アラビアのロレンス
「アラビアのロレンス」という映画をご存じでしょうか。1963年に公開された歴史的名画で、当時はもちろん今でもファンが多い作品です。イギリス人のロレンスがアラブの独立戦争で活躍するという映画で、広大な砂漠で名優の素晴らしい演技を堪能できる作品です。
ただ、この作品は単なる英雄譚ではありません。ロレンスはアラブで活躍するも、後に失意のもとイギリスへ帰国。最後はバイク事故で人知れず亡くなります。
ロレンスはもともと考古学者で、アラブ文化への強い興味がありました。他人が嫌がる砂漠の地での任務にも一人前向き。アラブ人たちと一緒に砂漠を闊歩し、ついには部隊を率いて大きな成果を上げていきます。ただ、それも束の間。大量虐殺の現場や、国家統治の難しさを目の当たりにして、ロレンスは徐々に精神が消耗。理想とはるかに異なる惨状を目にして、ついにアラブの地を去っていくのです。
これはどういう映画なのか
本作は壮大な砂漠を舞台にした、一大スペクタル映画として知られています。ただ、私自身は上記の通り、ロレンスという男が死に物狂いで追いかけた先に、厳しい現実が待っていたという挫折の話だと思っています。
ロレンスはアラブ人たちに溶け込み、彼らと一緒に砂漠を駆けずり回りました。アラブでの活躍は、彼にとっては夢だったのです。文字通り命懸けでした。そして、その先に絶望が待っていました。
戦場での多くの暴力を目にして、ロレンスの精神と肉体は傷つきます。また、戦争によって一躍注目の外交舞台となったアラブにおいて、ロレンスはもう不要の存在となってしまうのです。
挑戦における、成功と失敗
現代のオリンピック選手やプロスポーツ選手、登山家たちもそうでしょう。人生を賭けた挑戦は、常に成功と失敗が紙一重です。だからこそ、その挑戦は価値があります。
私自身も、ITから人材業界へ転職してきた当時、やっとやりたいことが出来ると意気揚々でした。ですが壁にぶつかるにつれ、自分が向いてないかなと感じ始めてもいました。自分が恋焦がれた仕事だけに簡単に諦めるわけにはいかず、かといって続けて良いのか、悩んだ日々もありました。結局、仕事で成果が出るまで1年近くかかりました。なかなかリスキーな挑戦だったなと思います。
ただ、私の場合は転職前にエージェントという仕事を研究し、そこで必要なスキル・ノウハウ・知識を一通りイメージしていました。書籍はもちろん、実際に働いている人から情報を得て、自分なりに適正があると思っていました。不慣れなことで苦労もしたのですが、最終的に「この仕事は自分に合っているはずだ」という確信があったのです。自分の至らないところ、不足している経験もわかっていたので、ある程度ゴールは見えていたのが救いでした。
挑戦するなら環境を知ること
もしあなたが異業種へと転職したとすれば、そこで挫折するのは一度や二度ではないと思います。前職までの価値観や経験が役に立たず、最初はかなり苦労するでしょう。そして、思い描いた自分の理想にはついに届かないという辛い現実もあるかもしれません。
私もこれまで、IT業界から異業種へ転職し、そこからIT業界へUターンされた方に何名もお会いして来ました。皆さん結果的にIT業界で生き生きと活躍されていたのですが、全員が異業種にいたのは1年程度。そちらは早めに見切りをつけて、IT業界に戻っています。
もちろんキャリアチェンジに成功した方もたくさんいますが、自分の努力ではどうしようもないこともあります。業界の慣習や商売の特性など、外部からは見えない想定外の現実が多々あるのです。中には、転職前に事前のリサーチが甘かったと正直に告白された方もいました。
そして、自分を知ること
ロレンスはイギリス軍の中で変わりものと扱われていました。実際、彼は軍人に向いていなかったのだと思います。考古学者の方が絶対に向いていました。
ただ、イギリス軍に居場所のない彼は、アラブの地に自分を求めました。戦いに巻き込まれるどころか、自ら挑んでいくのです。成果が出たことで自分を英雄と勘違いした彼は、その道を突き進みます。そして、全てが終わった後に自分がこの場にはそぐわない人間だったと知るのです。そこには戦争という悲劇も当然あるのですが、この映画はロレンスという個人の虚しさが存分に描かれています。
アラブの歴史と文化を知っていた彼は、本気で平和を願っていたんだと思います。だからわざわざ、考古学者から軍人になったのでしょう。ただ、ロレンスは自分を知りませんでした。経験や知識も大事なのですが、自分自身を知ることが何より重要だと本作は教えてくれます。