネットワークのもう1つの大きな違いは、結果を目で見ることができるかどうかです。コンピュータ系は比較的自分のやった結果を目で見ることが可能です。コマンドを入力するとエラーメッセージとともにエラーが知らされます。そのエラーが出てくるまでのロジックや動きは判らなくても結果だけで判断することが可能です。コンピュータは一種のブラックボックスとして動きますし、そのブラックボックスの中身は公開されていないので(Windowsなど)それを理解する必要は無いのです。

しかしネットワークは、結果をネットワークだけで見ることは難しく、ログインできないとかファイルにアクセスできなくなったとか、コンピュータ側の漠然とした結果を元に障害個所を特定していかなくてはなりません。つまり、コンピュータの動作によって結果がわかるという間接的な面があります。このことがネットワークは難しいというイメージにつながっています。ただし、コツさえつかめば難しいことではありません。

ネットワークエンジニアの役割

ネットワークエンジニアも一般のコンピュータ系エンジニアと役割はほぼ一緒ですが、検討する内容としてネットワーク特有のものがあります。ネットワークエンジニアの役割は、以下の通りです。これら全てを一人のエンジニアが担当するわけではありません。システム規模にもよりますが、上流工程と下流工程では担当者が分かれるケースが多く、それぞれの工程でも複数のメンバーが担当します。上流工程を担当するエンジニアをビフォアSE、下流工程を担当するエンジニアをアフタSE、サービスエンジニアやフィールドエンジニアと言う場合もあります。

  • 上流工程(客先ヒアリング~詳細設計)

    • 客先ヒアリング:お客様が何を求めどのようなシステムを構築したいかなどお客様の考えるシステムの要件を引き出します。既に要求仕様書としてまとまっている場合もあります。
    • 客先要件の分析:ヒアリングした要件(もしくは要求仕様書)を分析し、ネットワーク構成、使用するネットワーク機器(ルータ、スイッチなど)の種類と数、使用する回線の選択、などを行います。
    • 提案書作成と提案:分析した要件を検討して、ネットワークシステムを提案書としてまとめます。ベンダによって扱うネットワーク製品が異なるために、小さな機器を複数台使用するか大きな機器でまとめるかなどコストパフォーマンスを含めて検討します。特に広域回線を利用するネットワークシステムの場合には、回線費用が毎月のランニングコストに大きく関係するので回線の選択はとても重要です。また回線業者も日々新しい安価なサービスを提供していますので最新の情報を常に意識する必要があります。この点がネットワークエンジニアの腕の見せ所です。その提案書を提案説明会にてシステムの概要、特長などをポイントとして説明して受注をめざします。
    • 基本設計:システムを受注した時には、まずお客様と打ち合わせを実施しながら基本設計を行い基本設計書としてまとめます。基本設計書にはネットワーク構成やバックアップルートの考え方など基本的な考え方を記載します。
    • 詳細設計:基本設計を基に各ネットワーク機器の詳細の設定内容など情報を検討して詳細設計書としてまとめます。ケーブルの配線のルートなども検討する場合があります。構築のスケジュールを記載した導入計画書、テストの計画を記載したテスト計画書などの仕様書も作成します。
  • 下流工程(構築~保守)

    • 構築:詳細設計で検討したスケジュールに基づいて実際にネットワーク機器を設置、詳細設計書通りに各種情報をネットワーク機器に設定します。新規ビルのネットワーク構築の場合にはケーブルの配線の確認から実施する場合もあります。また、多くの拠点を接続するような大規模ネットワークの場合には構築が数ヶ月に渡る場合もあります。
    • テスト:テスト計画書に基づき設計した通りに動作することを確認します。正常に動作することを1つ1つ項目毎にテストして最終的にお客様へ提出します。全てのテスト項目で合格した後にお客様へ引き渡します。
    • 運用:ネットワークシステムを導入した後には、日々の運用があります。一度導入しても様々な要因でネットワーク機器の設定変更や構成変更などが必要です。特にフィアウォールが導入されている場合には、新たなシステムの導入や増設の際にフィアウォールの設定変更などの作業が発生します。
    • 保守:ネットワーク機器も機械ですから故障が発生します。障害時の切り分けや障害部分の特定などを実施して機器の交換などを実施します。機器によっては、定期点検を実施する場合もあります。
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