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第733章
2016/01/29

成長するほど成長力が低下する現実にどう向き合うか

— ゼロベース思考で成長力を持続させる —

人はもともと凄いスピードで成長できる

娘がもうすぐ一歳になろうとしていますが、この一年の成長には目を見張るものがあります。子供が生まれる以前から『赤ちゃんは毎日成長するんだよ』と聞いてはいましたが、実際に目の当たりにすると、想像以上に成長が早いなと思います。

最も成長の早さを感じる例として『立つ』を例に挙げます。まずはいきなり立とうとしてひっくり返り、頭を打って泣きます。そのうち、足の力をつけるために屈伸運動をし始め、力がついてきたら壁に手を置いて立とうとしますが、またひっくり返って大泣き。それでもめげずに続けていると、あるとき、物を握ればひっくり返らないことに気付きます(いわゆるつかまり立ち)。

それで壁や物を伝って移動するのですが、これがまた遅い。どうしても親のスピードに追いつけない。そのため、より高速に動ける方法は無いかと考え抜いた末に匍匐前進をはじめ、更に、せっかくの脚力を生かさぬ手はないと気付いて膝を使いはじめ(いわゆるハイハイ)、大人もびっくりするほどのスピードで高速に動くことができる様になります。

しかし、二本の足で歩くことがゴールと考えているらしく、お風呂の中で壁から手を話して数秒静止したり、コタツからちょっと手を離して感触を確かめたりします。それでいけると思ったのか、すぐに2、3歩くらい歩くようになりました。ちょっと立つことが出来てからわずか数日の間の話です。

初めて立とうとしてからこの間約4ヶ月。月数だけみればそんなに驚くほどでもなさそうに思いますが、実際に間近で見ている者の心境としては、え?そんな数日でもう出来るようになったの?という驚きがあります。感覚的には、簿記三級や基本情報処理試験を、何の予備知識もなく三日くらい勉強して満点取っちゃいました、位のスピード感です。人間はもともと凄いスピードで成長出来るんだなと日々感じています。

成長するほど成長力が低下する

一方で、成長することにより失われるものもあります。一度成功パターンを確立してしまうと、試行錯誤する必要性を感じなくなり、本当はもっといいやり方があるかも知れないのに、それを見出すことができなくなります。娘も、最初は苦労したつかまり立ちもハイハイもいまでは難なくこなせてしまい、そこにはもう劇的な成長はありません。

成長という言葉には様々な要素が含まれますが、その大きな構成要素の一つに学習があります。学習とは、目的達成への効率的・効果的な行動を反復的に行えるようになることであり、学習量が増えるほど成長したと言えますし、短時間により多くの学習ができる人は成長力が高いと言えます。

一方で、学習を別の角度から見てみると、行動を固定化し、思考を停止させ、成長可能性を狭めてしまうものとも言えます。その量が増えれば増えるほど過去の学習から反射的に対処できてしまうため、それは積み重ねれば積み重ねるほど成長の機会を減らし、成長力を鈍らせてしまうという危険性を孕んでいます。

成長力はゼロベース思考で持続させることができる

そうすると、極論をすれば、成長力は生まれた頃が最も強く、学習するほど鈍くなり、年を取るほど成長は望めないという話になってしまいます。

しかし、成長力の低下は免れないものの、努力により低下スピードを遅くし、持続させることは可能です。そのカギはゼロベース思考、すなわち、学習したことは一つのバリエーションに過ぎないと捉え、常にその都度ベストな方法は何かをゼロから考えて試行錯誤することにあります。

もちろん、毎回毎回、対応方法までゼロベースで試行錯誤するのは非効率です。スピーディーに物事を進めるためには、ある程度は過去の学習をベースにする必要があるでしょう。ただ、過去に学習したことにばかり依存をしていると、どんどん成長力が低下してしまいます。

そのため、何か物事を始める時には、過去の経験のどれが使えるか?から考えるのではなく、一旦ゼロベースで対応の方向性を検討し、最低限の合格ラインを過去の学習で担保しつつ、必ずいくばくかの試行錯誤の余地を残して頂きたいと思います。そうすれば、赤ちゃんほどの成長力を維持するのは無理ですが、少なくとも成長力を持続させることは可能です。

成長力の持続が大器を晩成させる

なぜこんなことを書いているのかというと、転職のご支援をさせていただく中で、ご自身の成長力の低下に気付いていない方にお会いすることがままあるからです。特に多いケースとしては、特定の環境下で長年仕事をしてきて、その仕事なら何でも分かるし、任せて貰っているというケースです。

もちろん、多くの人がいる中で、その方が第一人者として認知されているのはとても素晴らしいことです。しかし、同じ環境で長年仕事を続けていると、学習したことで対処できることが増えてきてしまうため、成長力がどんどん低下してしまいます。それに気付きにくいのは、成長力が低下しても学習量は時間とともに積み増されるため、それなりの評価を得られてしまうからと考えられます。

企業が面接をする時、これまでの経験だけでなく、その人が入社後に成長していけるかどうか、即ち、高い成長力を持っているかどうかを見ます。それは、直近数年の間にどれぐらい新しいことに取り組んでいるか、どれだけ過去の学習に依存せず、工夫して対応しているかを聞くことにより確かめることができます。

そもそも成長力が持続できているかどうかは、転職活動をする・しないに関わらず、常に意識すべきことです。現職を続けるにしても、成長力の低下はボディーブローの様に効いてきて、数年・数十年をかけて大きな差を生み出してしまいます。大器は晩成す、という言葉がありますが、これは才能の話をしている訳ではなく、成長力を持続できた人にのみ晩成が可能ということを表している言葉だと思います。

成長力を低下させないためには、何か凄い事をする必要があるわけではありません。日々の業務の中で、常にゼロベースで思考し、もっと他にいいやり方はないか、ベストな結果を生み出すにはどうすれば良いかといったことを考え続けて頂ければと思います。

筆者 田中 祐介
コンサルタント実績
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