とことん気の長い、待ちのスペシャリスト・坂本龍馬
突然ですが、最近、司馬遼太郎著の長編小説「竜馬がゆく」を読みました。本作は日本では誰もが知る坂本龍馬の生涯を小説化した内容です。学生時代に歴史の授業で習った坂本龍馬は海援隊を設立し、薩長同盟や大政奉還に一役買った、天才的なすごい人、と勝手に思っていたのですが、その生涯を追っていくことで、私の中での坂本龍馬の印象は変わりました。坂本龍馬は時の運を見抜く才能に長け、“待つ”のが上手な人だったのだと思うに至りました。そして時代は変わっても、大事を成す人は“時を待つ”こともできる人なのだろうと思います。
周りに流されずに、自分のなすべきことをなす
坂本龍馬は土佐藩出身ですが、土佐藩の強い階級社会に見切りをつけ、脱藩します。その後も龍馬は浪人として長い年月を過ごすわけですが、同じ脱藩浪人や土佐藩の朋友が各所で歴史的に大きな意味を持つ行動を起こしている中でも龍馬は常に「自分がなすべきことは何か」を考え、剣術の修行や情報収集を続けながらも「今ではない」と待ち続けていました。おそらく周囲の仲間が歴史的な事件で名を上げ(ときには命を落とし)、世を動かしているなかで、龍馬にも焦る気持ちはあったのだろうと思います。それでもひたすら己を磨き、時運が来るのを待ち続けた龍馬は、結果的に大政奉還という天地をひっくり返すような大事の立役者となりました。これはまさに“時を待つ”ことでチャンスを掴んだ例だと思います。
とにかく焦らせてくる現代のビッグデータ社会
しかし現代は当時と比べて情報量や情報伝達スピード、モノや人の移動スピードも含めて何もかもが高速化されています。ネットで買い物をしようとすれば「残り○点です」と表示され、ホテルを予約しようとすれば「○人が検討中です」と、なんだか常に焦らされている気持ちになります。結局、必要のないものを買ってしまい、中古販売に出す(もしくは捨てる)、とりあえず取った予約は後からキャンセルする、など情報に踊らされてしまうことも増えたのではないかと思います。転職活動についても同様で、転職サイトに登録すると、エージェントや企業から大量にスカウトが届き、返信期限を切られ、焦らされます。さらにネットを見れば、同世代でも驚くべき活躍をしている人がたくさん出てきます。また、ネットだけでなく、転職した友人の話を直接聞く機会も増えたのではと思います。そんな状況では焦って自分も何か動かないと、と思ってしまいますよね。しかし転職についても焦って動いて、成功するケースは少ないのが現実です。
じっくり向き合うべきはスマホ画面でも知人の情報でもなく、自分自身
もしご自身のキャリアについて悩んでいる方、転職活動に焦っている方がいたら、まずは一旦スマホを置いて、自分自身とじっくりと向き合う時間を作ると良いのではないかと思います。
自分のこれまでの経験やそのときの感情と向き合い、今は現状に堪えて己を磨く時期とみて時を待つべきか、それともここで動かなければ状況は好転できないのかを見極めるのです。
この際、情報収集を一旦やめてみて、視点を自分自身にフォーカスすることで周囲の状況に左右されず、焦らずに考えることができると思います。
もちろんずっと自分のことだけを考えれば良いわけでもなく、転職に関していえば、業界やキャリア市場を知らなければ判断できないこともあるでしょう。
そんなときはキャリアについてフラットに意見を述べてくれ、長期的なサポートをおこなってくれそうなエージェントに相談してみるのも良いと思います。
転職という人生において大事な判断をするときに焦りは禁物です。
忙しない世の中ですが、人それぞれ動くべきときは異なること、時には坂本龍馬のように己を鍛えながら“時を待つ”ことで未来が切り開けることがあるということもたまには思い出してみていただけますと幸いです。
<参考書籍>
文春文庫『新装版 竜馬がゆく(1)~(8)』司馬遼太郎 著