- プロフィール
- 福島県立会津大学コンピュータ理工学部ソフトウェア学科卒。モバイル向け経路検索エンジンの開発やサービスなどを手掛けるベンチャー企業に入社し、ゼロからの新規事業提案・開発を経験する。プライベートでも、facebookやiPhone向けアプリ、電子書籍リーダーなどを開発。日々、技術とビジネスの両方のスキルの修得に励む。さらに技術に磨きをかけるため、クックパッドに転職。
そして、更なる成長のため、次のステージへ。転職までの経緯や秘訣を聞いてみた。
入社1年で新規事業開発を担当
大学ではソフトウェアの基礎を学ぶとともに、学外で地域活性化に興味を持ち、地域の子供向けイベントや観光名所のプランニングなど、町おこしに尽力した。卒業後は、モバイル向けに経路検索サービスを提供するベンチャー企業に入社する。
——ベンチャー企業を選んだ理由を教えてください。
Sさん:圧倒的なスピードで成長していきたいという想いがあり、それには大企業ではなく、ベンチャーに入る必要があると思ったからです。中でもそのベンチャーは、何度か社内見学をさせてくれたり、社員と面談する機会を与えてくれたりするなど、採用のケアが手厚かった。入社後のイメージができ、働きやすそうだったので、決めました。
——主にどういった業務をされましたか?
Sさん:最初はプログラムのロジックをわかりやすいように再構成するリファクタリング業務を担当。経路検索サービスのユーザーから不具合のメールが届いたとき、そのユーザーのログを見やすい形にアウトプットできるツールをPerlという言語を使って開発しました。
——入社1年後に部署の異動があったそうですね。
Sさん:新しい事業や技術を開発する研究開発チームに配属されました。自分の位置と地図を紐付けるマップマッチ技術、地図を見やすくする技術、新規事業開発という3テーマのうちどれかを担当するように命じられ、私は迷わず新規事業開発を選びました。元々起業や事業に興味があり、自分で新たなサービスをゼロベースから創る経験をしたかったからです。
——新規事業の具体的な中身を教えてください。
Sさん:上司から言われたのは、「自転車向けナビゲーション(自転車ナビ)を開発してほしい」ということだけ。まずは、コンセプトの検討、ニーズ調査、企画、プロトタイプ作成など、事業化に向けたアプリケーションの開発とビジネスモデルの提案を、自分が中心となって進めました。この間、要件定義や企画、基本設計、詳細設計、プログラミング、単体テスト、結合テストなど、開発の全工程を経験し、短期間でスキルを磨くことができました。
——自転車ナビで考えた機能は?
Sさん:代表的なものは2つです。1つは、iPhoneの近接センサー(電話をかけるとき耳に近づけると画面が消える装置)を活用し、ポケットに入れたときに画面が消える機能。1日8時間以上乗る自転車コアユーザーもいるので、省電力設計にして、できるだけ長時間を使えるようにしました。この機能は「ポケットモード」とう名称で商標登録され、関連の特許も登録されました。
——特許ですか。入社2年目で大きな結果を出しましたね。
Sさん:もう1つは、自転車コアユーザーは、1日に走る距離を設定してから目的地を決めるという仮説のもと、「ドーナツサーチ」という機能を付けました。現在地から何キロ以上、何キロ未満と指定すると、スマートフォンの画面上にドーナツ状の帯が表示され、その幅にある主な目標スポットを示します。ドーナツの帯の幅は指先で触って自由に調整できます。これらの機能の開発状況などは、定期的に社長、副社長にプレゼンをして報告。1年後の3月末には最終的な成果報告もしました。
ノンストップで走り続け、商用アプリをリリース
新規事業である自転車ナビのプロトタイプの開発を終えたSさんは、再び部署を異動し、自転車ナビを商用化するプロジェクトを推進することになる。自分が考えたコンセプトや機能が、スピード感を持って、実際のサービスという形になっていく。これこそベンチャーの醍醐味である。
——自転車ナビはすぐに商用化に向けて動き始めたようですね。
Sさん:5月中旬に開催される「スマートフォン&モバイルEXPO」という専門展に、β版を出品することになりました。主な作業は、ユーザーインターフェースの使いやすさを意識しながら、プロトタイプを改良していくこと。初めて触るユーザーが、直感的にサクサクと操作できるかどうかがポイントで、非常に苦労しました。例えばドーナツサーチは、当初、円の外側と内側の線の部分に指先で触れて拡縮するように設定していましたが、これでは使いにくい。そこで、ドーナツ状の帯のどこに触れても拡縮できるように改良しました。そのような細かい改良をいくつも積み重ねました。
——時間がない中での開発は厳しかったのでは?
Sさん:朝出社して終電で帰るような生活でしたので、確かにきつい面はありました。でも、それよりも楽しさのほうが上回っていましたね。それまでの1年間は実質1人で開発していたので、アイデアにも限りがあり、実装スピードも遅かった。しかし、4月からは3人体制になり、ブレストもできるし、実装も速くなった。そのスピード感が非常に心地良かったです。
——その後自転車ナビは商用化されました。
Sさん:夏にiPhone向けアプリが先行リリースされ、秋にはAndroid端末向けアプリのサービスも始まりました。商用化までは、ノンストップで走り続ける日々でした。モバイル向けアプリケーションの開発スキルは充分に磨けましたね。短期間で成果が要求されたので、仕事のスピードも格段に速くなったと思います。
成長スピードを加速させるための決断
自転車ナビの商用化に成功したSさん。生みの親として、しばらく自転車ナビの運営を任されることが予想されていた。だが、自身は違うスキルアップの方向性を考え始めていた。それは、成長のスピードを落とさないために必要な決断だった。
——転職を考え始めたきっかけを教えてください。
Sさん:自転車ナビのアプリを作る際、Objective-Cという言語を使ってiPhone側のネイティブコードを書くスキルは身に付きましたが、データを配信するサーバー側の技術については、全く無知でした。将来的に活躍できるエンジニアになるためには、その技術は不可欠。しかし、前職ではそれを学ぶ機会はなさそうでした。そうであれば勉強できる会社に移ろうと考え始めたのがきっかけです。
——転職活動の経緯は?
Sさん:人材紹介サービスに登録すると、大量のスカウトメールがきました。大半のメールがテンプレートを使っているような内容でしたが、リーベルからのメールは、私のエントリーシートをしっかりと読み、真摯に文面を書かれた跡がうかがえました。その点に好感し、早速リーベルを訪問。第一志望はクックパッドであることを告げると、同社も含め10社ほどの候補会社の紹介を受けました。
——クックパッドを第一志望とした理由は?
Sさん:前職と同じBtoCのサービスを展開していること、さらに名だたるエンジニアが在籍し、その中で仕事をすれば、自分の意識もより高くなり、成長のスピードが加速すると考えました。
——選考はどのように進みましたか。
Sさん:1次面接では、今までどのような考え方や工夫を持って、製品づくりをしてきたかといった部分を、重点的に聞かれました。面接中に自転車ナビを作った件を話すと、面接官が一斉に端末でアプリを表示し、操作し始めたのには驚きましたね。その場で、「なぜここにボタンがあるのか」、「この機能はなぜ考えたのか」……と質問攻めです。1つひとつゼロベースから考え抜いて作ったものだったので、的確に応えられました。アプリも、その背景にある考え方や工夫についても、高い評価を受けました。
——そのほかに面接で聞かれたことは?
Sさん:3次面接、4次面接になると、関心を持っている分野について聞かれましたね。私は素直に、「将来は起業したいと思っている」と答えました。将来会社を離れる可能性のある人材を快く思わない可能性はあります。ただ、そこを隠したり、嘘をついたりはしたくないと思っていました。
リーベルからのフィードバックが功を奏す
面接が終わるたびにSさんは、リーベルから自分の評価ポイントやアピールが足らない部分についてフィードバックを受けた。3次面接ではそのアドバイスが功を奏し、技術的に充分なアピールができた。精鋭エンジニアが揃うクックパッドで、Sさんは更なる成長を期す。
——リーベルからはどのようなフィードバックを受けましたか?
Sさん:面接が終わるごとに、どういうところが評価され、何が足りないかといった情報を入手していただき、適切なアドバイスをもらい、本当に役に立ちました。特に3次面接のとき。事前に「あなたの凄いところを10分間でプレゼンせよ」という宿題を与えられ、当初、自転車ナビでの仕事ぶりを説明しようと思っていました。しかし、直前にリーベルから、「先方に技術的なスキルが充分に伝わっていない」と言われ、週末を利用し、急遽アプリを1本作ることにしました。
——急造アプリの評価はどうでしたか?
Sさん:短期間でアプリを作れるスピード、要素技術が備わっていることはアピールできたと思います。結果として、内定が出ました。もしアドバイスがなければ、どうなっていたかわかりません。
——クックバッドではどのようなエンジニアになりたいですか。
Sさん:精鋭なエンジニアが集まっている会社の中で、得意分野を探し、自分にしかできない仕事をして、活躍していきたいですね。
——最後に転職を考えている人たちにアドバイスを。
Sさん:私が転職活動で最も心がけたことは、すべての質問に対して、正直に答えることです。背伸びをしたり、嘘をついたりすると、自分の中の軸がぶれてしまい、必ず悪影響が出ると思っています。将来のビジョンに対しても、率直に答えることが大切ではないかと考えます。
——スピード感を持って成長するためにも、自分の軸をぶらさないことは重要なポイントですね。有難うございました。
ライター プロフィール
- 高橋 学(たかはし・まなぶ)
- 1969年東京生まれ。幼少期は社会主義全盛のロシアで過ごす。中央大学商学部経営学科卒業後、1994年からフリーライターに。近年注力するジャンルは、ビジネス、キャリア、アート、消費トレンドなど。現在は日経トレンディや日経ビジネスムック、ダイヤモンドオンラインなどで執筆。
- ◇主な著書
- 『新版 結局「仕組み」を作った人が勝っている』(光文社)(荒濱一氏との共著)
『新版 やっぱり「仕組み」を作った人が勝っている』(光文社)(荒濱一氏との共著)
『「場回し」の技術』(光文社)など。