第2章:戦略コンサルタントの仕事
今回は、戦略コンサルタントの仕事内容、求められる資質についてお話したいと思います。
2.1プロジェクトのテーマ
戦略コンサルティングファームに依頼される仕事のテーマは多岐にわたりますので、以下にいくつか具体例を挙げてみたいと思います。
- 自動車部品メーカーの中期経営計画策定支援
- 食品メーカーのアジア進出戦略策定
- 金融機関のインターネットを利用した新規サービスの企画立案
- 通信会社における将来のグループ経営のあり方の評価
- ハイテクメーカーにおけるM&Aの可能性探索
このように、テーマは非常に広範囲に及ぶわけですが、各テーマ毎に専任のコンサルタントがいるわけではなく、同じコンサルタントがマーケティング戦略のプロジェクトを担当したり、組織・人事戦略のプロジェクトを担当したりします。もちろん、マーケティング分野が得意なコンサルタントもいれば、財務分野が得意なコンサルタントもいますので、プロジェクトチームを構成する際には各人の得意分野を考慮しますが、明確に担当分野が決まっているわけではありません。
また、これらの例に示すように、クライアント企業にとって非常に重要なテーマを扱うため、最終報告先はクライアント企業の社長や取締役事業部長など、役員クラスであることがほとんどです。
2.2. プロジェクト期間
経営コンサルタントといえば、中小企業診断士の方々のように、顧問として企業経営を継続的に指導していくというスタイルを想像される方もいらっしゃるかもしれません。同じ経営コンサルタントでも、戦略コンサルティングファームの仕事の進め方は全く異なっており、基本的に短期間のプロジェクト単位で仕事を進めます。プロジェクト期間は標準的なもので3ヶ月程度ですが、中には数週間と非常に短いものもあります。一方、長い場合は一年くらい続くこともありますが、その場合でも3ヶ月程度のプロジェクトに分けて、フェーズ1、フェーズ2と3ヶ月程度毎に契約を結ぶ場合が多いのです。
2.3. プロジェクト体制と役割
基本的に、プロジェクトはチーム体制で進めます。具体的には、下図に示すように、マネジャーとコンサルタント2~4名でチームを組むことが多いですが、プロジェクトによってはコンサルタントが1名といった小規模なものもあります。一方、マネジャーの下に6名以上つくようなケースはあまりありません。グローバルに活動しているファームの場合、テーマによっては、海外事務所のエキスパートをメンバーに加えることもあります。
各人の役割を簡単に説明すると、以下のようになります。
パートナー
パートナーはクライアントに対してプロジェクトの全責任を負います。クライアントにプロジェクトを売ってくるのもパートナーの仕事ですし、成果物の品質を管理するのもパートナーの役割です。
マネジャー
日々のプロジェクト運営を取り仕切るのはマネジャーの役割です。通常はプロジェクトをいくつかのパートに分解し、コンサルタントに割り振ります。マネジャーはコンサルタントと共に最終成果物を作り上げる役割を担っています。中間報告会や最終報告会でも、マネジャーが中心となってプレゼンテーションを行うことが多いです。
コンサルタント
各コンサルタントはプロジェクトの一部分を任され、調査やインタビュー、データ分析や資料作成といった実務の中心となります。また、担当部分の作業だけでなく、時々メンバー全員で集まって全体のストーリーや方向性を議論するときは、プロジェクト全体への貢献が求められます。コンサルタントはシニアとジュニアに分かれていることが多く、ジュニアはデータ収集や分析などの業務を中心に行い、シニアはインタビューや分析の取りまとめ、報告書作成を中心に行います。ファームによって呼び名は異なりますが、ジュニアはビジネス・アナリストと呼ばれることもあります。
また、通常はクライアント側にも体制を作っていただくことが多く、プロジェクト専任のスタッフをアサインして頂くこともしばしばあります。
2.4. プロジェクトでの仕事
我々の仕事は、与えられた問題に対する有効な打ち手や目指すべき方向性を経営陣に対して提言することにありますが、なぜその打ち手や方向性が良いのかを、論理的に説明する必要があります。そのため、基本的にはデータに基づいた「事実」をベースに議論できるように資料作成を行います。日々の作業としては、大きく以下の3つに分けることができます。
- フレームワーク構築
- 仮説構築と検証作業
- 報告書作成とプレゼンテーション
2.4.1. フレームワーク構築
フレームワークとは、簡単に言うと議論の枠組みのことで、あるテーマについて議論する際に、どんな切り口でどんな情報をベースに何を議論するかという考え方のことです。例えば、新商品開発に問題があることがわかったとします。このとき、新商品開発のあり方を見直すには、一体何について議論すればよいのでしょうか?例えば、開発プロセス、意思決定の仕組み、開発テーマ管理、予算、人材採用・育成、人事評価、といった切り口でどこに問題点があるのか検証すればよいかもしれません。フレームワークは大きなテーマを議論するときにも必要ですし、1つのテーマを分解したサブテーマを議論するときにも必要です。フレームワークの出来が悪いと、せっかくデータ分析を行っても、議論に説得力や納得感が出なくなってしまいます。では、良いフレームワークとはどんなものでしょうか?
私が考える良いフレームワークの条件とは、
- 全体をカバーできており抜け漏れがないこと
- 問題点が浮き彫りになるような鋭い切り口を持っていること
の二点を満たしているものです。そのため、実際の作業では、最初にフレームワークをかっちりと決めてしまうというよりも、分析作業を進めながら徐々にフレームワークが進化していくようなことが多く、最終的に完成した全体のフレームワークが最終報告書の骨格になるといったイメージになります。
2.4.2. 仮説構築と検証作業
フレームワークで議論の枠組みが決まったら、個々のパートについて分析作業を行っていきます。このとき大切なのは、常に仮説を持って分析を行うということです。とにかく基礎データを大量に集めて、分析すれば何か見えてくるのではないかという考えで分析を行うと、ほぼ間違いなくはまってしまいます。つまり、何も示唆が得られないまま時間ばかりが過ぎていき、追い詰められていくわけです。では、仮説を持って分析を行うとはどういうことでしょうか?例えば、過去5年間で主力商品の売上がじりじりと下がっており、その原因を分析する場合を例にとってみましょう。仮に「顧客が携帯電話にお金を使うようになってしまったため、当社の商品を買わなくなってしまったのではないか」という仮説を立ててみたとします。その仮説を検証するためには、例えば当該商品の年代別の売上推移を見ていけばよいでしょう。そこで、携帯電話の主力ユーザである10代後半~30代前半での売上が顕著に下がっていれば、この仮説は正しい可能性がありますので、更に深堀りする価値があります。しかし、仮に40代以上での売上が顕著に下がっていたとすれば、この仮説はおそらく間違っていたことになり、かわりに別の仮説が浮かんでくることでしょう。このように、常に仮説をもって、それを検証する形で分析を進めることが、「真実」への近道なのです。
仮説検証には様々なデータが必要となります。データ収集には、外部ソースのデータ(調査機関が公表している市場データ等)を検索したり、クライアントの社内に蓄積されているデータを入手することが多いのですが、それでもデータが存在しない場合は、自らの足を使ってデータ収集します。例えば、何箇所ものスーパーマーケットに足を運んで商品陳列の状況を調べて回ったり、数百人のユーザに対してアンケートを実施したり、ヘビーユーザー十数人を集めて座談会形式で意見を自由に言ってもらうなど、様々な方法でデータを集めます。もちろん、時間と予算が許す範囲で情報を集める方法に知恵を絞ってですが。
2.4.3. 報告書作成とプレゼンテーション
報告会は、中間報告と最終報告の2回だけという場合が多いですが、時には二週間毎に行うような場合もあります。報告会の前は、徹夜してプレゼンテーション資料をまとめるという事態に陥ることもしばしばですが、我々の仕事はこの報告会で評価が決まるわけですから、報告書作成には相当なエネルギーを費やします。
2.5. 求められる資質
個人的には、戦略コンサルタントに求められる資質として重要なのは、基本的に以下の2つだと思っています。
- 論理的思考に強いこと
- 精神的にも肉体的にもタフであること
最終報告会でも日々の分析作業でも、我々は常にロジカルに説明できることを要求されますので、論理的思考に強いことは必須条件と言えるでしょう。また、非常にプレッシャーが強い仕事でもあるため、精神的にタフでないとやっていけないと思います。個人的には、繊細で真面目すぎるタイプの人にはあまりお勧めできる仕事ではないと思っています。また、短期間で高いレベルのアウトプットを求められるため、深夜まで仕事をすることや、土日に仕事をすることもよくあります。そのため、肉体的にもタフであることが重要です。あとは、結婚されている方は家族の理解も大切だと思います。この業界への転職を考えられている方で既に家族をお持ちの方は、事前に家族の理解を得ておくことをお勧めしておきます。
2.6. まとめ
今回は、戦略コンサルタントの仕事内容や求められる資質について書いてみました。次回は、戦略コンサルタントへの転職を考えられている方に、「戦略コンサルタントになるためには」というタイトルで書いてみたいと思います。